TITLE: Arc 9: Chapter 31 - "A Job Done Perfectly"
FROM: JA
TO: EN
DATE: 2025-05-14

ORIGINAL TEXT:
第九章　『名も無き星の光』
第九章３１　『十割の仕事』


　――天が割れたかと思うほどの轟音と視覚効果を伴い、巨大な岩塊が落ちる。

　はたして、それを単に『岩塊』と表現していいものか、疑問の余地が多くあろう。
　なにせ、悠に百メートルは下らない大きさの岩の塊なのだ。それはもはや岩塊なんて表現よりも、空に浮かべられた岩山と呼ぶのが相応しい。
　その岩山に亀裂が走り、百メートルの塊がバラバラに砕け、いくつもの小さな――それでも五メートルから十メートルサイズの岩弾となって地上に降り注ぐ。

　岩弾の落下地点には王都の街並み、被害は少なく見積もって千人から万人の間。
　それだけの大量虐殺を行えば、現代のキルレートで並び立つのは『青き雷光』セシルス・セグムントか、『強欲』と『怠惰』の大罪司教ぐらいのものだろう。
　もっとも――、

「時代を今に限定しなけりゃ、昔は結構いたかな」

　疲労感たっぷりの声に呆れを滲ませ、アルデバランは城壁の上からそれを眺める。
　プランＢ――件の岩山を落とす戦術は、窮地に追い込まれたアルデバランが逃げ出す隙を作るために用いた卑劣な手口だ。
　その戦術に頼った経緯を考えれば、アルデバランは悠長に立ち止まらず、とっとと尻をまくって逃げに徹し、阿鼻叫喚を無視して王都から飛び出すべきである。
　しかし、アルデバランにはそれができない。――責任を持って、見届ける必要がある。

「――さすが」

　兜の奥、細められた黒瞳が映した光景に、アルデバランは掠れた称賛をこぼす。
　岩山が天墜を始めたときの音と演出、それに負けないぐらい派手な世界の悲鳴と上書きが行われ、地上から伸びた美しい氷の塔が、無数の岩塊を片端から受け止めていた。
　それは冷たく凍て付いた見た目に反し、温かな慈悲と慈愛に満ちた救いの手。一方で、光を受けて青白く煌めいて見える氷の塔は、術者の深い悲しみをも表わして思えた。

「なーんて、そんな風に思うのはちょっと詩人すぎなんじゃないの、オジサン？」

　と、その光景を眺めるアルデバランを、肩に担がれたロイがそう小馬鹿にする。
　手足をへし折って行動不能にしてあるロイだが、彼は背筋を使って器用に上体を起こし、アルデバランの肩越しに王都を襲った天変地異を観覧していた。
　何もできないくせに、達者な口であれこれと言ってくれるものだと辟易する。

「お前の方こそ、オレの心情描写に舌が乗りすぎててポエミーになってんぞ。大して知ってるわけじゃねぇが、そのセンスって『悪食』のお前より、『美食家』気取りの死んだ片割れの方が似合ってたんじゃねぇか？」

「ハハッ、死んだ家族のことで口撃なんて育ちが悪いんじゃァない？　実際、食べたモノをあれこれ評価したがるのは僕たちじゃなくライの方だったよ。不思議だよねえ。どうせ俺たちも僕たちも、食べたものの行き着く先は同じ『魂の胃袋』なのにサ」

「盗人ならぬ、盗み食い人猛々しいってのはこのこったな」

「泥棒扱いだなんてやだなァ。俺たちはただ、満腹よりもほんのちょっぴり多く食べたい……そんな程度の可愛らしい食道楽ってだけなのに」

　ああ言えばこう言う。口の減らない『悪食』の語彙の豊富さと論舌の強さは、その『暴食』の権能の性能からして、大罪司教どころか世界を見渡しても屈指のものだ。
　子どもの見た目と、腐った性根が丸出しの喋り方で誤魔化されやすいが、肩に担いだ存在は無数の知識と経験を貪った、集合知の化け物である警戒を忘れてはならない。
　だからこそ、言葉での説得を諦め、暴力と呪印で無理やり従わせることを選んだのだ。

「……とにかく、用事は済んだ。いくぞ」

「もう、岩を取りこぼしたお姉さんに助け舟を出す必要もなくなったもんねえ。オジサンって、変わり者っていうか異常者ってよく言われない？」

「ここ二、三日のオレの総評をどうも」

　説明もなしにアルデバランが留まった理由を言い当て、最後にいらない言葉を付け足すロイに、もはやまともに取り合う気もなくしてそう返答。
　そうしてアルデバランは、エミリアのおかげで被害の食い止められた王都――その一角が完全に平たくなった貴族街を確かめてから、再び足を急がせたのだった。


　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△


　――バルガ・クロムウェルとの戦いを通じ、アルデバランは敵なしと評価していた自分の権能にも食らいついてくる難敵がいると、そう認識を改めた。

　今も、誰も自分には勝てないという確信は揺らいではいない。
　しかし、その確信を確固たるものに押し上げるには、権能に胡坐を掻き、考えることをやめてはならないのだと、そうも自戒したのだ。

　それ故に、王都に忍び込んでの『暴食』脱獄作戦では安易なやり直しを選ばず、一回一回のアルデバラン生をしっかりと、歯磨き粉のチューブを最後まで搾り切るような入念さを以て、一生懸命に挑むことで六千七百二十四でカウントを締めくくれた。

　――それを多いと少ない、どちらと受け取るかは人それぞれだと思うが、基本的にアルデバランはどんなカウントでも『適切』と考えている。

　カウントの桁がなんであれ、一回も無駄なく、壁を乗り越えるのに必要とした挑戦だ。
　極々稀に、ただ心に深呼吸させたくて無為に消費する一回もあったりしたが、そうした心の息継ぎもなくてはならない一回である。
　だから、どんなカウントであろうと、望んだ成果を得られたのなら、アルデバランはその六千七百二十四回を、『最適』な試行回数だったと言い張るのだ。


「――よう、クソ兜ヤロー」

　事前に取り決めた合流場所――王都からしばらく離れたその場所は、廃れて久しい採石場であり、人目を忍びたい悪党たちの集会場にはもってこいだった。
　その採石場で、崩れかけた石壁に背を預けてアルデバランを出迎えたのは、辛辣な呼びかけを発した、怒りと敵意で赤い瞳を爛々と輝かせるフェルトだ。
　彼女は尖った八重歯の見える唇を曲げ、腕を組んだ姿勢でアルデバランへの軽蔑を露わにしている。呼び方も『兜ヤロー』から『クソ兜ヤロー』に格下げされていた。
　フェルトはその細い顎をしゃくり、遠目に見える王都の方を示すと、

「あんな大岩、エミリア姉ちゃんが止めなきゃ何人死んだと思ってやがる。死人は出さねーってテメーの方針はどーなった？　へこたれるたんびに決めたこと曲げてくつもりかよ。ダセーったらねーな」

「……そうだな。オレも、フェルト嬢ちゃんが無事でホッとしたよ」

「ああ？」

「ジョークだよ。じゃなきゃ軽口か、ダダ滑りしたギャグ」

　こちらの返答に刺々しさを増したフェルトに、アルデバランは力なく応じる。そのアルデバランの態度を不誠実と取ったのか、前のめりに噛みついてこようとするフェルト、そこに「フェルトちゃんさァ」と、肩の上のロイが声を発し、

「その調子その調子って言いたいとこだけど、オジサンをねちねち責めるってんなら僕たちの方で下拵えは済んだんだ。だからどうせなら、違う調味料で味変ってのはどう？」

「どうもクソもあるかよ。……テメーが取っ捕まってた『暴食』か。兄貴か？　弟か？　どっちにしろ、兄弟とよく似たムカつく面してやがんな」

「あァ、俺たちのこともご存知なんだ？　まァ、そりゃそうだよねえ。ルイからも聞いてるよォ？　フェルトちゃんのせいでライが食あたり起こしたってさァ」

「アタシの名前がどーとか難癖付けてきたときの話か？　いい気味だったな」

　ますます毒舌の切れ味が増すフェルトは、一度プリステラで『暴食』――ライ・バテンカイトスと遭遇済みと聞く。そのときの、それも死んだ兄弟のことを揶揄した発言だったが、アルデバランのときと同じく、ロイはそうした皮肉にも「ハハッ」と上機嫌に嗤ってみせるばかりだ。

「ちなみに、僕たちの中じゃ、俺たちのどっちが長男だったかわかってないんだよねえ。僕たちとしちゃ、長男でいたい気分のときもあれば、次男でいたいときの気分だってあったから、そのせいかなァって」

「意味わかんねー理屈こねてんじゃねーよ。兄弟姉妹の上下は気分で決まるもんじゃねーだろ。譲るか受け取るか、欠ける前に選んどけ」

「ハッハァ！　オジサンもフェルトちゃんも、嫌われ者の大罪司教相手なら何を言ってもいいって思ってるでしょ？　いいよいいよ、みんなの共通見解ってヤツだもんねえ？」

「オイ、クソ兜ヤロー、こいつと楽しくお喋りするつもりなんてねーぞ。とっととそのギザ歯の口塞いで、テメーはアタシの質問に答えろ」

「こいつがうるせぇってのは同意見だけど、質疑応答の時間はちょっと待ってくれ。その前に……」

　フェルトの要求を遮り、アルデバランがその場で首を巡らせる。採石場の中を見回すその仕草の意図を察し、「ちっ」と舌打ちしたフェルトが顎をしゃくった。採石場の奥、かろうじて原形を保った粗末な小屋、そちらにアルデバランは視線を誘導され――、

「――アル様」

「――――」

　ちょうど、その小屋から姿を現したヤエと、アルデバランの目が合った。
　ほのかに温かな香りを伴ったヤエ、おそらくは小屋の中で食事の用意をしていたのだろう。その気遣いはありがたい。ありがたいが――、

「その感じからして、さてはこっぴどくやられたな？」

　一目見て、普段の飄々と掴み所のない彼女との違いをアルデバランは感じ取る。
　ワソーのテイストが入った特注のメイド服はあちこち破れ、戦場でも手入れを欠かさない彼女の赤髪にほつれがあった。何より、その表情だ。
　神妙というべきか、稚気に欠けた雰囲気が彼女らしさを一番損なっていて。
　その証拠に――、

「……よかった」

　ヤエは自分の胸にそっと手を当てると、アルデバランの合流にそう呟いた。
　その声に込められた感情の色に、アルデバランはわずかに鼻白みながら、しかし決して言及しないで、「おいおい」と肩をすくめる。

「万能お役立ちメイドのヤエさんらしくねぇ殊勝さじゃねぇか。オレの援護もできないなんて、どんなサプライズゲストと乳繰り合ってたんだ？」

「――。乳繰り合ってただなんて、人聞きが悪いですよ、アル様。ご存知の通り、ヤエちゃんの心はアル様にガッツリ支配されてるのに」

　一瞬、返答にあった躊躇いを掻き消し、そう答えたヤエの態度は通常営業だ。自分の胸をそっと指で撫で下ろした彼女は、「でもでも」と言葉を続け、

「殿方と情熱的な時間を過ごしたのは事実ですね～。お屋敷にいらっしゃったのは『剣鬼』ヴィルヘルム・ヴァン・アストレア……いえ、ヴィルヘルム・トリアス様でした」

「『剣鬼』の爺様か。そりゃ……」

　想定外の刺客に、ヤエも度肝を抜かれただろう。が、最悪の敵とは言い難い。
　無論、王国屈指の実力者には違いないが、剣士であれば、魔法使いよりもずっとヤエには与しやすい相手。それも、バーリエル別邸は彼女の罠が張り巡らされた、言わば万全な『紅桜』の狩り場となっていたのだ。
　しかし、結果的に『アルデバラン』がその救援に駆け付けた以上、『剣鬼』の切れ味はヤエを上回った。それもあの表情、惜敗ですらない完敗だったと見える。
　あるいはその切れ味の理由は――、

「あそこでへっこんでる親父さんも無関係じゃねぇ、だろ？」

　アルデバランが水を向けた先、小屋の傍らにある捨て置かれた薪割り台の切り株に、片膝を抱えて俯く赤毛の男――ハインケルがいる。
　ぐったりと頭を下げたハインケルは、その全身を汚した赤い血を落としてもいない。それが自分の血なのか返り血なのか、ここからではわかりかねるが。

「何があった？」

「……私は意識が朦朧としていたので、ちゃんとこの目で見てはいないんですが」

「ですが？」

「ハインケル様が、『剣鬼』様を討ち果たされたのだと」

「――――」

　確証に欠けたヤエの答えに、アルデバランは息を呑み、今一度ハインケルを見た。
　当たり前だが、ハインケルとヴィルヘルムとの関係はアルデバランも承知している。つまるところ、親子対決、それも息子が父を討ち果たしたという話になる。
　ハインケルの、剣士としてはあまりにも致命的な欠点のことも知っているが――、

「息子とも父親とも、延々と板挟みなんだな、親父さんは」

　アストレア家の確執、その核心の部分についてまではアルデバランも知らない。
　ただ、『剣聖の加護』の存在と『剣聖』の肩書きが、親と子と孫との三代にわたり、決して噛み合うことのない軋轢を生んでいることはわかっている。そしてその軋轢は、今回の一件でより確実なものになったと言える。

「――――」

　ラインハルトとヴィルヘルム、この数日でそのどちらとも完全に敵対する立場になったハインケル、その心中を案じる資格をアルデバランたちは持たない。
　利用するために巻き込んだ側だ。大丈夫か、などと声をかけても白々しいだけ。だからアルデバランは、「それで」とヤエの方に視線を戻し、

「その爺様は？　討ち果たしたって話で、親父さんのあれが返り血ってなると……」

『――一応、最低限の処置だけしといたぜ。長居もできなかったんで、マジの最低限』

「うお！？」

　不意打ちの声に肩を跳ねさせ、アルデバランがきょろきょろと周りを見る。が、その声の主であろう『アルデバラン』の姿がどこにもない。『神龍』の竜殻だ。見通せるサイズ感ではないはずなのに――と、思ったところだ。

『悪ぃ悪ぃ、いったん、光学迷彩解除する』

　そう言うが早いか、それまで何もいなかったはずの空間――フェルトが背を預ける石壁に顎を乗せ、ぐったりともたれかかる龍の巨体がそこに現れた。その、ぼやけた大気が徐々に色付くような登場の仕方に、「おお」とアルデバランは目を見張り、

「光学迷彩ってことは、光の屈折で透明化してたのか。そんなことできんのかよ」

『さすがに動きながらリアルタイムで補正すんのは無理だぜ？　けど、じっとしてるとき限定なら、文字通り、この図体のデメリットがだいぶ消えんだろ？』

「そうだな。透明化する『龍』ってのは、だいぶヤバくていいと思う」

　光の屈折を変える魔法は、陽魔法や風魔法を組み合わせれば実現可能ではあるが、それらを常時展開しっ放しにするのは燃費があまりにも悪すぎる。周囲の景色に溶け込むにはかなり精緻な魔法の扱いも必要だし、求める水準に達しない可能性が高い挑戦だ。
　実際、『アルデバラン』でも実現が困難だったから、王都では雲に隠れる形で上空に待機してもらっていたのだから。

「それができるようになってるってことは……だいぶ激戦だったらしいな」

『そっちに負けず劣らずだ。正直、親父さんのバックスタブがなかったら、ちょっと負けてたかもぐらいの弱気が頭を過ったぜ』

「バックスタブかぁ……」

　ゆるゆると首を横に振り、アルデバランは二つの驚きをそう処理する。
　片方は、『アルデバラン』に負けを想像させた『剣鬼』の恐ろしさに。積んだソフトウェアが違うとはいえ、ハードウェアのスペックは紛れもなく『神龍』のものなのに、ヤエとの連戦でその域に達するとは、とんだ化け物だ。
　そして、もう片方はもちろん、その戦いへのハインケルの介入の仕方――、

「正面切って勝ったら解決って簡単な話じゃねぇだろうが、バックスタブで決着したってなると、親父さんのメンタルめちゃくちゃだろうよ」

「まぁ、それは間違いないと思いますよ～。結局、王都から逃げてきてから今まで、一回も私たちと話してくれてないですもん」

「そうか……」

　ハインケルの重症具合は想像通りと、そうヤエからの肯定を受け、アルデバランは長く息を吐きながら、改めてその場の面々を見渡した。
　敗北に気落ちしたヤエと、『剣鬼』に気圧された『アルデバラン』。父親を刺したショックで蹲るハインケルと、こちらへの敵意を隠しもしないフェルト。そして、肩の上で上機嫌のロイに、卑怯者街道まっしぐらの凶悪ヴィランであるアルデバラン。
　碌でもないメンバーな上、かなりのボロボロ状態だ。

「――それでも、全員生きてる」

　採石場で顔を突き合わせた面々、それが全員生き延びたことに、アルデバランは肩の力を抜いて、静かに『領域』を解除、新たなマトリクスを再開する。
　リスタート地点が更新され、これで王都での出来事はこの世界の歴史に定着した。
　すなわち、彼女の紫紺の瞳から流れた涙も、もう取り返しがつかない。

「けど、それでいい。全部裏切るって決めた時点で、誰か一人だけ例外にしようなんて都合のいい話はなしだ」

　妥協はしない。心の揺れも禁物だ。抜かれば、何もかも台無しになる。
　この身で、心で味わう全ての痛みに意味があったと結論付けるために、アルデバランたちはしくじるわけにも、足を止めるわけにもいかないのだから。

「ヤエ、飯の用意してるならくれ。腹が減った」

「お屋敷から食料は持ち出せなかったので、通りがかりの商店から盗みました。どの店から何を取ったかはメモしてあるので、あとでお支払いお願いしますね」

「ちゃっかりしてんな……わかった。それとこいつを」

「括って、吊るしておけばいいんです？　なら、もうやっておきました」

　そう言って、持ち上げた手指を滑らかにヤエが動かすと、ふとアルデバランの肩が軽くなった。担いでいたロイの体が鋼糸に吊られ、採石場の石壁にぶら下げられる。

「なんだなんだ、またこの扱い？　まァ、逆さ吊りよりはマシかもだけどさァ」

「しばらくそのままでいろ。お前の躾け方を決めたら、手足も治してやる。ただし」

「呪印を忘れるな、でしょォ？　いいんじゃない？　何も企まないとは俺たちの口が裂けても言わないけど、しばらくは大人しく品定めしててあげるからサ」

「品定め、ね」

「ライが死んだからかなァ？　『美食家』を継ぐなんてつもりは毛頭ないけど、もう少し皿に乗る前のことにも興味を持ってみようかなァ、ってね！」

　両手足を括られ、海老反りの窮屈な姿勢で吊るされながら、ロイは体を揺すっている。その不気味さに肩をすくめ、アルデバランは『アルデバラン』と視線を交わした。
　同じ自我の持ち主はその大きな顎を引き、目を離さないと確約してくれる。

「そういや、プランＢは助かった。おかげで逃げられたからよ」

『ああ、オリジンの方はそっちにしたのか。オレは『セカンドプラン』って考えてた。まぁ、発想の着地は同じでよかったよ』

「オリジン？」

『もう一人のオレって呼び方もそろそろややこいだろ？　だから、元祖って意味でオリジンでどうかなって。オレの方は直系とかどうよ？』

「元祖とか直系とか、家系ラーメンみてぇだな」

『アルデバラン』の提案に、アルデバランは「考えておく」と適当に受け流す。それからようやく、後回しにしていた怒り顔のフェルトに向き直った。
　フェルトは腕を組んだ姿勢のまま、変わらぬ怒りに双眸を燃やしていたが――、

「あの大岩を受け止めたのが、よくエミリア嬢ちゃんだってわかったな」

「あ？　アタシをバカにしてんのか？　あんなバカみてーな真似、エミリア姉ちゃん以外に誰もやらねーだろ」

「その言い方だと、馬鹿にしてんのはどっちだって感じだが……実際そうだ。エミリア嬢ちゃんが全部受け止めるの込みで岩は落とした」

「……テメーは、尻蹴るだけじゃ済まねーかんな」

　逃げるための卑劣な手口、アルデバランのそれを正しく理解し、フェルトはますます唇を曲げてそう恫喝してくる。その下町臭さの抜けない脅しが、彼女なりの最大限の怒りの表明なのだと感じ、しかし、アルデバランは同時に別の感慨も抱く。

　アルデバランのやりようと、それにまんまと嵌められたエミリア。『暴食』を脱獄させたこと自体も、フェルトが怒りを覚えて当然のラインナップだ。
　だが、フェルトの怒りの溢れ方は、他にも理由があるように思われて――。

「……親父さんと『剣鬼』の爺様のことは、フェルトちゃんのせいじゃねぇだろ」

「アタシのせいだなんて思っちゃいねーよ。間違いなく、テメーの……テメーらと、ラインハルトの親父と祖父さんのせいだ。けど、それでもムカッ腹が立つのと、これ知ったあのバカがどんな面するか、考えただけでもっとムカッ腹が立つ」

「――――」

「アイツをアタシの騎士にした時点で、アイツに関わるもんはどんなんだろーがアタシと無関係ってすんのは筋が通らねーんだ。覚えとけ、クソ兜ヤロー」

「……何を？」

「テメーがテメーの責任のつもりでやったことでも、あのお姫様とまとめて語られねーなんてことはありえねー。テメーのやってることは死体蹴りだ」

　そのフェルトの眼光と舌鋒が、ここまでの毒の中で一番アルデバランを蝕んだ。
　騎士と主の関係、それはたとえ片方が死んだとしても消えてなくなりはしない。アルデバランが悪名を稼げば、それはプリシラ・バーリエルの悪名にもなるのだと。
　改めて突き付けられ、瑞々しい苦みと痛みを味わう。だが――、

「姫さんはもう、どこにもいねぇよ。死体も残ってねぇ」

「――っ、そういう話じゃ……！」

「そういう話なんだよ。オレにとって、命ってのは」

　怒りを露わにするフェルトを、渇いた回答が黙らせる。
　死後の名声も悪名も、死者には何の意味もない。全ては生きていてこそ。死者の評判に一喜一憂するのは、いずれも生き残ったものたちの感傷だ。

「自分も相手も生きてる間に精一杯やんな。オレから言えるのはそんだけだ」

「――。クソ兜ヤロー、テメーはホントに、なんなんだ？」

「……オレは後追い星だよ」

「後追い……？」

「夜空で一等輝く星の出来損ないってヤツだ」

　それきり、アルデバランはフェルトに背を向け、やり取りを放棄した。そのまま、アルデバランは薪割り台の方に、ハインケルの下に歩み寄る。

「――――」

　俯くハインケルは顔を上げないまま、アルデバランの方を見向きもしない。が、意識はあるだろう。息遣いと、ピリつく全身がこちらの気配を感じ取っている。
　そのささくれ立った心中は想像に容易い。何を、言えばいいものか少し悩むが、

「約束は守る。事が済んだら、『龍の血』は必ずあんたのもんだ」

「――ッ」

　今、ハインケルに必要なのは慰めでも謝罪でもなく、確約の確約。
　そう考えたアルデバランの言葉に、ハインケルが息を呑み、次いで伸びてくる手がアルデバランの上着の裾を掴み、強引に引き寄せた。とっさに片膝をつくアルデバラン、その首筋に冷たい刃が当てられ、すぐ間近のハインケルと目が合う。
　その顔にも血を跳ねさせたハインケルが、青い目を血走らせながら、

「絶対だ……！」

「――――」

「絶対に、約束を守れ。『龍の血』を、何としても……『嫉妬の魔女』も……！」

「わかってる。世界を終わらせるつもりはねぇよ。そのための『暴食』だ」

　首筋に鋭い痛みを感じながら、アルデバランは落ち着いてそう答える。そうしながら軽く手を上げ、ハインケルの暴挙に反応しかけたヤエを下がらせる。
　そうしてしばらく、アルデバランとハインケルは至近距離で睨み合い、

「クソ！」

　吐き捨て、ハインケルが突き飛ばすようにアルデバランを押しのけた。尻餅をつきかけた体を何とか立て直し、アルデバランが前を見れば、ハインケルはまたしても俯き、さっきと同じ閉じこもり状態に戻っていた。
　その様子にアルデバランは兜の金具を指で弄り、小さく吐息する。

　ひとまずのところ、全員の状態は把握できた。
　王都に乗り込む前後で、良くも悪くも全員に消耗があったのは否めないが、誰も欠けなかった点と、ロイを回収できた点でうまく帳消しとしていきたい。
　正直、向いていないのは承知の上だが、うまく舵取りしなければ。

「とりあえず、ここならしばらくは落ち着けるはずだ。ヤエの飯を食って、ちょっと休んでから移動を再開してこう。王都の混乱もまだ続いて――」

　手を叩けない代わりに指を鳴らし、皆の注目を自分に集めるアルデバラン。
　ここまで、最初から付き合っているヤエやハインケルは、ほとんど三日不眠不休の行軍が続いている。それを休める意味でも、時間を取るつもりだった。

　――アルデバランの言葉を遮るように、上空から大岩が投下されてこなければ。

「な」

　と、薄雲で影がかかったと思った直後、アルデバランは超重量に叩き潰される。
　ただ、遠くで、虫の羽音が聞こえた気がした。


　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△


　――オットー・スーウェンは激怒した。
　必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した。――と、怒ったときのお約束の定型句だと前にスバルが言っていた戯言が頭を掠めるほど、オットーは激怒した。

　その怒りの切っ掛けも矛先も、もはや説明不要の領域だろう。
　大罪人と化したアル――アルデバランは許されないことをした。それは彼の心身を気遣い、案じたものたちの心を裏切ったこともそうだし、王国の定めた法律を重たいものだけで百に迫る勢いで破ったこともそう。
　だが、何よりオットーを怒らせたのは、オットーの身内と敵対したことだ。

　オットーは、自分が平和主義者であることを自覚している。
　基本的に争い事は嫌いだし、避けられるトラブルは避けるのが信条だ。実際、行商人としてフルフーとの身軽な二人旅の頃は、やむを得ず巻き込まれる以外では、自分から揉め事に首を突っ込むことも、乱暴な解決法を選ぶこともほとんどなかった。

　だが、エミリア陣営に所属し、内政官の立場になってからは事情が変わる。
　武闘派内政官などと、そうスバルに囃されることには納得していないが、平和主義かつ温厚に物事の解決を目指す――という方針は、今の立場では最優先されない。
　身軽な行商人時代とは、向けられる悪意の質も鋭さも段違いで、なあなあで消極的な対応を続けていては、守りたいものを守り抜くこともできないからだ。

　その一方で、王選候補者の一人に重用されているという自覚も、戒めとして手放すことはできないと、そう自制も利かせていた。
　陣営の内政官で、メイザース領の運営にも携わる立場であるオットーには、かつての自分では想像もできないような地位と肩書きの力がある。それに溺れ、自分の立ち位置を勘違いしないために、オットーは日々、自戒しているのだ。

　そうしたオットーの努力という戒めは、身内に手を出された途端に外れる。

「事情は誰にでもあるでしょう。でも、そのための交渉のテーブルにつくつもりも、その用意もしない相手を、僕は斟酌しない」

　憐れんでほしければ憐れんだ。施してほしければ施した。
　そういう思いやりと優しさが、エミリアを筆頭とした陣営の皆にはある。だから、オットーも最大限、皆のその心根の健やかさを尊重した。
　それでなお、相手が踏み躙ってくるなら、利用してくるなら、仕方ない。

　恵んでほしければ恵んだ。支えてほしければ支えた。
　そして、敵対することを望むのなら、こちらも思う存分に敵対するまでだ。

「エミリア様のおかげで、街に被害は出なかった。貴族街の避難誘導も事前に完了。王都の騎士団は有能ですね」

　起きた出来事の被害状況を整理しながら、オットーは拳を握りしめる。
　事態の把握と進捗の確認に頭を割く必要があるから、憤慨はできない。ただただ、胸の奥に忸怩たる思いがあった。――自分の、情けない醜態への。

　動き出した事態の最初の重みに頭を殴られたとき、オットーはみっともなく、自分の無力を訴え、あろうことかそれをエミリアに慰められた。まるで、真逆だ。あんなことはあってはならなかった。オットーは、エミリアの不安を取り除くべき立場だった。
　それなのに、現実にはオットーは半泣きでエミリアに慰められ、支えるべき相手の言葉に顔を上げさせられ、物理的に背を叩かれる始末だ。

　エミリアには冗談めかしてスバルに殺されるなどと言ったが、本心ではオットーがオットー自身を縊り殺してやりたい心境だった。

　だが、死人には挽回のチャンスなど永遠に回ってこない。だからオットーは自分の首に手をかけるような愚かな真似などせず、全霊で頭を回した。幸い、半泣きになったおかげで少しは頭も晴れた。――もっとも、頭の中ではなおも雷鳴が鳴り響いていたが、稲光も暗闇の奥に目を凝らすには役に立つ。

　思えば昔、フルフーと二人だった頃、雷雨の中を急いでいたとき、荷台に落雷を受けて積み荷が丸々焼き尽くされたことがあった。
　その大いなる不運を嘆くオットーに、愛竜は『僕も坊ちゃんも怪我がなかったことを喜ぼうじゃないですかい』と言ったが、その意見は正しい。
　稲光の続く雷雨の中をゆくのなら、落雷に打たれる覚悟がいる。――そのとき、雷に命を焼かれずに済むかは、当人の運次第。

　その、運で覆せる要素を可能な限り削り、雷雨の中を進ませる。
　それが激怒したオットー・スーウェンの、手段を選ばぬ戦い方の本質――そのためならば、心無いと悪罵されるような手札も躊躇なく切れた。
　その表れが――、

「ラインハルトさん以上の武力も、フェルト様以上の戦力も、王都に滞在中の僕たちには用意ができない。そもそも、僕たちのところまで出番が回ってきた時点で、武力と数は彼らを止める絶対的な指標にはなり得ない」

　どうやってか、アルデバランは『剣聖』ラインハルトを躱し、『神龍』ボルカニカを引き連れて、フェルトたちの戦力をも退けて王都へ到達した。
　その不可解なアルデバランの実行力に、ヴォラキア帝国から戻りたての、仲間たちと別行動中のオットーたちに対抗する術はない。

　故に、生け捕りを指示して送り出したエミリアも、ちょうど王侯館に滞在中だったヴィルヘルムたちに声をかけたのも、決定打を狙ったものではなかった。
　もちろん、エミリアやヴィルヘルムたちで勝ちまでいけるなら最善だが、それは望めないだろうとオットーは予想していた。そして、手持ちの最大戦力をぶつける以上の攻撃的な手段を、現在のオットーたちは有していない。

　――ラインハルト・ヴァン・アストレアの戦い方も、バルガ・クロムウェルの戦略的智謀も、オットー・スーウェンは持ち合わせていない。それらと競い合えるだけの才覚があると、そんな風に自分を高く見積もってもいない。

　能力以上のことができる人間だなんて、オットーは自分に期待しない。――自分にできることなんてせいぜい、持てる能力の十割を発揮することぐらいだ。
　その十割で、オットー・スーウェンができることとは――、

「――王都の西の、放棄された採石場」

　羽音と共に届けられた報告に、地図に印を付けたオットーは目を細める。手には血に染まった手巾、それを鼻に当てながら、朦朧としかける頭を小突く。
　加護のオーバーヒート――使いすぎた疲弊をスバルがそう呼んだとき、その不可思議な響きにガーフィールが目を輝かせていたのを思い出し、唇が緩んだ。

「オーバーヒート、大いに結構。頭が割れてもやめませんよ、僕は……」

　鼻血を流しながらそうこぼし、オットーは集まる羽音――ゾッダ虫に指を鳴らし、次の行動と、監視の継続を指示する。
　ゾッダ虫は気のいい性格かつ、個体としての意識が薄い。群れ単位で方針を共有する彼らは、一匹を説得できれば群れ全体を説得できたのと同じだけの効果を発揮する。そして頼み事に対して彼らの求める見返りは、『安住』であることがほとんどだ。

　その見返りを、オットーは内政官の地位を利用して確保しよう。代わりに、個体の命を危うくする指示に従い、人間にはできない無茶な仕事をこなしてもらう。

　――逃亡する『神龍』に引っ付いて待ち合わせ地点を特定したり、十万以上の群れの力で大岩を相手の頭上に落としたり、囚われのフェルトが残したメッセージを余さず回収したり、あらゆることを。

「……モゴレード大噴口」

　それは、アルデバラン一味に人質として連れ歩かれるフェルトが、こちらに届くと信じて残したメッセージであり、破壊されたバーリエル別邸から回収されたものだ。監視の目を掻い潜り、ゾッダ虫に託すあたり、フェルトも度胸が据わっている。
　端的に、カララギ都市国家のとある地名だけを記したそれは、おそらくはアルデバランたちの次なる狙いか、あるいは目的地だろう。そこを目指して動くというなら、どうぞ存分に動くといい。――ただし、オットーは目を離さない。

　どこへいこうと、隠れようと、オットーは耳鳴りと流血と引き換えに、アルデバランたちの一挙一動を見張り続ける。

「もう、眠れるとは思わないでください。――世界中が今やあなたたちの敵だ」

　勝利する力など、自分にはない。できるのは、相手の力を削ぎ続けること。
　それがオットー・スーウェンの、『剣聖』とも『大参謀』とも異なる、エミリア陣営の内政官としての、自分の力を十割出し切る戦い方なのだ。


TRANSLATED TEXT:
Arc 9: "Light of the Nameless Star"  
Chapter 31: "A Job Done Perfectly"

—Accompanied by a thunderous roar and visual effects that seemed to split the sky, a massive boulder fell.

Indeed, there is much room for doubt as to whether it should simply be described as a "boulder." After all, it was a rock mass easily over a hundred meters in size. It was more fitting to call it a floating mountain in the sky rather than just a boulder. Cracks ran through this mountain, and the hundred-meter mass shattered into pieces, raining down as numerous smaller—yet still five to ten-meter-sized—rock projectiles.

The landing site of these rock projectiles was the streets of the Royal Capital, with estimated casualties ranging from a thousand to ten thousand people. Committing such a large-scale massacre would only be comparable to 『Blue Lightning』 Cecilus Segmunt or the Sin Archbishops of 『Greed』 and 『Sloth』 in modern kill rates. However—

"If we don't limit it to the present, there were quite a few in the past."

With a voice full of fatigue and a hint of exasperation, Aldebaran gazed down from the city wall. Plan B—dropping the mountain—was a despicable tactic used by Aldebaran to create an opportunity to escape when cornered. Considering the circumstances that led to relying on this tactic, Aldebaran should have quickly turned tail and fled, ignoring the chaos and escaping from the Royal Capital. However, Aldebaran couldn't do that. He needed to take responsibility and see it through.

"—As expected."

From within his helmet, Aldebaran's narrowed black eyes reflected the scene, and he let out a hoarse compliment. As the mountain began its descent, the sound and spectacle were overwritten by the equally dramatic screams of the world, and a beautiful tower of ice rising from the ground intercepted the countless rock masses one by one. Contrary to its cold, frozen appearance, it was a warm, merciful, and compassionate saving hand. At the same time, the ice tower, shimmering pale blue in the light, seemed to express the deep sorrow of its caster.

"Isn't thinking like that a bit too poetic, old man?"

As Aldebaran watched the scene, Roy, slung over his shoulder, mocked him. Roy, with his limbs broken and rendered immobile, skillfully raised his upper body using his back muscles to observe the cataclysm that struck the Royal Capital over Aldebaran's shoulder. Despite being unable to do anything, he was annoyingly talkative.

"You're the one whose tongue is getting too poetic with my emotional portrayal. I don't know much, but that sense seems more fitting for your dead counterpart, the 『Gourmet』, rather than you, the 『Bizarre Eating』."

"Haha, attacking me about my dead family shows poor upbringing, doesn't it? Actually, it was Lye who liked to evaluate what he ate, not us. It's strange, isn't it? After all, whether it's us or me, the destination of what we eat is the same 'stomach of the soul.'"

"That's the audacity of a thief, or rather, a food thief."

"I don't like being called a thief. We just want to eat a little more than being full... just a cute little indulgence in gourmet dining."

Say one thing, and he responds with another. The 『Gluttony』's rich vocabulary and strong rhetoric, given the capabilities of his 『Gluttony』 authority, are among the best not only among Sin Archbishops but also in the world. Despite his childlike appearance and speech that reveals his rotten nature, one must not forget that the being slung over his shoulder is a monster of collective knowledge, having devoured countless knowledge and experiences. That's why Aldebaran chose to forcibly subdue him with violence and a curse seal, giving up on persuasion through words.

"......Anyway, the task is done. Let's go."

"Yeah, there's no need to throw a lifeline to the lady who dropped the rock anymore. Don't people often say you're a weirdo or a freak, old man?"

"Thanks for the overall review of my last few days."

Aldebaran responded to Roy, who had accurately guessed the reason for his stay without any explanation and added unnecessary words at the end, without any intention of engaging seriously. Then, Aldebaran quickened his pace once more after confirming the part of the Royal Capital where the damage had been mitigated thanks to Emilia—the noble district that had been completely flattened.

△▼△▼△▼△

Through the battle with Valga Cromwell, Aldebaran realized that there were formidable foes who could challenge even his power, which he had previously considered unbeatable.

Even now, his conviction that no one could defeat him remained unshaken. However, to solidify that conviction, he reminded himself not to become complacent with his power and to never stop thinking.

Therefore, during the 'Gluttony' jailbreak operation in the Royal Capital, he didn't choose an easy redo. Instead, he tackled each life of Aldebaran with meticulous care, like squeezing a tube of toothpaste to the very end, and concluded the count at 6,724.

Whether that number is considered large or small depends on the individual, but Aldebaran fundamentally believes that any count is 'appropriate.'

Regardless of the digits in the count, each attempt was necessary to overcome the wall. On very rare occasions, there was an attempt made just to let his heart take a deep breath, but even such a mental respite was a necessary attempt. Therefore, no matter what the count was, if the desired outcome was achieved, Aldebaran insists that those 6,724 attempts were the 'optimal' number of trials.

"――Hey, you damn helmet guy."

The predetermined rendezvous point—a place some distance from the Royal Capital—was an abandoned quarry, perfect for a gathering of scoundrels who wanted to avoid prying eyes. At that quarry, leaning against a crumbling stone wall, Aldebaran was greeted by Felt, whose eyes were blazing red with anger and hostility, issuing a harsh call.

She twisted her lips, revealing her sharp canines, and crossed her arms, openly displaying her disdain for Aldebaran. Her term of address had been downgraded from 'helmet guy' to 'damn helmet guy.' Felt jerked her slender chin, indicating the direction of the Royal Capital visible in the distance.

"If Emilia hadn't stopped that big rock, how many people do you think would have died? What happened to your policy of not letting anyone die? Are you planning to break your promises every time you falter? That's pathetic."

"......That's right. I'm relieved that you're safe, too, Miss Felt."

"Huh?"

"It's a joke. Otherwise, it's just a lighthearted comment or a terribly failed gag."

Aldebaran responded weakly to Felt, who became more prickly at his reply. Perhaps taking Aldebaran's attitude as insincere, Felt leaned forward, ready to lash out, when Roy, perched on her shoulder, spoke up.

"Felt-chan, I'd like to say 'keep it up,' but if you're going to nag the old man, we've already done the prep work on our side. So why not change the seasoning for a different flavor?"

"There's no 'how about' to it. ......Is it the 'Gluttony' you got caught by? The older brother? The younger brother? Either way, you've got a face that looks annoyingly similar to your siblings."

"Oh, so you know about us too? Well, I guess that's to be expected. I've heard from Louis, you know? That Roy got food poisoning because of Felt-chan."

"Is this about the time you picked a fight over my name? Serves you right."

Felt, whose sharp tongue is becoming even sharper, is said to have encountered 『Gluttony』—Roy Batenkaitos once in Priestella. It was a remark mocking the dead brother at that time, but just like with Aldebaran, Roy only laughed cheerfully at such sarcasm with a "Haha."

"By the way, among us, we don't know which of us was the eldest brother. Sometimes we felt like being the eldest, and other times we felt like being the second, so maybe that's why."

"Don't give me that nonsense. The order of siblings isn't decided by feelings. You should choose whether to give or take before it's too late."

"Haha! Both you and Felt-chan think you can say anything to the hated Sin Archbishop, don't you? It's fine, it's everyone's common understanding, after all."

"Hey, you damn helmet guy, I have no intention of having a fun chat with this one. Shut that jagged mouth of yours and answer my questions."

"I agree that he's noisy, but hold on with the Q&A session. Before that..."

Interrupting Felt's demand, Aldebaran turned his head around. Sensing the intention behind his gesture of looking around the quarry, Felt clicked her tongue and jerked her chin. Towards the back of the quarry, to a shabby hut barely maintaining its shape, Aldebaran's gaze was directed—

"—Al-sama."

"——"

Just then, Yae appeared from the hut, and her eyes met Aldebaran's. Yae, accompanied by a faintly warm aroma, was probably preparing a meal inside the hut. Her thoughtfulness was appreciated. Appreciated, but—

"Judging by that look, you got quite a beating, didn't you?"

At a glance, Aldebaran could sense the difference from her usual elusive demeanor. Her custom maid outfit with Waso taste was torn in places, and her red hair, which she never neglected to care for even on the battlefield, was disheveled. Most of all, it was her expression. It should be called solemn, lacking her usual childishness, which most undermined her character. As proof—

"…I'm glad."

Yae gently placed her hand on her chest and murmured upon Aldebaran's arrival. The emotion in her voice made Aldebaran slightly uncomfortable, but he didn't mention it, shrugging his shoulders with a "come on."

"That's not like the all-purpose helpful maid Yae-san. Unable to support me, what kind of surprise guest were you cozying up with?"

"—. Saying I was cozying up sounds bad, Al-sama. As you know, Yae-chan's heart is firmly under Al-sama's control."

For a moment, she erased the hesitation in her response and answered in her usual manner. Gently stroking her chest with her finger, she continued, "But, but,"

"It's true I spent a passionate time with a gentleman. The one who was at the mansion was 『Sword Demon』 Wilhelm van Astrea… no, Wilhelm Trias-sama."

"The old man 『Sword Demon』, huh? Well…"

Yae must have been taken aback by the unexpected assassin. However, it was hard to call them the worst enemy. Of course, they were undoubtedly one of the kingdom's top fighters, but as a swordsman, they were much easier for Yae to handle than a magician. Moreover, the Bariel Mansion was a hunting ground meticulously prepared by her, a perfect trap of the 'Red Cherry Blossom.'

However, with Aldebaran rushing to the rescue, the sharpness of the 『Sword Demon』 surpassed Yae. That expression was not one of a narrow defeat but a complete loss.

Perhaps the reason for that sharpness was—

"Isn't that old man sulking over there unrelated, right?"

Aldebaran directed his gaze to a red-haired man, Heinkel, who was sitting with one knee up, his head lowered beside a discarded chopping block near the shed. Heinkel, with his head drooping, hadn't even wiped off the red blood staining his entire body. It was unclear from here whether it was his own blood or splattered blood.

"What happened?"

"...I was in a daze, so I didn't see it properly with my own eyes."

"But?"

"I heard that Heinkel-sama defeated the 『Sword Demon』."

"――――"

At Yae's uncertain answer, Aldebaran gasped and looked at Heinkel again. Naturally, Aldebaran was aware of the relationship between Heinkel and Wilhelm. In short, it was a parent-child confrontation, where the son defeated the father.

He also knew about Heinkel's fatal flaw as a swordsman—

"The old man is caught between being a son and a father, endlessly."

Aldebaran didn't know the core of the Astrea Family's conflict. However, he understood that the existence of the 『Blessing of the Sword Saint』 and the title of 『Sword Saint』 created an irreconcilable friction over three generations of parent, child, and grandchild. This incident only solidified that friction.

"――――"

Reinhard and Wilhelm, Heinkel had completely opposed both of them in the past few days, and Aldebaran and the others had no right to worry about his feelings. They were the ones who involved him for their own purposes. Asking if he was okay would only sound insincere. So Aldebaran turned his gaze back to Yae and said,

"And what about the old man? If he was defeated, and that blood on the old man is splattered blood..."

『――I did the bare minimum treatment. Couldn't stay long, so it was really the bare minimum.』

"Whoa!?"

Aldebaran jumped at the sudden voice, looking around frantically. But there was no sign of Aldebaran, the owner of the voice, anywhere. It was the dragon shell of the 『Divine Dragon』. It shouldn't have been a size that could be overlooked—just as he thought that,

『Sorry, sorry, I'll deactivate the optical camouflage for a moment.』

As soon as those words were spoken, the space that should have been empty—a massive dragon's body, leaning against the stone wall Felt was resting on, appeared. The way the blurred air gradually gained color made Aldebaran widen his eyes in amazement,

"Optical camouflage, meaning it was made invisible by refracting light. Can you really do that?"

『It's impossible to adjust in real-time while moving, you know? But if it's only when staying still, it literally reduces the disadvantage of this huge body, right?』

"Yeah, I think an invisible 『Dragon』 is pretty awesome."

The magic that alters the refraction of light can be achieved by combining sun magic and wind magic, but maintaining it continuously is extremely inefficient. To blend into the surrounding scenery requires a highly precise manipulation of magic, and it's a challenge likely to fall short of the desired standard. In fact, even for Aldebaran, it was difficult to achieve, which is why they were kept waiting in the sky, hidden by clouds, in the Royal Capital.

"If you can do that now... it must have been quite a fierce battle."

"It was just as tough on this side. Honestly, if it weren't for the old man's backstab, I might have lost."

"A backstab, huh..."

Aldebaran slowly shook his head, processing the two surprises. One was the terror of the 『Sword Demon』 that made even Aldebaran imagine defeat. Despite having different software, the hardware specs were undoubtedly those of the 『Divine Dragon』, yet reaching that level after continuous battles with Yae was monstrous. And the other, of course, was the manner of Heinkel's intervention in that battle—

"It's not as simple as solving it by winning head-on, but if it was settled with a backstab, the old man's mental state must be a mess."

"Well, I think that's definitely true. After all, since fleeing from the Royal Capital, he hasn't spoken to us even once."

"I see..."

Receiving Yae's affirmation that Heinkel's severe condition was as expected, Aldebaran exhaled deeply and looked around at the people present. Yae, disheartened by defeat, and Aldebaran, overwhelmed by the 『Sword Demon』. Heinkel, crouching in shock from stabbing his father, and Felt, who didn't even bother to hide her hostility towards them. And Roy, in high spirits on his shoulder, with Aldebaran, the villain on a path of cowardice. A group of misfits, all in a pretty battered state.

"—Still, everyone is alive."

Relieved that everyone who faced each other at the quarry survived, Aldebaran relaxed his shoulders, quietly deactivated the 'domain,' and resumed a new matrix. The restart point was updated, and the events in the Royal Capital were now fixed in this world's history. In other words, the tears that flowed from her violet eyes were now irretrievable.

"But that's fine. Once I decided to betray everything, there was no convenient exception for just one person."

There would be no compromise. No wavering of the heart. If they slipped up, everything would be ruined. To conclude that all the pain experienced by their body and heart had meaning, Aldebaran and the others couldn't afford to fail or stop.

"Yae, if you're preparing food, give me some. I'm hungry."

"I couldn't bring food from the mansion, so I stole from a passing shop. I've noted which stores and what I took, so please pay them later."

"You're quite thorough... Got it. And this one too."

"Should I tie and hang him up? I've already done it."

With that, Yae smoothly moved her fingers, and suddenly Aldebaran's shoulder felt lighter. Roy's body, which he had been carrying, was suspended by steel threads, hanging from the stone wall of the quarry.

"What, what, this treatment again? Well, it's better than being hung upside down, I guess."

"Stay like that for a while. Once I decide how to discipline you, I'll fix your hands and feet. But only if..."

"Don't forget the curse mark, right? Isn't that fine? We won't say we're not plotting anything, but we'll quietly evaluate things for a while."

"Evaluate, huh?"

"Is it because Lye died? I have no intention of succeeding the 『Gourmet』, but I thought I might take a bit more interest in things before they end up on the plate!"

Bound hand and foot, suspended in an awkward arching position, Roy swayed his body. Shrugging at the eeriness, Aldebaran exchanged glances with 'Aldebaran.' The one sharing the same consciousness nodded his large jaw, assuring not to look away.

"By the way, Plan B saved us. Thanks to that, we managed to escape."

"Oh, you went with Origin for that one. I was thinking of it as the 'Second Plan.' Well, it's good that we ended up with the same idea."

"Origin?"

"Isn't calling the other me getting a bit confusing? So, I thought how about Origin, meaning the original. How about direct line for me?"

"Origin and direct line, sounds like family ramen."

To Aldebaran's suggestion, Aldebaran casually replied, "I'll think about it." Then, finally, he turned to Felt, who had been put off until later, with an angry face. Felt, arms crossed, still burned with unchanging anger in her eyes, but—

"You figured out well that it was Emilia who stopped that big rock."

"Huh? Are you mocking me? No one but Emilia could do something that stupid."

"The way you say it, it sounds like you're mocking her, but... that's right. We dropped the rock, counting on Emilia to catch it all."

"...You're not getting away with just a kick to the butt."

Understanding Aldebaran's despicable escape tactic correctly, Felt twisted her lips further in threat. Her threat, still tinged with the scent of the lower town, was her utmost expression of anger, yet Aldebaran felt another sentiment simultaneously.

Aldebaran's method and Emilia being caught in it. The fact they broke out 『Gluttony』 was enough to make Felt angry. However, it seemed there were other reasons for Felt's overflowing anger—

"...It's not Felt's fault about his father and the old 『Sword Demon』."

"I don't think it's my fault. It's definitely yours... yours and Reinhard's father and grandfather's fault. But still, it pisses me off, and just thinking about what face that idiot will make when he finds out pisses me off even more."

"――――"

"From the moment I made him my knight, anything related to him can't be considered unrelated to me. Remember that, you helmeted bastard."

"...What?"

"Even if you think what you did was your responsibility, there's no way it won't be talked about together with that princess. What you're doing is kicking the dead."

Felt's sharp gaze and words were the most corrosive to Aldebaran amidst all the venom. The relationship between a knight and their master doesn't disappear even if one dies. If Aldebaran gains infamy, it also tarnishes Priscilla Bariel's name. This realization was thrust upon him, and he tasted fresh bitterness and pain. However—

"The princess is no longer anywhere. Not even a body remains."

"—That's not what I meant...!"

"It is what I mean. To me, life is..."

Felt's anger was silenced by a dry response.  
The fame or infamy after death holds no meaning for the deceased. Everything matters only while one is alive. The joy or sorrow over a deceased's reputation is merely the sentimentality of those who survived.

"Do your best while both you and your opponent are alive. That's all I can say."

"――. Damn helmet guy, what the hell are you?"

"……I'm a trailing star."

"Trailing……?"

"A failed attempt at the brightest star in the night sky."

With that, Aldebaran turned his back on Felt, abandoning the exchange. He then walked over to the log-splitting area where Heinkel was.

"――――"

Heinkel, with his head down, didn't look up or acknowledge Aldebaran. But he was conscious. His breathing and the tension in his body sensed Aldebaran's presence. Imagining his agitated state of mind was easy. Wondering what to say, Aldebaran hesitated a bit but,

"I'll keep my promise. Once this is over, the 『Dragon's Blood』 will be yours."

"――hk"

What Heinkel needed now was neither comfort nor apology, but a firm assurance. Hearing Aldebaran's words, Heinkel gasped, then reached out, grabbing the hem of Aldebaran's coat and pulling him close. Aldebaran instinctively knelt, feeling a cold blade against his neck, meeting Heinkel's eyes up close. Heinkel, with blood-splattered on his face, his blue eyes bloodshot,

"Absolutely……!"

"――――"

"Absolutely keep your promise. The 『Dragon's Blood』, no matter what…… the 『Witch of Envy』 too……!"

"I understand. I have no intention of ending the world. That's what 『Gluttony』 is for."

Feeling a sharp pain on his neck, Aldebaran calmly replied. Raising his hand slightly, he signaled Yae, who was about to react to Heinkel's rashness, to stand down. For a while, Aldebaran and Heinkel glared at each other at close range,

"Damn it!"

Heinkel spat out, shoving Aldebaran away. Aldebaran barely managed to regain his balance, and when he looked ahead, Heinkel had once again lowered his head, retreating into the same withdrawn state as before. Seeing this, Aldebaran fiddled with the metal fittings of his helmet, letting out a small sigh.

For the time being, he had grasped everyone's condition. It was undeniable that everyone had been exhausted, for better or worse, before and after entering the Royal Capital, but he wanted to consider it balanced by the fact that no one was lost and Roy was retrieved. Honestly, he knew he wasn't suited for it, but he had to steer things well.

"For now, we should be able to settle down here for a while. Let's eat Yae's food, rest a bit, and then resume our move. The chaos in the Royal Capital is still ongoing――"

Instead of clapping, Aldebaran snapped his fingers to gather everyone's attention. Up to this point, Yae and Heinkel, who had been with him from the start, had been on a nearly three-day non-stop march. He intended to take some time to let them rest.

――If only a giant rock hadn't been dropped from above, interrupting Aldebaran's words.

"What"

Just as a shadow was cast by thin clouds, Aldebaran was crushed by an enormous weight. However, he thought he heard the distant sound of insect wings.

△▼△▼△▼△

――Otto Suwen was furious.  
He was determined to eliminate the wicked and tyrannical king.――So much so that the cliché phrase Subaru had once jokingly mentioned when angry came to mind, Otto was furious.

The cause and target of that anger no longer require explanation. Aldebaran, who had become a criminal, did something unforgivable. He betrayed the hearts of those who cared for and worried about him, and he broke the laws set by the kingdom with such severity that it nearly reached a hundred counts. However, what angered Otto the most was that Aldebaran opposed Otto's family.

Otto is aware that he is a pacifist. He generally dislikes conflicts and believes in avoiding trouble whenever possible. In fact, during his days as a traveling merchant with Furufu, he rarely got involved in disputes or chose violent solutions unless he was unavoidably dragged into them.

However, things changed after he joined Emilia's camp and took on the role of an internal affairs officer. Although he doesn't agree with Subaru's teasing of him as a militant internal affairs officer, the policy of resolving matters peacefully and gently is not prioritized in his current position. The malice directed at him now is far sharper than during his days as a light-footed merchant, and if he continues to respond passively, he won't be able to protect what he wants to safeguard.

At the same time, Otto is aware of his significant role as someone favored by one of the royal election candidates, and he constantly reminds himself not to let go of this awareness. As an internal affairs officer in the camp, involved in the administration of the Mathers territory, Otto holds a position and title of power he could never have imagined before. To avoid being consumed by it and misunderstanding his position, Otto practices self-restraint daily.

This self-restraint of Otto's efforts is cast aside the moment his family is threatened.

"Everyone has their circumstances. But if the other party has no intention or preparation to come to the negotiation table, I won't show any consideration."

If they want pity, they should be pitied. If they want charity, they should be given charity. Such compassion and kindness are present in everyone in Emilia's camp. Therefore, Otto also respects everyone's healthy disposition to the utmost. Even so, if the other party tramples on them or tries to exploit them, there's no choice.

If they want support, they should be supported. And if they wish to become adversaries, then we will oppose them as much as they desire.

"Thanks to Lady Emilia, there was no damage to the city. The evacuation guidance for the noble district was completed in advance. The Royal Capital's knights are competent."

While organizing the damage situation of the events that occurred, Otto clenched his fist. He couldn't afford to be indignant because he needed to focus on understanding the situation and confirming progress. There was just an indignant feeling deep in his chest—towards his own pathetic disgrace.

When the initial weight of the unfolding situation hit him, Otto embarrassingly lamented his powerlessness and, unbelievably, was comforted by Emilia. It was completely the opposite of what should have happened. Such a thing should never have occurred. Otto was supposed to be in a position to alleviate Emilia's anxieties. Yet, in reality, Otto was half-crying, being comforted by Emilia, and was even physically patted on the back by the very person he should have been supporting.

He jokingly told Emilia that Subaru would kill him, but in truth, Otto felt like he wanted to strangle himself.

However, the dead never get a chance to make amends. So, Otto didn't do anything foolish like putting his hands around his own neck; instead, he used all his strength to think. Fortunately, thanks to his half-crying state, his head cleared a little. Although thunder still roared in his mind, the lightning helped him focus on the depths of the darkness.

Reflecting on the past, there was a time when it was just Furufu and me, and while hurrying through a thunderstorm, lightning struck the cart, burning all the cargo to ashes. As I lamented this great misfortune, my beloved dragon said, "Let's be glad neither of us got hurt, young master," and that sentiment was indeed correct. If you're going to travel through a thunderstorm, you must be prepared for the possibility of being struck by lightning. Whether you escape with your life from the lightning is a matter of luck.

Reducing the elements that can be overturned by luck as much as possible, and advancing through the thunderstorm. That is the essence of Otto Suwen's method of fighting without choosing means—if it meant that, he could unhesitatingly play cards that might be scorned as heartless. This is reflected in—

"We can't prepare military strength greater than Reinhard-san's or forces greater than Felt-sama's while we're staying in the Royal Capital. In the first place, by the time it's our turn, military strength and numbers can no longer be absolute indicators to stop them."

Somehow, Aldebaran evaded the 'Sword Saint' Reinhard, led the 'Divine Dragon' Volcanica, and repelled Felt and her forces to reach the Royal Capital. Otto and his group, who had just returned from the Vollachian Empire and were acting separately from their companions, had no means to counter Aldebaran's incomprehensible execution power.

Therefore, sending Emilia with instructions to capture alive and contacting Wilhelm and others, who happened to be staying at the mansion, were not aimed at a decisive blow. Of course, if Emilia or Wilhelm and the others could secure a victory, that would be best, but Otto predicted that was unlikely. And currently, Otto and his group do not possess more aggressive means than deploying their maximum forces.

Neither the fighting style of Reinhard van Astrea nor the strategic wisdom of Valga Cromwell is something Otto Suwen possesses. He doesn't overestimate himself as having the talent to compete with them.

Otto doesn't expect himself to be capable of more than his abilities allow. At most, what he can do is to fully utilize his capabilities to their fullest extent. And with that full extent, what Otto Suwen can do is—

"—The abandoned quarry to the west of the Royal Capital."

Upon receiving the report delivered with a fluttering sound, Otto marked the map and narrowed his eyes. Holding a blood-stained handkerchief to his nose, he tapped his head to keep from becoming dazed. When Subaru called the overuse of his blessing "overheat," he remembered how Garfiel's eyes sparkled at the mysterious sound of it, and his lips relaxed.

"Overheat, very well. Even if my head splits, I won't stop..."

Muttering this while his nose bled, Otto snapped his fingers at the gathering fluttering sound—the Zodda Bug—and instructed them on the next action and to continue monitoring. The Zodda Bug, with their good-natured disposition and weak individual consciousness, shared their policies as a swarm. Convincing one was as effective as convincing the entire swarm. And what they sought in return for favors was mostly 'sanctuary.'

Otto intended to secure that sanctuary by leveraging his position as an internal affairs officer. In return, he would have them follow orders that endangered their lives and perform tasks impossible for humans.

—Like identifying the rendezvous point by sticking to the fleeing 'Divine Dragon,' dropping a large rock on the enemy's head with the power of a swarm of over a hundred thousand, or collecting every bit of the message left by the captured Felt, and everything else.

"…Mogoredo Great Vent."

The message was left by Felt, who was being taken as a hostage by Aldebaran's group, believing it would reach us. It was recovered from the destroyed Bariel Mansion. Felt entrusted it to a Zodda Bug, slipping past the watchful eyes, showing her courage.

The message simply listed a certain place name in the Kararagi City-State, likely indicating Aldebaran and his group's next target or destination. If they intend to move towards that place, they are free to do so. However, Otto will not take his eyes off them.

No matter where they go or try to hide, Otto will continue to monitor Aldebaran and his group's every move, at the cost of tinnitus and bleeding.

"Don't think you can sleep anymore. The whole world is now your enemy."

Otto does not possess the power to achieve victory. What he can do is continuously weaken the opponent's strength. This is Otto Suwen's way of fighting, different from the 'Sword Saint' or the 'Great Strategist', as the internal affairs officer of Emilia's camp, giving his all.

NAME MAPPINGS:
アルデバラン → Aldebaran
セシルス・セグムント → Cecilus Segmunt
ロイ → Roy
エミリア → Emilia
フェルト → Felt
ヴィルヘルム・ヴァン・アストレア → Wilhelm van Astrea
ヴィルヘルム・トリアス → Wilhelm Trias
ヤエ → Yae
ハインケル → Heinkel
ラインハルト → Reinhard
オットー・スーウェン → Otto Suwen
スバル → Subaru
フルフー → Furufu
ガーフィール → Garfiel
王都 → Royal Capital
モゴレード大噴口 → Mogoredo Great Vent
カララギ都市国家 → Kararagi City-State
バーリエル別邸 → Bariel Mansion
『青き雷光』 → 『Blue Lightning』
『強欲』 → 『Greed』
『怠惰』 → 『Sloth』
大罪司教 → Sin Archbishop
『悪食』 → 『Gluttony』
『美食家』 → 『Gourmet』
『剣鬼』 → 『Sword Demon』
『龍の血』 → 『Dragon's Blood』
『嫉妬の魔女』 → 『Witch of Envy』
『神龍』 → 『Divine Dragon』
ゾッダ虫 → Zodda Bug
アストレア家 → Astrea Family

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