TITLE: Arc 9 Chapter 25
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TO: EN
DATE: 2025-04-24

ORIGINAL TEXT:
第九章２５　『エミリアは激怒した』


「私、今すごーく怒ってるから、相手がアルでも手加減してあげられないの」

　そう言って、監獄塔の周辺を雪景色に変えた『氷結の魔女』が厳しい目をする。
　その紫紺の瞳に灯された怒りの感情に、アルデバランは喉の奥に渇きを覚える。
　それこそ帝国でも、彼女がすらりと長い手足を精一杯伸ばし、美しい顔かんばせに真剣味を宿して戦う姿は幾度も目にした。だが、その真剣味にはいつだって彼女らしい健気さや思いやりの色が濃く、激情で一色だったことはない。
　だから、初めてだった。

「――――」

　エミリアの瞳が怒り一色で、誰かを強く睨みつける場面に出くわすのが。
　ましてや、その怒りを一身に向けられるのが自分になる瞬間など、想像だに。

「……想像だにしなかった、ってのは虫がよすぎるか」

『神龍』ボルカニカの竜殻を乗っ取り、『剣聖』ラインハルトを足止めする目的で『嫉妬の魔女』を動かした世界の敵だ。――それ以前に、ナツキ・スバルを封じ込めた時点で、世界規模でなくとも、アルデバランの敵になるものたちは数多くいた。
　エミリアはその筆頭だ。この対峙は、必然というべき決断の代償だった。

「あれれェ、おっかしいぞー？　ずいぶんと怒らせちゃったみたいだねェ、オジサン。あのお姉さん、怒らせるとおっかないんだよ、知ってたァ？」

「黙ってろ」

「おお、怖い怖い」

　アルデバランの肩に担がれ、身動きのできないロイが揶揄するように嗤う。
　ロイが捕らわれた経緯が、プレアデス監視塔でのナツキ・スバルたちとの戦闘――その場には当然ながらエミリアも居合わせた。彼女を知っていて当然だ。
　それ以前に、ロイはプリステラでも多くの『名前』や『記憶』を喰らったのだから、その中にもエミリアを知るものがいて不思議はない。
　だから今、重要視すべきはロイの粘っこい軽口などではなく――、

「――。よう、こんなとこで奇遇じゃねぇか、嬢ちゃ――」

　最初の一声、それを選ぶのに苦心して、アルデバランは口を開く。
　だが、苦労した選んだ第一声、その努力は生憎と意味がなかった。
　何故なら――、

「――っ」

　相手の出方を窺うアルデバランの一声、その途中でエミリアが前のめりになり、その足下で薄く積もった雪が爆発、地面を蹴った彼女の銀髪が美しく踊る。
　雪化粧された視界、踊る銀髪が煌めいたかと思った直後――、

「えいや！！」

　――容赦のない、氷のガントレットの拳撃がアルデバランの鳩尾をぶち抜いていた。


　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△


　――時は、鳩尾への一撃よりわずかに遡る。

「スバルたちが……！？」

「って、アタシんとこの身内からの連絡だ。塔の全員、してやられたってよ」

　その情報を知らせてくれたのは、そのとき、王都に滞在していたフェルトだった。
　水門都市プリステラ以来の再会だったが、お互いの旧交を温め合う暇もない報告。
　そもそも、エミリアが王都を訪れた理由自体が、温かな理由とは言えないもの――プリシラ・バーリエルが、ヴォラキア帝国で命を落とした事実、その王城への報告だ。

　王選に大きな影響を与え、何より、プリシラを知り、彼女を愛した多くのものが悲しむだろう報告を持ち帰ったことに、エミリアはひどく胸を痛めていた。
　フェルトの伝えてくれた事実は、そのエミリアにとって大いなる追い打ちだった。

「アル……」

　どうしてそんな、なんて無神経なことはエミリアには言えない。
　今、アルが何かをしでかしてしまうなら、そこにプリシラの死が関係ないわけがなかった。大切な存在を失ったアルの憔悴ぶりは見ていられないほどで、だからこそ、エミリアたちはスバルの訴えに耳を貸し、彼らをプレアデス監視塔へ送り出した。
　そこでなら、アルが立ち直る――違う、せめて、前を向く切っ掛けが得られるかもしれないと、そう信じてのことで。
　それなのに――、

「――フェルト様、もう少し詳しい話をお伺いしても？」

　唇を噛み、ぎゅっと拳を握りしめたエミリアの横で、そうフェルトに声をかけたのは、一緒に王都にきてくれていたオットーだった。
　信じたくない報せに心をワタワタさせるエミリアと対照的に、フェルトを見つめるオットーの横顔は静かで、声も落ち着いている。でも、エミリアは知っている。――こういう態度のときのオットーが、一番怒っているときだと。

　エミリア陣営のみんなには周知の怒り方をしているオットー、その静かに見える圧を感じたみたいで、「そーだな」とフェルトは腕を組むと、

「騎士の兄ちゃんと精霊のちびっ子は、兜ヤローに取っ捕まってるって話だ。どんな方法かまではわからねーが、殺すつもりはねーらしい」

「殺意はない？　……塔の、他の人たちはわかりますか？」

「連絡してきたフラムは問題ねー。メィリィと、エミリア姉ちゃんのメイドも無事だ。けど、うちのセンセイと、あのガーフィールってヤツはだいぶやられた。こっちも、命までは取られてねーみてーだけどな」

「――。そう、ですか。ありがとうございます」

「礼を言われるよーなことじゃねーよ。いるのがわかってて教えてやらねーのは、アタシの方が気持ちわりーってだけだ」

　もったいぶらずに話を聞かせてくれたあと、フェルトがエミリアの方を見る。まだ握り拳をほどけないままでいたエミリアは、フェルトのその視線の熱に息を呑んだ。
　そして、頬を硬くするエミリアにフェルトは続ける。

「アタシらの方針は決まってる。こっからラインハルトを使って、一気に領地に戻る。ロム爺と相談して、やらなきゃなんねーことが山ほどあるかんな」

「領地って、アストレア領よね？　それならアウグリア砂丘とも近いし、私たちもフェルトちゃんと一緒に――」

「――いえ、それはやめましょう、エミリア様」

「え？」

　逸る気持ちのまま前のめりのエミリアを、冷静なオットーの声が引き止める。
　しかし、止められた意味がわからず、エミリアは困惑した。だって、今、スバルたちが大変な目に遭っている塔に、すぐに駆け付けなくてはいけないのに。

「もしかして、私たちが増えるとラインハルトが大変だから？　それは……その、今からすごーく軽くなるのは難しいんだけど、頑張るから……！」

「別に、エミリア姉ちゃんとゾッダ虫の兄ちゃんが増えても、アイツの負担は大して変わりゃしねーだろーよ。けど、そーいうことじゃねーんだろ？」

「フェルト様の僕の認識はともかく……はい」

　頷き合うフェルトとオットーの二人に、エミリアの頭の上を疑問符が飛び交う。
　でも、エミリアの追いつけていない二人の考えが、それが正しいと、そう考え抜かれたものであることをエミリアは疑わないから。

「フェルトちゃん、気を付けて。ラインハルトにも伝えてね。それと、アルは……」

「さすがに、兜ヤローのことまでは何の約束もできねーよ。わりーな」

「――。ううん、ちゃんと約束できないって言ってくれるの、嬉しいから」

　再会の時間は短くて、交わした話の内容も全然嬉しいものじゃなかった。それでも、エミリアは最後にフェルトを抱きしめ、それに変な顔をした彼女を王城から送り出す。
　このあと、フェルトたちはラインハルトの手でアストレア領へ飛び、そこで色々、たくさん、しなくちゃいけないことをするという話だったが。

「スバル……」

　嵐みたいにフェルトが立ち去ったあと、残された王侯館の一室でエミリアは俯く。
　今もなお、握った拳からはなかなか力が抜けない。フェルトの話では、プレアデス監視塔に送り出したみんなが手痛い目に遭わされてしまったのだと。
　でも、その中で一番、エミリアが一番心配だったのは、自分の騎士のスバルだった。

　帝国でもレムとスピカのためにずっと頑張って、アベルと一緒に戦って、小さくなったり大きくなったり、それでもプリシラを助けてあげられなくて。
　そんな自分を痛めつけるために、帝国のたくさんの友達に自分を殴らせて、とても見ていられなかった。そのスバルが、アルのために考えた思いやりを裏切られて――。

「……私」

　沸々と、胸の奥に灯った奇妙な感覚に、エミリアは自分の心の熱を自覚した。
　悲しいのとも、胸が痛むのともちょっと違うそれは、エミリアが滅多に抱くことのない感情で、だからこそ彼女を大いに戸惑わせる。
　こんな風に、胸の中が、目の奥が、心の真ん中が、グラグラと煮立つような感覚を味わったのは、あのとき――プリステラで、レグルスと対峙したとき以来だ。
　シルフィたち、花嫁の心をとても勝手な理由で縛り付けていたレグルスに、エミリアは本気の本気で腹を立てた。あのときと同じか、それ以上の怒りが、今。

「エミリア様、聞き入れてくださって助かりました」

「オットーくん……」

　自分の中に、抱え込み切れないぐらい大きな激情を自覚したエミリアは、静かな顔つきのオットーもまた、自分と同じなのだと直感で理解する。
　それはそうだろう。オットーだって、エミリアたちと一緒にスバルたちが心配で帝国までいった一人なのだ。こんなの、とてもじゃないけれど――、

「えいっ！」

　パシン、と強い音を立てて、エミリアは自分のほっぺを両手で叩いた。あまりにいきなりだったので、オットーを「え、エミリア様？」と驚かせてしまう。
　それを申し訳ないと思いながら、エミリアはじんじんする頬から手を下ろし、

「今、頭の中がワーッてなっちゃってて、ちゃんと話せそうになかったから。でも、これで大丈夫！　……大丈夫なのは嘘だけど、ちゃんと話せるわ」

「……そうですか。だったら僕も――」

「きゃあっ」

　頷いたエミリアを真似するように、オットーも自分の頬をバシンと叩いた。その思い切りがよすぎて、鼻血が出そうなくらい大きな音にエミリアはビックリする。
　でも、オットーは鼻血は出さずに、きっとエミリアと同じくらい頬を赤くしながら、

「――。フェルト様に同行しなかった理由を説明します。僕たちがいっても意味がなかったのと……万一に備えるためです」

「……続きを聞かせて」

　頬に両手を当てたままのオットー、その説明をエミリアは遮らない。
　疑問はある。言いたいこともある。でも、まず相手の話を全部聞いてからだ。エミリアの思ったことぐらい、オットーもちゃんと答えを用意してくれている。

「ラインハルトさんが前線に立つなら、武力を基準に何人送り込んでも意味がない。フェルト様もそれはわかっているはず。それでも領地に戻ったのは――」

「――それが、備え？」

「そうです。考えてもみてください。ナツキさんたちはともかくとして、塔にいるフェルト様の関係者を攻撃すれば、ラインハルトさんが出てくるのは自明の理だ。それなのに、アルさん……あの男は踏み切った」

　ようやくエミリアにも、オットーの言いたいことがわかってきた。
　ラインハルトはとても強い。たぶん、エミリアの知る中で――違う、知らない人も含めて、世界で一番強いのがラインハルトだ。パックも言っていたから間違いない。
　そのラインハルトとぶつかるとわかっていて、アルが何も準備してないなんて変だ。だから、アルはきっと準備をしていて、ラインハルトも危ないかもしれない。

「フェルトちゃんは、ラインハルトが心配だから備えに戻ったのね。……でも、それなら私たちは？　備えなら、フェルトちゃんたちと一緒でも……」

「僕たちは、ラインハルトさんの次の、フェルト様たちの備えです」

「――。そっか。ラインハルトがくるってわかってて、そのための準備をしてるなら、その準備のための備えに準備してても……ええと」

「合ってますよ。もちろん、備えの準備の備えの準備なんて言い出したらキリがない。あの男が暴挙に出た理由は、帝国でのことが原因……そこまで策が練れたとも、準備に時間を費やせたとも思えない。時間は、僕たちと同じだけしかなかったはずですから」

「……ん、そう、よね」

　丁寧に細かくしてくれた説明のおかげで、エミリアの理解もオットーたちに追いつく。その考えの深さに感心する傍ら、エミリアはオットーがアルのことを『あの男』と呼び変えたことに、ひどく痛切な感情を覚えずにはいられない。
　オットーは仲間意識がとても強い。きっと、エミリアたちの中で一番だ。それはとても頼もしい代わりに、とても辛い割り切り方を彼にさせてしまう。
　だからと言って――、

「……私も、どう思えばいいのかわからないの、アル」

　理由はある。ないわけない。でも、理由があっても許せないことがある。
　スバルが心配だ。ベアトリスは大丈夫だろうか。ガーフィールはケガをしたと聞いた。ペトラもメィリィも、不安でいっぱいに違いない。スバルが大好きなパトラッシュも、泣いているかもしれない。――メラメラと、胸の奥が熱くなる。

「――僕の失態です」

　そう、心に火を灯すエミリアの前で、不意にオットーが呟いた。
　その内容の心当たりのなさに、エミリアは思わず目を丸くし、絶句してしまう。オットーは自分の頬に当てていた手で顔を覆い、天井を見つめていた。自分より背の高い彼にそうされてしまうと、その顔がエミリアからは見られない。
　ただ、その声の震えが、単純な怒りのものだけじゃないのがわかって。

「ナツキさんは入れ込みすぎだと思ってました。亡くなったプリシラ様の残したもののために動けば、気が紛れて救われることもあるかと無理やり納得していました。離れ離れだったベアトリスちゃんが傍についていれば大丈夫だと思い込もうとしました。ケアやフォローも、ペトラちゃんが健気にやってくれるだろうと、そう」

「オットーくん……」

「何より、ガーフィールにだけ任せてしまった。僕たち全員でしなくちゃいけなかったことを、あの、真っ直ぐで正直者で、繊細なガーフィールにやらせてしまった」

「オットーくん！」

　その声の震えが、本格的な決壊を間近にした瞬間、エミリアはオットーの両腕を掴み、手を、顔を下ろさせ、正面から向き合う。そして、見た。
　――オットーの、青みがかった瞳、そこが初めて見るような涙で潤んでいた。

「チクショウ……どうして僕はいつも、こんなに考え足らずなんですかねえ……っ」

「――――」

「届かない手は、間に合わない足は、足りない分は頭を使うしかない。それがわかってるってかしこぶってるくせに、肝心なときにいつも――」

「――っ」

　それ以上、オットーが泣きそうな顔で、自分を責める声を聞きたくなかった。
　だからエミリアは、掴んでいた腕をそのまま引き寄せ、オットーの頭を自分の胸に抱く。そのまま頭を抱え込み、無理やりに黙らせた。そのエミリアの行動に、オットーはよっぽど驚いたのか、声もなく固まった。その隙に――、

「そんな風に自分を悪く言わないで！　オットーくんは頑張ってます！　私たちみんなわかってる。わかってるから、オットーくんの言うことをちゃんと聞きたいの！」

「えみ、りあ様……」

「わかってる！　こんなこと言っても、オットーくんはそれもちゃんとわかってるんでしょう？　でも、私は私の言葉しか持ってなくて、私が考えたことしか言えないから、せめて私の気持ちを込めて言うしかできないの。だから――」

「――――」

「まだ何にも終わってない。私たち、まだまだすごーく頑張れるわ！」

　ぎゅっとオットーの頭を抱きしめたまま、エミリアは強く、そう言い放つ。それは自分に言い聞かせるみたいに、でも同時に、そうだと信じている言葉。
　他でもない、エミリアの騎士であるナツキ・スバルが何度も信じさせてくれたこと。
　エミリアがスバルと一緒に積み上げた、一番の自慢で信頼。

「私たちって、すごーく諦めが悪いもの」

　不得意なのだ。もうダメだと、頭を抱えてうずくまって、逃げ出してしまうのが。それができない自分たちだから、諦めないで頑張るしかない。
　そのエミリアの訴えが届いたのだろうか。ふっと、それまで硬くなっていたオットーの体から力が抜けて、そして、

「……腕をほどいてください。ナツキさんに殺されます」

「ううん、誰も死んじゃったりしない！　私たちはそのために……」

「わかりました！　わかりましたから！　お願いですから放してください！」

　ジタバタと暴れるオットーに、エミリアは渋々と腕を解く。本当に元気になったのかジーっと見ていると、オットーは手巾で額の汗を拭いながらため息をついた。
　それはそれは大きくて深い、ため息を。

「そんな場合じゃないんですけど、思い出しました」

「思い出したって、何を？」

「――僕が、ナツキさんやエミリア様に力を貸してる理由を、です」

　手巾で目元を拭って涙の痕跡を消し、オットーが静かな表情でそう言った。それは、さっきまでのとても怒った顔と違い、何かを決めたような勇敢な顔で。

「相手はナツキさんとベアトリスちゃんを拉致しています。そうした理由があるはず。拉致の狙いは普通は関係者への脅し、あるいは目的は本人に……」

「私たちか、スバルに用事があるってことよね」

「はい。もし、本当に『神龍』が関わっているなら、事は王国全体の問題です。僕たちはこの王都で、すべき役割を果たしましょう」

「――。ええ、そうしましょう。ちゃきちゃき動かなくちゃ」

　オットーの話してくれる先の展望を聞きながら、エミリアは懸命に衝動を堪える。

「――――」

　それは遅れてやってきた、今すぐにでもスバルたちの下へ飛び出したい衝動。ラインハルトがいるとか、フェルトが備えているとか、そういうオットーが考えてくれたようなちゃんとした理屈を押しのけようとする、強い強い気持ちだった。

　触れたかった。見つめたかった。声が聞きたかった。
　あなたがきっと傷付いて俯いてしまいそうになるとき、傍にいてあげたかった。

「――スバル」

　その胸を焦がす、怒りとはまた別の感情の名前を、エミリアはまだ知らなかった。


　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△


「えいや！！」

　真っ直ぐ飛び込んで、話を聞かずにアルの鳩尾に渾身の一撃。――これは全部、エミリアをここに送り出したオットーの指示によるものだった。

『相手の言い分や事情を聞きたい気持ちは堪えてください。それは全部、向こうに手札をめくらせないようにしてからでも間に合います』

　飛び出すエミリアの背中を押したオットーは、自分の『言霊の加護』を目一杯使ってアルたちを見つけ出していて、ただでさえ色白な顔を病人みたいに青白くしていた。
　無茶はしてほしくない。でも、無茶のしどころでは無茶をするしかない。それを止められるほど、エミリアも無茶をしない生き方はできていない。
　だから、その無茶が少しでも早く仕舞えるように、エミリアが頑張る。

「これで――」

　どうだ、と言いかけたエミリアは、氷で固めた拳の感触に違和感を覚えた。
　アルの、剥き出しの体に拳を叩き付けたはずなのに、跳ね返ってきたのは硬く頑丈な壁をぶったような反動で――、

「いきなりだな……っ！」

　絞り出すような声でそう言ったアル、その胴体を石の鎧が守っていた。
　オットーに言われた先制攻撃だったのに、失敗してしまった。でも、それでくよくよしている場合ではない。一回で届かなかったなら、二回三回と挑むまで。

「話も聞いちゃくれねぇとは寂しいぜ」

「それは！　アルの方こそ――んむっ」

「んむ？」

「話さない約束な、の――！」

　石の鎧でエミリアの拳打を受け、後ろに弾かれるアルがそんなことを言うのに、途中で無理やり口を閉じたエミリアが、両手で作った氷槌を横薙ぎにした。
　隻腕のアルが右肩に小さな相手を担いでいる。その不自由さにつけ込むのをズルだと思いながら、エミリアはあえてアルの左側に一撃を叩き込んだ。
　思いっ切り振った一発は、当たればとても痛い。だけじゃない。

「ちぃっ！」

　そのエミリアのズルい一発を、アルが左腕――魔法で作った石製の腕で受け止める。でも、防いだ側のアルが舌打ちして、せっかく作った左腕をすぐに壊して捨てた。
　理由は、氷槌の当たった部分から凍り始め、アルの体にそれが届きかけたからだ。

『感情の問題を無視すれば、ナツキさんたちの救出のために僕たちはあの男を生け捕る必要があります。その点、エミリア様の戦い方は相性がいい。とはいえ――』

「――スバルみたいな無茶はしない約束！」

　出発前のオットーとのやり取りと約束を胸に、エミリアが新たに氷の双剣を生み出す。――エミリアのアイスブランド・アーツ、その使い方にさらなる変化が追加された。
　作り出した氷の武器は当たった相手を凍らせて、その体も武器も自由を奪う。普通の武器を作るよりちょっと使うマナの量は多いが、たくさん戦うのでないなら誤差の範囲。
　相手の命を奪わずに止める。――エミリアの望んだ、新たなる武技の可能性だ。

「あっははァ！　オジサン、だいぶ分が悪いんじゃないのォ？」

「黙ってろ！」

　凍りかけた作り物の腕を捨てたアルが、茶化してくる担いだ相手にそう怒鳴る。
　そうまでしてアルが担ぎ続ける相手、それが監獄塔に捕まっていたロイ・アルファルドだと自分の目で確かめて、エミリアは唇を噛む。

　ロイは、プレアデス監視塔でエミリアたちが、アナスタシアたちと協力して頑張って捕まえた大罪司教だ。特に頑張ったのはユリウスだが、そのロイの命を奪わなかった彼の判断も、それを認めたアナスタシアの勇気も、エミリアはとても好意的に思っていた。

「なのに、二人ともガッカリしちゃう……！」

　どんな目的があったとしても、アルのことはここでエミリアが食い止める。だから一緒に、アルが連れ出したロイのこともここで引き止める。

「その思惑に、オレが乗ってやる理由はねぇよ」

　そう意気込んだ直後、アルの足下がいきなり隆起し、一気に二人が空へ打ち上がる。
　そのままエミリアから距離を取り、この場から逃げ出そうとする素振りだ。とっさに出遅れ、今から氷を伸ばしてもそこにエミリアでは追いつけない。
　でも――、

「――アイシクルライン」

　監獄塔の周辺に張り巡らせた氷雪の結界が、その逃亡を許さない。
「ぐおっ！？」と空で悲鳴が上がり、すっぽりと周囲を覆うように展開した氷の天蓋に阻まれ、アルの逃亡劇が失敗に終わる。
　そのまま、氷の天井に頭をぶつけたアルが逆さに落ちてくるのに合わせ、エミリアはその落下地点に回り込むと、空中のアルに氷の双剣をぶつけ――、

「――っ！？」

　その双剣が硬い感触に打ち返され、エミリアは目を見張り、息を呑んだ。
　さっきと同じように、アルがまた作り物の腕で受け止めたなら、こうも驚かない。アルは確かに新しい腕を作っていたが、作ったのはそれだけではなかった。――作り出したのは、石製の双剣だ。

「アースブランド・アーツ、ってなとこか」

「真似っこ……！」

「これ考えたのはナツキ・スバルだろ？　なら、オレにも使う権利はあるだろ」

　目を見張ったエミリアの前で、アルが打ち合った氷と石の双剣の反動で回転、こちらから距離を置いて、再び雪の地面に着地する。
　そのアルの周囲に音を立てて、石の武器が次々と生まれ始める。エミリアはアルが土の魔法で自分のアイスブランド・アーツと同じことができるのだと身構え、気付く。
　石で作った腕に、石で作った武器を持ったアル――その肩に、さっきまでいたはずのロイの姿がない。

「まさか……」

「ああ、さっきのどさくさで逃がした……って言えたらカッコいいんだろうが、そうもいかねぇよ。邪魔だから放っただけ。あそこ」

　肩を跳ねさせたエミリアに、肩をすくめたアルがそう顎をしゃくる。アルが示したのは先ほど隆起した土の柱、その真ん中あたりにロイが逆さに張り付けになっていた。
　土の布団をかけられ、柱に張り付けのロイはエミリアの視線に嗤い、

「頑張ってよ、お姉さん。お姉さんが勝ってくれなきゃ、僕たちはそのオジサンの言いなりになるしかなくてさァ。あれェ？　でも、お姉さんが勝っても俺たちは監獄塔に逆戻り……ははッ、どっちが勝ってもって話じゃァないか」

「……起きて反省できるなら、起きて反省して」

　じろじろと見てくるロイにそう答え、エミリアは彼を逃がさなかったことにホッとしながら改めてアルと向き直る。
　魔法で固められていたロイ、その封印が解けてしまったのはとても危ないが、時間ごと固めた状態では反省をさせるにもさせられない。せめて、絶対に逃げられない環境を用意して、そこで起きたまま反省させるのがエミリアの妥協点。

「それもこれも全部、ちゃんとここでのことが終わってから」

「そりゃ結構だが……なんだ、オレと話してくれる気になったのかよ？」

「あ！　……ここからよ。ここからは、もう喋りません」

「つれねぇな。オレは、嬢ちゃんとは話せばわかると――うお！」

　まだ話を続けたがるアルに、エミリアは意思表明の氷杭を飛ばす。それを横っ跳びによけたアルの側面に回り込み、エミリアは氷の矛をその脇に突き込んだ。
　氷の矛の先端が岩の剣の刀身に受け止められて、両方が同時に砕け散る。
　即座にエミリアは次の氷の刺突剣を、アルはまた次の岩の剣を作り、二人の斬り合いが始まり、武器が砕けては作り、作っては砕けの戦いが連鎖する。

「いいね、いいよ、いいさ、いいとも、いいかも、いいじゃない、いいだろうさ、いいって思えるからこそッ！　暴飲ッ！　暴食ッ！」

　エミリアとアルの氷岩の剣戟を眺めながら、ロイが舌なめずりする声が聞こえる。
　それを意識的に無視しながら、エミリアは鋭い攻撃をいくつも放ち、それをアルが危なっかしく、絶対当たったと思ったのをスレスレで躱したりするのに違和感を抱く。
　当たりそうで当たらない。なんだか、形のない水を蹴飛ばしているみたいな感じ。
　何より――、

「――あまり褒めたかねぇが、よくできた技だ。相思相愛で羨ましいこった、嬢ちゃん」

　そのあんまりな言いように――エミリアは激怒した。
　必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した。――と、怒ったときのお約束の定型句だと前にスバルに言われたそれを思い出し、エミリアは激怒した。

　アルの口から、そんな風に自分とスバルのことを言ってほしくなかった。
　しかももっとエミリアを怒らせたのは、それがアルが本気で思ってるわけじゃなく、エミリアを怒らせるために言ったことであったこと。
　それと――、

「前からちょっと思ってたけど、アルは私と話すとき、なんで寂しそうなの？」

「――。オレとは話さねぇって……」

「都合のいいときだけそれを持ち出さない！　あと、もう一個！」

　声を大にしながら、エミリアが大きく振りかぶった氷の大剣を振り下ろし、それをアルが岩の剣を頭の上に構えて受け止め――そのアルの両足と腰に誰かがしがみつく。
　息を呑むアル、その体に組み付いたのは氷の腕の持ち主――氷の兵隊さんだ。
　エミリアの頼りにする、スバルに似せた氷の兵隊の存在に、アルが「最悪……！」と歯噛みする。
　そこに、エミリアは氷の靴を履いた足を振り上げ――、

「――私と話すとき、ちゃんとこっちを見なさい！！」

　渾身の蹴りが今度こそ、岩の防御を打ち抜いて、アルへと叩き込まれた。


　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△


「――――」

　ピクリ、と微かに眉を立てたヤエの反応を、フェルトは目敏く見逃さなかった。
　確信があったわけではない。ただ、手も足も出ない情けない状況下で、これ以上のみっともなさなど誤差だと思って、縋れる希望の全部に縋ってみることにしただけ。
　その一つが、自分とヤエの会話を、取るに足らない何かが聞いているかもしれないと、前に『死を覚悟させられた』ときのことを思い出し、期待することで。

「お静かに」

　普段は細められた目を片方開けて、ヤエが部屋の扉の方へ足を進める。
　その有無を言わせぬ言葉の圧は、フェルトが迂闊に動けば、首にかかった糸がその仕置きをするだろうと信じさせるだけの力があった。
　故に、動けないフェルトをその場に残し、ヤエが扉を開けようと手を――刹那、音もなく扉を貫いた鋭い剣先が、ヤエの喉へと容赦なく迫った。

「――っ」

　息を呑むフェルト、その視界でヤエの白い喉が剣に貫かれ――ない。剣先はギリギリ、ヤエの喉を引き裂く直前で止まっていた。
　相手が止めたのではない。ヤエが、剣先に糸を絡めてかろうじて防いだのだ。
　まさに九死に一生、間一髪、だが、ヤエの危機はそれで終わりではなかった。――食い止めた剣とは別の剣が剣光一閃、扉が斬り倒され、斬光が荒れ狂う。

「――――」

　その押し寄せる剣嵐に、ヤエは大きく飛びずさりながら糸を振るった。
　片や剣、片や糸、にも拘らず二つの武器の衝突は、鋼と鋼が火花を散らすような快音を室内に奏で、傍観するフェルトの目を剣光で焼いた。

　両手を巧みに操ったヤエが、視界一杯の糸撃を放ち、部屋の豪奢な内装が引き裂かれる。しかし、相手も両手の剣で圧巻の剣戟を演じ、その猛威を正面から斬り払うと、自らの剣を搦め捕る糸を強引に横に払い――、

「づぁああ！！」

「――ぐっ」

　繰り出された前蹴りが、ヤエの細い腰を真正面から打ち抜く。とっさに身をひねったヤエが半回転しながら飛ばされ、壁に足をついて床に着地、腹を手で押さえる。
　そして、それをした乱入者を真っ直ぐに見据え、

「いきなり、レディのお腹にキックなんて容赦ないお客様ですね～」

「――必要ですかな。シノビのあなたに容赦などが」

「それってシノビ差別じゃないです？　そんなの、紳士のすることじゃありませんよ？」

「生憎と、この身が紳士などという評価に値したことは記憶にありません。どこまでもいこうとも、剣を振るしか能のない私は剣士でしかありえない」

　そう言って、両手の剣から糸を振り払い、静かな青い目をヤエに向ける人物――その自己評価に、フェルトは「バカ言ってんじゃねーよ」と小さくこぼした。
　確かに、紳士かどうかは知らない。ただ、剣士なんて評価だけでも収まらない。その男が、それだけと評されることを多くのものが許さないと、フェルトも知っている。

　何故なら剣士を自称するその男は、かつて剣の頂に勝ったことのある『剣鬼』――、

「――ヴィルヘルム・トリアス。王国を傾ける窮地と聞き、微力ながら馳せ参じました」

　その名乗りを聞きながら、フェルトは部屋の隅に下がりつつ、嘆息する。
　まさかの援軍に、ひどく複雑な心情を抱きながら――、

「……ゾッダ虫の兄ちゃん、本気で手段選ばねーんだな。……エミリア姉ちゃんのとこのヤツはどーなってやがんだ」

　と、そう呆れと感心の半々で呟くのだった。

TRANSLATED TEXT:
Chapter 9-25: 『Emilia was Furious』

"I'm really, really angry right now, so even if my opponent is Al, I can't go easy on you."

Saying this, the 『Witch of Frost』, who had turned the area around the prison tower into a snowy landscape, cast a stern gaze. The anger burning in her violet eyes made Aldebaran feel a dryness in the back of his throat. Even in the Empire, he had often seen her stretch her long limbs to their fullest, her beautiful face serious as she fought. However, that seriousness always carried her characteristic earnestness and compassion, never consumed entirely by passion. This was the first time.

"――――"

It was the first time he encountered Emilia's eyes filled entirely with anger, glaring intensely at someone. Much less, the moment when that anger was directed solely at him was beyond imagination.

"...Thinking it was beyond imagination is too convenient, isn't it?"

The enemy of the world who manipulated the 『Witch of Envy』 with the aim of taking over the dragon shell of the 『Divine Dragon』 Volcanica and stalling 『Sword Saint』 Reinhard. Even before that, at the point when Natsuki Subaru was confined, there were many who became enemies of Aldebaran, even if not on a global scale. Emilia was at the forefront of them. This confrontation was the price of an inevitable decision.

"Oh my, isn't that strange? It seems like I've made you quite angry, Mister. You know, that lady is really scary when she's angry, did you know that?"

"Shut up."

"Oh, how scary, how scary."

Roy, unable to move while slung over Aldebaran's shoulder, sneered mockingly. The circumstances of Roy's capture involved the battle with Natsuki Subaru and others at the Pleiades Watchtower—naturally, Emilia was also present there. It was only natural that he knew her. Even before that, Roy had consumed many 'names' and 'memories' in Priestella, so it wouldn't be surprising if among them were those who knew Emilia. Therefore, what should be focused on now is not Roy's sticky banter, but—

"—. Well, what a coincidence to meet you here, young lady—"

Aldebaran struggled to choose his first words, and finally opened his mouth. However, the effort he put into selecting those initial words was unfortunately in vain. Because――,

"――"

In the midst of Aldebaran's cautious attempt to gauge the other person's reaction, Emilia leaned forward, causing the thin layer of snow at her feet to explode as she kicked off the ground, her silver hair dancing beautifully. In the snow-covered view, just as the shimmering silver hair caught the eye――,

"Heya!!"

――An unforgiving punch from an icy gauntlet pierced through Aldebaran's solar plexus.

△▼△▼△▼△

――The time rewinds slightly from the blow to the solar plexus.

"Subaru and the others...!?"

"Yeah, it's a message from someone in my circle. Everyone at the tower got done in."

The one who conveyed this information was Felt, who was staying in the Royal Capital at the time. It was their first meeting since the Watergate City Priestella, but there was no time to rekindle their old friendship. In the first place, the reason Emilia visited the Royal Capital wasn't for a warm occasion――it was to report to the Royal Castle the fact that Priscilla Barielle had lost her life in the Volakia Empire.

The report that would greatly impact the Royal Selection and, more importantly, sadden many who knew and loved Priscilla, caused Emilia immense heartache. The fact conveyed by Felt was a significant blow to Emilia.

"Al..."

Emilia couldn't bring herself to say something as insensitive as "Why would you do that?" If Al were to do something reckless now, it would undoubtedly be related to Priscilla's death. Al's grief over losing someone so important was unbearable to watch, and that's why Emilia and the others listened to Subaru's plea and sent them to the Pleiades Watchtower. There, they hoped Al might find a way to recover—or at least a reason to look forward.

And yet—

"—Lady Felt, could you please tell us a bit more in detail?"

Beside Emilia, who was biting her lip and clenching her fists tightly, it was Otto who spoke to Felt. Unlike Emilia, whose heart was flustered by the news she didn't want to believe, Otto's profile as he looked at Felt was calm, and his voice was steady. But Emilia knew. —That Otto was most angry when he acted like this.

Otto, displaying the type of anger well-known among everyone in Emilia's camp, seemed to exert a quiet pressure that Felt seemed to sense. Crossing her arms, Felt said, "Yeah, that's right."

"The knight brother and the little spirit kid have been captured by that helmet guy, or so they say. I don't know exactly how, but it seems they don't intend to kill them."

"No intent to kill? ...Do you know about the others at the tower?"

"Flam, who contacted us, is fine. Meili and Emilia's maid are safe too. But our teacher and that Garfiel guy took quite a beating. It seems like their lives weren't taken either, though."

"—. I see. Thank you."

"It's not something you need to thank me for. Knowing someone is there and not telling you would just make me feel worse."

After sharing the information without any hesitation, Felt looked towards Emilia. Emilia, still unable to unclench her fists, was taken aback by the intensity of Felt's gaze. Felt continued, addressing the tense Emilia.

"Our plan is set. From here, we'll use Reinhard to quickly return to the territory. There's a mountain of things we need to do, and we'll consult with Old Man Rom."

"The territory, you mean the Astrea Territory, right? If that's the case, it's close to the Augria Sand Dunes, so we could go together with you, Felt-chan—"

"—No, let's not do that, Lady Emilia."

"Huh?"

Emilia, leaning forward with eagerness, was halted by Otto's calm voice. However, not understanding why she was being stopped, Emilia was puzzled. After all, they needed to rush to the tower where Subaru and the others were facing a dire situation.

"Is it because having more of us would make things difficult for Reinhard? Well, it's... um, it's hard to become really light all of a sudden, but I'll do my best...!"

"It's not like having Emilia-neechan and that bug brother around will change much of his burden. But that's not really the point, is it?"

"Regardless of how Felt-sama perceives me... yes."

As Felt and Otto nodded in agreement, question marks floated above Emilia's head. However, Emilia didn't doubt that the thoughts of the two, which she couldn't quite catch up with, were well-considered and correct.

"Felt-chan, be careful. Tell Reinhard too. And as for Al..."

"As expected, I can't make any promises about that helmet guy. Sorry about that."

"—. No, I'm happy that you told me you can't make any promises."

The time for their reunion was short, and the content of their conversation wasn't particularly pleasant. Even so, Emilia hugged Felt tightly at the end, sending her off from the Royal Castle with a strange expression on her face. After this, it was said that Felt and the others would fly to the Astrea Territory with Reinhard and take care of various tasks there.

"Subaru..."

After Felt left like a storm, Emilia hung her head in one of the rooms of the Royal Mansion that was left behind. Even now, she couldn't quite release the strength from her clenched fists. According to Felt, everyone who had been sent to the Pleiades Watchtower had suffered a painful experience. But among them, the one Emilia was most worried about was her knight, Natsuki Subaru.

In the Empire, he had been striving tirelessly for Rem and Spica, fighting alongside Abel, shrinking and growing, yet still unable to help Priscilla. To punish himself, he let many friends in the Empire hit him, which was unbearable to watch. That Subaru had his compassion for Al betrayed—

"...I"

Emilia became aware of the strange sensation flickering deep within her chest, recognizing the heat in her heart. It was a feeling slightly different from sadness or heartache, one that Emilia rarely experienced, which is precisely why it greatly confused her. The last time she felt such a boiling sensation in her chest, behind her eyes, and at the center of her heart was back then—when she faced Regulus in Priestella. Regulus, who had selfishly bound Sylphy and the other brides' hearts, had genuinely angered Emilia. The anger she felt now was as strong as, if not stronger than, it was back then.

"Lady Emilia, I'm grateful that you listened."

"Otto-kun..."

Recognizing the overwhelming passion within herself that she couldn't contain, Emilia instinctively understood that Otto, with his calm demeanor, felt the same way. Of course, he would. Otto was also one of those who had been worried about Subaru and the others and had traveled all the way to the Empire with Emilia and the rest. This is just too much—

"Take that!"

With a strong slap, Emilia struck her own cheeks with both hands. It was so sudden that it startled Otto, making him exclaim, "Eh, Emilia-sama?"

Feeling a bit apologetic for surprising him, Emilia lowered her hands from her tingling cheeks and said,

"My mind was all over the place, and I didn't think I could speak properly. But now I'm okay! ...Though saying I'm okay is a lie, I can talk properly now."

"...I see. In that case, I will too—"

"Kyaa!"

Mimicking Emilia, Otto also slapped his own cheek with a loud smack. The sound was so loud that it almost seemed like he might get a nosebleed, which surprised Emilia. However, Otto didn't get a nosebleed, and with his cheeks turning just as red as Emilia's, he said,

"—. I'll explain why I didn't accompany Felt-sama. It was because our presence wouldn't have made a difference and... to prepare for any eventuality."

"…Please continue."

With both hands still on his cheeks, Otto continued his explanation, and Emilia did not interrupt him. She had questions. She had things she wanted to say. But first, she would listen to everything the other person had to say. Otto surely had answers prepared for what Emilia was thinking.

"If 『Sword Saint』Reinhard stands on the front lines, sending in any number of forces based on military strength is meaningless. Lady Felt should understand that. Even so, the reason she returned to the territory is—"

"—Is that preparation?"

"Yes. Think about it. Regardless of Natsuki-san and the others, if someone attacks Lady Felt's associates at the tower, it's obvious that 『Sword Saint』Reinhard will emerge. Yet, Al... that man took the plunge."

Finally, Emilia began to understand what Otto was trying to say. Reinhard is incredibly strong. Probably, among those Emilia knows—or rather, including those she doesn't know, Reinhard is the strongest in the world. Puck said so too, so there's no doubt about it. Knowing that he would clash with Reinhard, it's strange that Al wouldn't have prepared anything. Therefore, Al must have made preparations, and even Reinhard might be in danger.

"Felt-chan returned to prepare because she's worried about Reinhard. ...But then, what about us? If it's about preparation, we could be with Felt-chan and the others..."

"We are the next line of preparation after 『Sword Saint』Reinhard for Lady Felt and the others."

"――. I see. If you knew Reinhard was coming and were preparing for that, then even if you were preparing for the preparations... um."

"That's correct. Of course, if you start talking about preparations for the preparations for the preparations, there's no end to it. The reason that man acted recklessly is due to what happened in the Empire... I don't think he had the time to plan that far or spend time on preparations. He should have had the same amount of time as us."

"...Yes, that's right."

Thanks to the detailed explanation, Emilia was able to catch up with Otto and the others' understanding. While impressed by the depth of thought, Emilia couldn't help but feel a sharp emotion when Otto referred to Al as 'that man.' Otto has a very strong sense of camaraderie. Surely, he's the strongest among Emilia and the others. While that's very reassuring, it also forces him to make very painful compromises.

But even so――,

"...I also don't know what to think, Al."

There is a reason. There must be. However, even with a reason, there are things that cannot be forgiven. I'm worried about Natsuki Subaru. I wonder if Beatrice is okay. I heard Garfiel got injured. Petra and Meili must be filled with anxiety. Even Patrasche, who loves Subaru dearly, might be crying. ――Deep in my chest, a fiery heat begins to rise.

"――It's my blunder."

Suddenly, Otto muttered this in front of Emilia, who was igniting a fire in her heart. The unexpectedness of his words made Emilia widen her eyes in surprise and left her speechless. Otto covered his face with the hand he had placed on his cheek and stared at the ceiling. With him being taller than her, Emilia couldn't see his face.

However, she could tell from the tremor in his voice that it wasn't just simple anger.

"I thought Natsuki-san was too involved. I forcibly convinced myself that if he acted for what the late Priscilla-sama left behind, it might distract him and bring some relief. I tried to believe that as long as Beatrice-chan, who had been separated from him, was by his side, everything would be fine. I thought Petra-chan would bravely handle the care and support, yes."

"Otto-kun..."

"More than anything, we left it all to Garfiel. Something that all of us should have done together, we made that straightforward, honest, and sensitive Garfiel do it."

"Otto-kun!"

At the moment when the tremor in that voice signaled an impending breakdown, Emilia grabbed Otto's arms, lowered his hands and face, and faced him directly. And then, she saw it. —Otto's bluish eyes, glistening with tears as if seeing them for the first time.

"Damn it... Why am I always so thoughtless...?"

"――――"

"When my hands can't reach, when my feet can't make it in time, when I'm lacking, I have no choice but to use my head. Even though I pretend to understand that, at the crucial moment, I'm always—"

"――"

Emilia didn't want to hear Otto's self-reproachful voice any longer, as he looked like he was about to cry. So, she pulled the arms she had been holding, bringing Otto's head to her chest. She held his head there, forcibly silencing him. Otto, seemingly very surprised by Emilia's actions, froze without a word. In that moment—,

"Don't speak so poorly of yourself! Otto-kun is doing his best! We all understand. We understand, so we want to listen properly to what Otto-kun has to say!"

"Emilia-sama..."

"I know! Even if I say this, Otto-kun, you understand that too, right? But I only have my own words, and I can only say what I've thought, so at the very least, I can only speak with my feelings. So—"

"——"

"Nothing is over yet. We can still work really hard!"

While tightly hugging Otto's head, Emilia spoke firmly. It was as if she was telling herself, but at the same time, they were words she believed in. It was none other than Natsuki Subaru, Emilia's knight, who had made her believe this many times. It was the greatest pride and trust that Emilia had built together with Subaru.

"We are really bad at giving up."

I'm not good at it. When I think it's over, I just want to curl up, hold my head, and run away. But because we can't do that, we have no choice but to keep trying without giving up.

Perhaps Emilia's plea reached him. Suddenly, the tension left Otto's body, and then,

"…Please let go of my arm. Natsuki-san will kill me."

"No, no one is going to die! That's why we're…"

"I understand! I understand, so please let go!"

As Otto struggled and flailed, Emilia reluctantly released her grip. Watching him closely to see if he had really regained his composure, Otto wiped the sweat from his forehead with a handkerchief and sighed. A very big and deep sigh.

"It's not the time for this, but I remembered."

"Remembered what?"

"—The reason I'm helping Natsuki-san and Lady Emilia."

Wiping the corners of his eyes with the handkerchief to erase the traces of tears, Otto spoke with a calm expression. Unlike the very angry face he had just moments ago, it was a brave face, as if he had made a decision.

"The opponents have abducted Natsuki-san and Beatrice-chan. There must be a reason for that. The aim of the abduction is usually to threaten those involved, or the purpose is directly related to the person..."

"So, it's either us or Subaru they have business with, right?"

"Yes. If the 『Divine Dragon』 is truly involved, then this is an issue for the entire kingdom. We must fulfill our roles here in the Royal Capital."

"――. Yes, let's do that. We need to act swiftly."

While listening to Otto's vision for the future, Emilia earnestly suppressed her impulses.

"――――"

It was a delayed impulse, the urge to rush immediately to Subaru and the others. It was a strong, overwhelming feeling that tried to push aside the proper reasoning Otto had considered, like the presence of Reinhard or the preparations Felt had made.

She wanted to touch. She wanted to gaze. She wanted to hear his voice.
When you seem about to be hurt and hang your head, I wanted to be by your side.

"――Subaru"

Emilia still didn't know the name of the emotion burning in her chest, separate from anger.

△▼△▼△▼△

"Eiyaa!!"

She dove straight in and delivered a full-force blow to Al's solar plexus without listening to a word. ――All of this was under the instructions of Otto, who had sent Emilia out here.

"Please resist the urge to listen to what they have to say or their circumstances. You can do that after you've ensured they don't reveal their hand."

Otto, who had pushed Emilia forward as she dashed out, had used his 'Divine Protection of Speech' to the fullest to locate Al and the others, making his already pale face look ashen like a sick person. 

He didn't want her to do anything reckless. But when it's time to be reckless, there's no choice but to be reckless. Emilia wasn't living a life where she could avoid being reckless to that extent. 

So, to wrap up this recklessness as quickly as possible, Emilia would do her best.

"With this――"

Just as she was about to say, "How about that," Emilia felt something off with the sensation of her ice-hardened fist. She should have struck Al's bare body with her fist, yet the recoil felt like she had hit a hard, sturdy wall――,

"That was sudden...!"

With a strained voice, Aldebaran said that, his torso protected by a stone armor. Although it was a preemptive strike as Otto had instructed, it failed. But there was no time to dwell on it. If it didn't work the first time, try again and again.

"It's lonely when you won't even listen."

"That's because! Aldebaran, you too—mmph!"

"Mmph?"

"Promise not to talk, okay—!"

As Aldebaran was hit by Emilia's punch against his stone armor and was knocked back, Emilia forcibly closed his mouth midway and swung a hammer made of ice with both hands. Aldebaran, with one arm, was carrying a small figure on his right shoulder. Feeling it was unfair to take advantage of his handicap, Emilia deliberately struck Aldebaran's left side.

A full-force swing would hurt a lot if it hit. But that's not all.

"Tch!"

Aldebaran stopped Emilia's unfair blow with his left arm—a stone arm created by magic. However, Aldebaran clicked his tongue and immediately destroyed and discarded the left arm he had just made. The reason was that the part hit by the ice hammer began to freeze, and it was about to reach Aldebaran's body.

『If we ignore the emotional issues, we need to capture that man alive to rescue Natsuki-san and the others. In that regard, Emilia-sama's fighting style is well-suited. However――』

"――Promise you won't do anything reckless like Subaru!"

With the exchange and promise with Otto-kun before departure in her heart, Emilia creates new twin ice swords. ――Emilia's Ice Brand Arts, with an added change in its usage. The ice weapons she creates freeze the opponent they hit, depriving their body and weapons of freedom. It uses slightly more mana than creating ordinary weapons, but if it's not for numerous battles, it's within the margin of error. Stopping the opponent without taking their life. ――This is the new potential of martial arts that Emilia desired.

"Ahahaha! Old man, aren't you in quite a bad spot?"

"Shut up!"

Al, who discarded his frozen artificial arm, shouted angrily at the person he was carrying who was teasing him. Confirming with her own eyes that the person Al was carrying so persistently was indeed Roy Alphard, who had been captured in the Prison Tower, Emilia bit her lip.

Roy is the Sin Archbishop that Emilia and her group, along with Anastasia's team, worked hard to capture at the Pleiades Watchtower. Julius, in particular, put in a lot of effort, but Emilia held a very favorable view of both his decision not to take Roy's life and Anastasia's courage in acknowledging it.

"And yet, both of them end up disappointed...!"

No matter the objective, Emilia will stop Al here. Therefore, she will also stop Roy, whom Al has taken away, right here.

"I have no reason to go along with that scheme."

Just as Al was determined, the ground beneath his feet suddenly rose, launching the two of them into the sky. It seemed like an attempt to distance themselves from Emilia and escape from this place. Caught off guard, even if Emilia extended ice now, she couldn't catch up.

But—,

"Icicle Line—"

The barrier of ice and snow surrounding the prison tower does not allow any escape.

A scream of "Guh!?" echoes in the sky as Al's attempt to flee is thwarted by the ice canopy that completely envelops the area. Al crashes headfirst into the icy ceiling and falls upside down. Emilia moves to the spot where he is about to land and strikes him in mid-air with her twin ice swords――,

"――!?"

The twin swords are deflected by a hard sensation, causing Emilia to widen her eyes and gasp. If Al had blocked with his artificial arm like before, she wouldn't be so surprised. Al had indeed crafted a new arm, but that wasn't all he had made.――He had also created twin swords made of stone.

"Earthbrand Arts, is it?"

"Copycat...!"

"This was thought up by Natsuki Subaru, right? Then I have the right to use it too, don't I?"

In front of Emilia, who widened her eyes, Aldebaran spun around from the recoil of clashing ice and stone dual swords, distancing himself and landing once again on the snowy ground. 

Around Aldebaran, stone weapons began to emerge one after another with a sound. Emilia realized and braced herself, noticing that Aldebaran could do the same thing with earth magic as her Ice Brand Arts. 

Aldebaran, with stone-made arms holding stone-made weapons—on his shoulder, the figure of Roy, who should have been there until a moment ago, was absent.

"No way..."

"Yeah, it would be cool if I could say I let him escape in the confusion earlier... but that's not the case. I just threw him away because he was in the way. Over there."

Aldebaran shrugged his shoulders at Emilia, who had raised hers, and jerked his chin in that direction. What Aldebaran indicated was the earthen pillar that had risen earlier, where Roy was pinned upside down in the middle. 

Covered with an earthen blanket and pinned to the pillar, Roy laughed at Emilia's gaze,

"Do your best, miss. If you don't win, we'll have no choice but to follow that old man's orders. Huh? But even if you win, we'll just end up back at the Prison Tower... haha, it doesn't matter who wins, does it?"

"...If you can wake up and reflect, then wake up and reflect."

Responding to Roy, who was staring intently, Emilia felt relieved that she hadn't let him escape and turned back to face Aldebaran. Roy, who had been immobilized by magic, was now unsealed, which was quite dangerous. However, keeping him frozen in time wouldn't allow for any reflection. At the very least, Emilia's compromise was to create an environment where he absolutely couldn't escape and make him reflect while awake.

"All of this has to be properly dealt with here first."

"That's fine, but... what, have you decided to talk to me now?"

"Oh! ...From here on, I won't speak anymore."

"That's cold. I thought if we talked, you'd understand—whoa!"

As Aldebaran tried to continue the conversation, Emilia launched an ice stake as a declaration of her intent. Aldebaran dodged it with a side leap, and Emilia maneuvered around to thrust an ice spear at his side. The tip of the ice spear was caught by the blade of Aldebaran's stone sword, and both shattered simultaneously. Immediately, Emilia created another ice thrusting sword, and Aldebaran crafted another stone sword, beginning a duel where weapons were created and shattered in a continuous cycle.

"Good, great, fine, sure, maybe, isn't it nice, it should be, because I can think it's good! Binge drinking! Gluttony!"

While watching the icy rock swordplay between Emilia and Aldebaran, Roy's voice could be heard licking his lips. Consciously ignoring it, Emilia launched several sharp attacks, which Aldebaran narrowly and precariously dodged, making her feel something was off. It seemed like he should be hit but wasn't. It felt like kicking at shapeless water.

More than anything—

"I don't really want to praise it, but it's a well-executed technique. I'm envious of your mutual affection, young lady."

At such an outrageous remark—Emilia was Furious. She resolved that she must eliminate the cunning and tyrannical king. —Remembering what Subaru had told her was a stock phrase for when she was angry, Emilia was Furious.

She didn't want Aldebaran to speak of her and Subaru in such a manner. What made Emilia even angrier was that Aldebaran didn't genuinely believe it; he said it just to provoke her. And—,

"Hey, I've been wondering for a while, why do you always look so lonely when you talk to me, Al?"

"――. It's not like I'm talking to you..."

"Don't bring that up only when it's convenient! And one more thing!"

Raising her voice, Emilia swung down a large ice sword, which Aldebaran blocked by holding a rock sword above his head. At that moment, someone clung to Aldebaran's legs and waist. Aldebaran gasped as he realized it was the owner of the ice arms—an ice soldier. The presence of the ice soldier, modeled after Natsuki Subaru and relied upon by Emilia, made Aldebaran grit his teeth in frustration, muttering, "This is the worst...!" Emilia then lifted her foot, clad in ice shoes, and—

"When you talk to me, make sure to look at me properly!!"

This time, her powerful kick broke through the rock defense and struck Aldebaran directly.

△▼△▼△▼△

"――――"

Felt keenly noticed the subtle twitch of Yae's eyebrows. It wasn't that she was certain. It was just that, in this pitiful situation where she was completely helpless, she thought that any further disgrace was negligible and decided to cling to every hope she could.

One of those hopes was the possibility that something insignificant might be listening to her conversation with Yae, recalling the time when she was 'made to prepare for death,' and hoping for it.

"Keep quiet."

Yae, who usually kept her eyes narrowed, opened one eye and moved towards the door of the room. The undeniable pressure of her words was enough to make Felt believe that if she moved carelessly, the thread around her neck would exact its punishment.

Thus, leaving Felt unable to move, Yae reached out to open the door—when, in an instant, a sharp sword tip silently pierced through the door, mercilessly aiming for Yae's throat.

"――"

Felt held her breath as she watched Yae's white throat seemingly pierced by the sword—yet it wasn't. The sword tip stopped just before tearing Yae's throat.

It wasn't the opponent who stopped it. Yae had managed to barely defend herself by entwining threads around the sword tip.

It was a narrow escape from death, a hair's breadth, but Yae's crisis wasn't over. Another sword, separate from the one she halted, flashed with a gleam, cutting down the door, and the slashing light raged wildly.

"――――"

Amidst the oncoming storm of swords, Yae leaped back significantly while wielding her threads. One wielded a sword, the other threads, yet the clash of these two weapons resonated in the room like the pleasant sound of steel striking steel, burning Felt's eyes with the sword's gleam.

Yae, skillfully manipulating her hands, unleashed a barrage of threads filling her field of vision, tearing apart the luxurious room decor. However, the opponent also performed an impressive swordplay with both hands, cutting through the onslaught head-on, and forcefully swept aside the threads that entangled his sword—

"Zaaah!!"

"――Guh"

The front kick delivered struck Yae's slender waist directly. Yae twisted her body instinctively, spinning halfway as she was sent flying, landing on the floor with her feet against the wall, clutching her abdomen with her hand.

And then, she looked straight at the intruder who had done this.

"You are quite the merciless guest to suddenly kick a lady in the stomach, aren't you?"

"――Is it necessary? For someone like you, a shinobi, to show mercy?"

"Isn't that discrimination against shinobi? That's not something a gentleman would do, you know?"

"Unfortunately, I have no memory of ever being worthy of being called a gentleman. No matter how far I go, I am nothing more than a swordsman who can only wield a sword."

Saying this, the person shook off the threads from the swords in both hands and directed their calm blue eyes at Yae. To this self-assessment, Felt muttered quietly, "Don't be ridiculous."

Indeed, whether he is a gentleman or not is unknown. However, he cannot be confined to the evaluation of just a swordsman. Felt also knows that many would not allow him to be described as just that.

Because the man who calls himself a swordsman is the 'Sword Demon' who once triumphed at the pinnacle of swordsmanship――,

"――Wilhelm Trias. I heard of the kingdom's dire straits and have come to offer my humble assistance."

Hearing this introduction, Felt stepped back to the corner of the room, sighing. While harboring a deeply complex feeling about the unexpected reinforcements――,

"…Zodda bug brother, you're seriously not choosing your means, are you? …What's going on with the guy from Emilia's place?"

He muttered this, half in amazement and half in admiration.

NAME MAPPINGS:
エミリア → Emilia
アルデバラン → Aldebaran
ナツキ・スバル → Natsuki Subaru
『剣聖』ラインハルト → 『Sword Saint』Reinhard
ロイ・アルファルド → Roy Alphard
フェルト → Felt
プリシラ・バーリエル → Priscilla Barielle
オットー → Otto
フラム → Flam
メィリィ → Meili
ラインハルト → Reinhard
ロム爺 → Old Man Rom
ガーフィール → Garfiel
ペトラ → Petra
レム → Rem
スピカ → Spica
アベル → Abel
レグルス → Regulus
シルフィ → Sylphy
オットーくん → Otto-kun
ヴィルヘルム・トリアス → Wilhelm Trias
帝国 → Empire
プレアデス監視塔 → Pleiades Watchtower
プリステラ → Priestella
水門都市プリステラ → Watergate City Priestella
王都 → Royal Capital
ヴォラキア帝国 → Volakia Empire
王城 → Royal Castle
アストレア領 → Astrea Territory
アウグリア砂丘 → Augria Sand Dunes
『氷結の魔女』 → 『Witch of Frost』
『神龍』ボルカニカ → 『Divine Dragon』Volcanica
『嫉妬の魔女』 → 『Witch of Envy』
パトラッシュ → Patrasche
『エミリアは激怒した』 → 『Emilia was Furious』
王選 → Royal Selection

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