TITLE: Chapter 32 - The Man Called Clind FROM: JA TO: EN DATE: 2025-05-15 ORIGINAL TEXT: 第九章３２　『クリンドという男』 　――アルデバラン一味が休みなく強敵に追われ続ける中、それに負けず劣らずの激闘を続けている場所が、王国には二つあった。 　一つは、封じられた祠からその一部を顕現させ、アウグリア砂丘を呑み込まんとする『嫉妬の魔女』から、世界の滅亡を防ごうとする『剣聖』の戦い。 『嫉妬の魔女』も『剣聖』も、互いが相手でなければ一瞬で決着を付けられる実力の持ち主だが、互いが相手であることで戦況は拮抗し、決着は先送りされ続けている。 　文字通り、七日七晩でも戦いは続くだろう。――世界の崩壊と引き換えに。 　そしてもう一つが、アルデバラン一味とも『剣聖』とも違い、物理的な衝突こそ伴わないものの、他二つの戦いの趨勢に大きく関わる余地のある戦い。 　すなわち、ペトラ・レイテを鍵とした、『後追い星』を追うモノたちの奮闘だ。 　――クリンドという男について、ペトラはあまりにも多くを知らない。 　自分たちの味方である。これは間違いない。 　彼が主人として仕えているアンネローゼ・ミロードは、その幼さとロズワールの親類であるという瑕疵をものともしない利発な少女であり、エミリア陣営の強力な支援者の一人かつ、ペトラ目線でも疑いなしにエミリアに魅了された人物だ。 　そのアンネローゼを献身的に支え、万能の家令として信頼を置かれるクリンドには、ペトラもメイドとして働き始めた当初、作法や礼節を教わる相手として世話になった。 　それはペトラだけでなく、フレデリカやラムといったメイザース家の関係者のほとんど全員が、クリンドの薫陶を受け、使用人のイロハを学んでいる。 　そのため、クリンドはメイザース家に連なる使用人たちの始祖とも言える立場で、本来ならペトラも先生や師父として扱うべき相手なのだろう。 　しかし、そうしたペトラの認識を訂正するのは、他ならぬ彼自身で。 『教え導くなどと、そのような大げさな役目を引き受けたつもりはありません。誤解。私はあくまで、先人の方々から伝え聞いたものを受け渡しているだけ。たまたま長く、この立場に居座れているから機会が多いだけに過ぎません。固辞』 　そのクリンドの考えを、謙虚さや奥ゆかしさの表れと評することもできる。 　だがペトラはそれが、ほとんど感情の揺らぎを面に出さないクリンドの紛れもない本音であることを何となく感じ取っていた。 『結局のところ、あの男は自分を安く見積もっていますのよ。自己評価が低いから、その仕事ぶりも褒められたものではないなどと……人を馬鹿にしていますわ！』 　とは、クリンドに対してだけ、やけに当たりの強いフレデリカの論評だが、ペトラは絶対的に正しく、この世の誰よりも素晴らしいと信じるフレデリカのその見解にだけ、一部賛同し、一部違う意見を持っていた。 　確かに一見、クリンドの態度は自己評価の低い人間のそれに思える。だが一方で、クリンドは自分の言動で、年少者や後輩に何かを伝えるときに迷いや躊躇いを見せることがほとんどない。本当に自己評価の低い人間なら、もっと迷うし、躊躇うはずだ。 　クリンドの在り方には、そうした凡庸な迷いがない。――ペトラと同じだ。 「わたしは、やろうと思ったら何でもできるもん」 　大抵の人間が聞けば、それを驕りだと鼻で笑うかもしれないが、ペトラが大事にしたいのは大抵の人間ではなく、身近な人たちであるので関係ない。そしてその身近な人たちは、ペトラの自信や可能性を信じてくれていると信じている。 　ペトラは、自分が可能性の塊であり、それを開花させる才能がある自覚がある。 　見た目が可愛いだけでなく、望んだ道を歩むのに足る才能と、その才能を信じて努力を続けられる根性が宿った、天に二物も三物も与えられた存在だという自覚が。 　その恵まれた才覚の持ち主として言わせてもらえば、クリンドの在り方は自己評価の低い人間のものではなく、むしろ高い側のそれだ。 　クリンドには、自分が優れた能力の持ち主である自覚がある。その上で、それを誇れることと思っていない。だから一見、謙虚で奥ゆかしい人柄に見えるのだ。 「でも、それってとってもイヤ」 　――クリンドという男について、ペトラはあまりにも多くを知らない。 　しかし、それほど多くを知らないクリンドを、ペトラは正直好きではなかった。 　それは誰に対しても丁寧で慈母のように優しいフレデリカが、クリンドにだけ特別な態度や表情を見せることや、それがどんな感情からくるものなのかの当たりがついていることと無関係ではない。クリンドがロズワールと長い付き合いで、ずいぶんと仲がいいように見えることも、もちろんある。 　が、最大の理由は、フレデリカやロズワールとの関係とも違う、クリンド本人の在り方から派生するもので。 　――もう上がったかのような彼の在り方が、ペトラの主義と真っ向から相反することが何よりの理由だった。 「――戻ってきたから力を貸してっ！　聞こえてるんでしょ、クリンド兄様っ！」 　砂丘の最寄り町、ミルーラの入口の門を竜車で通過し、ペトラは高い声を張り上げ、そう見知った男の存在に呼びかけた。 　プレアデス監視塔から一昼夜、猛然と砂海を駆け抜けたパトラッシュのおかげで、ペトラたちの帰還は最短経路、最短時間で突っ走ったことは間違いない。それでも、『神龍』の翼を借りたアルには大きく後れを取っている。 　その遠くなった背中に追いつくために、彼の力はなくてはならないものだった。 「クリンド兄様っ！」 　手綱を引いて竜車を止め、町の真ん中の広場でペトラは再度声を上げる。 　その懸命なペトラの訴えに、求めた男の声は返ってこない。だが、絶対に声は届いていると、そう信じてペトラは周囲に視線を巡らせる。 『なんだ？　町に誰もいない？』 　ペトラと同じ景色を見渡しながら、イマジナリースバルがそう口にする。 　イマジナリースバルの言う通り、まだ日の高い時間にも拘らず、広場には人っ子一人見当たらない。――否、広場に限らない。町全体から、人の気配が感じられなかった。 　寂れた宿場町の印象が強いミルーラだが、それでも住民の数は百や二百を下らない人数が暮らしていたはずだ。それが一人も見当たらないというのはおかしい。 「……もしかしてえ、兜のおじさんにみんな消されちゃったとかあ？」 『すげぇ怖いこと言い出す！　お前とかエルザじゃねぇんだぞ！』 「メィリィちゃん、怖いこと言わないで。――スバルも、メィリィちゃんはもうそんなことしないよ。教育の賜物」 　前半はメィリィに、後半はイマジナリースバルに言い聞かせる言葉だ。 　確かに一瞬、メィリィの言う最悪のシナリオが頭を過らなかったと言えば嘘になるが、その可能性は人気のない町が、しかし荒らされていないことから否定できる。 　もしもアルがボルカニカと一緒に大暴れしたのだとしたら、町はもっと壊れ、取り返しのつかない惨状が広がっていたはずだ。 　この町の様子は、そうした荒々しい惨状というより――、 「夜逃げしたみたい」 『夜逃げっぽい』 　と、ペトラとイマジナリースバルの感想が思いがけず、重なる。 　イマジナリースバルがペトラの頭の中の住人なのだから、当たり前と言えば当たり前の結果なのだが、恋する乙女としては想い人と考えが一致したのはちょっと嬉しい。 　それに、前向きになれた理由は他にもあった。 「――少々語弊がありますが、おおよそはその見立てで間違いないでしょう。慧眼」 　そう言って、住人の誰もいなくなった町の広場に一人の男が進み出てくる。 　それは荒涼とした殺風景な町の風景の中、異彩を放つ洗練された雰囲気を保つ人物。その不思議な存在感は、真っ白な画用紙に一滴だけ深い青の絵の具の雫を落としたような、押しつけがましくない強さが感じられる。 　たとえ、ここが寂れた宿場町でなく、大勢で賑わう王都の雑踏でも、夏の風物詩である花火をドカンドカンと打ち上げるすし詰め状態の花火会場でも、きっとその男の存在を見落とすことはないだろうと、そう思わせる天性のものだ。 『待ってくれ。今、大急ぎでペトラの知識をナウローディングしてる』 「――クリンド兄様」 『あー、先に言われた！』 　現れた相手に、まだ見覚えのない当時のイマジナリースバルがインターセプトに悔しそうにする傍ら、ペトラは御者台からひょいと飛び降り、相手を真っ直ぐ見る。 　万能家令、そしてこの局面を変える鍵を握った人物――クリンドを。 「――。ミルーラの様子といい、あの砂海の荒れようといい、帰還を取りやめたのは正解だったようです。僥倖」 　左目に付けたモノクルの位置を手で直し、クリンドは空っぽの町の様子と、ペトラたちの背後――濁った色をした空と、その原因に目を細める。 　そして――、 「話をしましょう、ペトラ。私たちにはそれが必要なようだ。早急」 　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△ 「――なるほど。熟考」 　ざっくりとした説明を聞き終え、クリンドが己の細い顎に指を当て、片目をつむる。 　切れ味の鋭い美貌の持ち主の思案、それ自体が一枚の絵画のような荘厳さを持つが、生憎とペトラにはそれに見惚れる余裕もなく、感性の方向性も違う。 　単に美形であれば、鏡を見るか、エミリアを見ているのが一番手っ取り早い。 「ガーフィールと、エッゾという方の容体は？　確認」 「牙のお兄さんもセンセイさんも、どっちも命の心配はいらないと思うわあ。すごおく頑丈なはずの牙のお兄さんがなかなか起きないのは心配だけどお……」 「うん、たぶん、ガーフさんはエッゾさんを庇ったんだと思う」 　メィリィの答えの後半を引き取り、ペトラは竜車に寝かせた二人のことを思う。 　頑丈さが売りでもあるガーフィールが、小人族かつ魔法使いポジションのエッゾと同じように大ダメージを負ったのは、おそらく、『神龍』の攻撃を浴びる際に、ガーフィールの方が前面に立ってエッゾを庇った結果だ。 　その挺身がなければ、エッゾの命はなかったかもしれない。 『で、龍の一発をガーフィールがまともに喰らった、か。……こいつがそこまで体を張れる奴だってことも、十四歳で中二って事実もまだ受け止め切れてねぇが』 「一応、ガーフさんももう十五歳だから。ちなみに、わたしももうすぐ十四歳だよ」 『時の流れは早いぜ。道理でペトラが美少女から美人になったと思った』 「――――」 　重ねて、これはあくまでペトラの頭の中のイマジナリースバルであって、本物のスバルの発言ではない、ということを念頭に入れておく必要がある。もっとも、本物のスバルであっても、このぐらいのことは全然言ってくれるし、聞き覚えもあった。 　お世辞ではない本心とはわかっていつつも、エミリア以外にそれをさらっと言えてしまうところは、こう、色々と悩ましい部分はある。 　ともあれ――、 「ガーフさんとセンセイさんのことも心配だけど、一番の心配事はアルさんのことなの。クリンド兄様も、おんなじ気持ちだから待っててくれたんでしょ？」 「同じ気持ち、というと少々趣が異なります。私がこの地に留まった理由は、ペトラたちをお見送りした際の、些細な違和感が理由でしたので。疑念」 「些細な、違和感？」 「ええ。実はスバル様とベアトリス様、お二人にはお伝えしたのですが。回顧」 　ペトラやメィリィの知らなかった話に、クリンドは物憂げに目を伏せる。実際、それを伝えた二人が揃ってアルの手にかかったのだから、クリンドの自責は相当だろう。 　そのバツの悪さには、クリンドを知らないイマジナリースバルも同情気味になり、 『いや、話を聞けば聞くほど俺とベアトリスが悪いよ。だって、クリンドさんはちゃんとホウレンソウしてたわけじゃん？　で、俺たちはホウレンソウしてないわけじゃん？　その結果がこれだから、むべなるかな……』 「スバルとベアトリスちゃんが悪いなんてことありません。スバルは黙ってて」 『俺の反省文に俺の意思が介在できない！』 　まるで理不尽にぶつかったみたいに嘆くスバルだが、たとえスバル自身であろうと、不用意にスバルをけなすものをペトラは許さない。ましてや、今の言い方ではベアトリスも巻き添えだ。ベアトリスは可愛くて健気、なので罪はない。 　聞けばどんな人間も震え上がるような判官贔屓を一切躊躇わない。それがペトラ・レイテの法廷のルールであり、ペトラ裁判長の裁定だ。 「それでえ？　家令さんが気になったことってなんだったのお？」 「あのときも、具体的な指摘はできませんでした。力不足。ただ、こうして状況が動いてしまった今にして思えば……状況の設定に、疑念の余地が。懸念」 　メィリィに促され、クリンドは目を伏せたまま、自分の心象を言葉に起こす。 　クリンドが気掛かりに思った『状況の設定』というのは、ペトラたちをミルーラで見送ったときのことを示すのだろう。 「不自然というほどではありませんでした。話を聞けば納得のいく人員でもあった。――しかし、そうするための道理を二つ三つ、苦労して通さなければ成立しない組み合わせにも感じられた。作意」 「作意……」 　クリンドのその説明に、ペトラは口の中でその単語を噛みしめる。 　正直なところ、クリンドが言葉を濁して明言を避けた事実――プレアデス監視塔への同行メンバーの選択ミスは、常にペトラの頭を苛む自罰的な理屈として存在していた。 　もしも、スバルたちと一緒にいったのがペトラではなく、エミリアやラム、オットーであればこんなことにはならなかったのではないか。それこそ、当初の予定通りにフレデリカがペトラの代わりにいれば、未然にアルの凶行を防げたかもしれないと。 　アウグリア砂丘を突破するのにメィリィは欠かせず、護衛として陣営で一番頼りになる戦力がガーフィールであり、この二人は同行メンバーに必須の人員だ。 　ペトラだけなのだ。ペトラだけが、入れ替え可能なメンバーだった。 「――――」 　もっと主張するべきだったのではないか。塔行きの先送りか、全員での行動を。 　もちろん、ヴォラキアからの帰還と、かの国で起こった出来事は至急報告すべきだったし、寄る辺を失ったシュルトの心のケアも欠かすべきでないのは事実。そうした真っ当な判断が必要だと思ったから、今のメンバーが成立したのは間違いない。 　でもそこに、ペトラは自分の主観的な、恣意的な願いが差し込まれなかったという自信がない。 　長く離れ離れになったスバルと、片時も離れたくない思いと、彼の役に立ちたいという利己的な功名心。エミリアやレムのいない場所で、ペトラは自分の力や存在がスバルを支えられることを望んだのではないのか。 　だから、クリンドが引っかかった違和感に、気付く余地さえ持てなかった――。 『――ペトラ、そりゃいくら何でも考えすぎだ』 　ぎゅっと、自分のスカートの裾を掴んだペトラの手に、イマジナリースバルの触れられない手が重なって、優しい声が耳元で囁かれる。 　でも、そのスバルの言葉に、ペトラは素直に救われることはできなかった。 『こう、俺が言うのもなんだけど、俺と一緒にいたかった的な、そういう下心がゼロじゃなかったかもなんてのは十分ある話だ。けど、そんなの悪いことじゃない。それにそういう気持ちがちょぴっとあったとしても、ほんの一パーセントだ。残りの九十九パーセントはペトラの優しさだって、ちゃんと俺はわかってる』 「やだな……それも、わたしが頭の中のスバルに自分で言わせてるんだ……」 『それ言われたら、もう俺何にも言えなくなんない！？　禁止カードだろ！』 　自分と一緒にいたがった、なんて自分で言うのも恥ずかしかっただろうに、ほんのり顔を赤くしたイマジナリースバルがそう訴える姿に、ペトラは長く息を吐く。 　本当に、その思いやりで簡単に絆される自分が嫌だ。たぶん、ペトラが安い女の子なのではなく、スバルの言葉にパワーがありすぎるのだと思う。 『それに、ペトラが苦しんでること自体、本気でペトラのせいじゃないって可能性もあると俺は踏んでる』 「それって……アルさんが強すぎるってことと関係ある？」 『まぁ、俺はアルが実際に剣持って戦うところを見たことねぇから、もしかしたら見当違いなこと言うかもしれないけど……ラインハルトのことは知ってるからな』 　アルの実力は未知数でも、この世界の頂点――ラインハルトの実力は知っている。 　ガーフィールもエッゾも、ペトラからは手の届かないような凄腕の実力者だ。その二人を倒したのだから、アルもそれ以上に強いと考えるのが普通だろう。 　だが、どれほどアルが強くても、ラインハルトには敵わない。 『盗品蔵で初めて見たときは、こっちの世界の常識がイマイチわかってなかったからあれだったが……この世界基準でも十分化け物なんだよな、あいつ』 「うん。でも、アルさんはそのラインハルトさんのこともどうにかしちゃった。フラムちゃんが加護で、ラインハルトさんを呼んだのは間違いないから……」 『少なくとも、ラインハルトに瞬殺されてない。それは『神龍』なんてお助けキャラがいても簡単にできることじゃない、ってのは共通見解だろ？』 「そのことと、わたしたちの組み合わせと関係ある？」 『かもしれない。ただ強いってだけじゃ、説明がつかないことが多い気がするんだ』 　イマジナリースバルの口にした引っかかりに、ペトラも慎重に考えを巡らせる。 　確かに、ラインハルトと対峙した時点で、全ての強さはもう意味を持たない。力の強弱では、ラインハルトを躱して自分の目的を果たすことはできないのだ。 　つまり、アルの怖さには、強さ以外の理由がある。 『正直、ここまでアルにとって、運よく都合いい状況が続きすぎてる』 「でも、いつも運のいい人には、運以外の理由があるよね」 『そゆこと』 　核心は掴めないが、そこの部分は押さえておく価値があるとペトラは考える。 　そうして他の可能性を探ることで、行き場のない自責の念も多少は和らいだ。もしかするとこちらの方が、スバルの本命だったのかもしれないとも。 「ペトラちゃん？　ボーッとして、大丈夫なのお？」 「――。ごめんね、メィリィちゃん、平気だよ。それと、クリンド兄様」 「なんでしょう。確認」 「クリンド兄様の感じた引っかかり、間違ってないと思う。その理由はまだわからないけど、でも、その引っかかりを知らないままじゃ、誰もアルさんを止められない」 「――――」 「わたしたちだけなの。わたしたちにしか、アルさんを止められない。――止めて、それからスバルとベアトリスちゃんを取り戻さなきゃ」 　自分の胸に手を当てて、ペトラはクリンドにそう強く訴える。 　溜めて溜めて、最後の一息を発するのには、ペトラもかなりの勇気を必要とした。 『――――』 　腕を組んだイマジナリースバルが、複雑な表情でペトラの横顔を見つめている。そちらに視線を向けないまま、ペトラは自分の中の結論を動じずに信じる。信じ抜く。 　――ペトラが『死者の書』を読んだのだ。最悪の場合、アルはスバルとベアトリスの二人を殺し、この世界から消してしまっている可能性がある。ナツキ・スバルの『死者の書』があるということは、そういうことと考えるのが普通だ。 「でも、わたしのスバルは普通じゃない」 　思わず「わたしの」と言ってしまったが、事実だ。普通でない部分が、事実。 　ナツキ・スバルには、『死に戻り』というとんでもなく辛くて、苦しくて、そして優しい人にしか正しく扱えない力があった。その、これまでにあったスバルの死んでしまった経験が、自分の見た一冊かもしれないと、そうペトラは推察する。 　何故なら――、 「わたしが見た本のあと、スバルは本当に一回も死なないでこれたの？」 『負の信頼って感じだなぁ。けど、ペトラの知ってる感じの……大罪司教の一斉登板とか、プレアデス監視塔の冒険とか、地獄のヴォラキア帝国とか……俺がノーミスで切り抜けたってのは、我ながら信じ難いんじゃねぇかなぁ』 「……うん」 　これまでのスバルの築き上げてきた輝かしい功績、ただでさえ大変な目に遭った上の結果だと思われてきたそれらが、ペトラの思う以上の地獄の詰め合わせだったとわかったとき、ペトラはスバルに失望するどころか、その献身に心を打ち砕かれた。 　そして同時に、気付く。――プリシラを死なせた、スバルの心の傷の深さを。 　スバルは深く深く、誰にも想像できないぐらい深く傷付いた。だからこそ、きっと自分のせいだと背負い込んで、アルのために何でもしようと決意した。 　アルは、そんなスバルの想いも、「自分が死んでもみんなを助けたい」なんて他の誰も真似できない決意も、全部裏切ったのだ。これでスバルとベアトリスを殺していたら、ペトラはアルの体も心も、その魂も八つ裂きにしても、復讐を果たせない。 「ペトラちゃん、お兄さんとベアトリスちゃんはあ……」 「生きてる。絶対に」 「……そうねえ。二人とも、特にお兄さんはしぶといものねえ」 　そう細い声で呟いたメィリィが、そっとペトラの肩に頭を乗せてくる。 　素直でないメィリィも、スバルとベアトリスを心から案じている。そんな風に周りに思わせるのは、スバルがこれまでに積んできた足跡の結果だ。 『ベアトリスといいメィリィといい、俺の知らない俺は何をやったんだか』 　自分のことなのに未知の所業だと、そう呆れた風にイマジナリースバルが呟く。そんなイマジナリースバルの様子に唇を緩め、ペトラは改めてクリンドに向き直った。 　すでに、ペトラの意思と目的は伝えた。あとは、彼の返答を待つのみだ。 　そのペトラの視線を真っ向から受け、クリンドは静かに、薄い唇から吐息をこぼし、 「あなたたちにしかできない、ですか。威勢のいいことを言う。しかし、その気迫は見るべきものがあります。感心」 「――――」 「正直なところ、ああして世界の果てで『魔女』が動き出し、『剣聖』にしか止められない事態を招いた時点で、取り返しのつかぬものと半ば達観していました。反省。ですが、あなたたちがその意気を燃やすなら――」 「待って、クリンド兄様」 　語り始めたクリンド、その言葉をペトラは中途で遮った。 　それは話が長くなりそうだとか、脱線を恐れてのものではなかった。――クリンド的に言うのなら、はっきりとは言えない引っかかりの類だ。だが、その引っかかりを見過ごしたことを悔やんでいる彼にこそ、ペトラはその引っかかりを見過ごせない。 　ペトラが引っかかったのは、クリンドの言いようだ。 「わたしは、わたしたちって言ったの。そのわたしたちには、クリンド兄様も入ってるんですよ。あなたたちなんて、他人事みたいに言わないでください」 「それは……逡巡」 「こんなときだけど、言いますね。クリンド兄様って、前からずっと、自分が輪の外にいるみたいな顔でわたしたちと一緒にいるでしょ。わたし、それが嫌でした」 　一歩引いたところから、大人として、その立ち位置を必要とされる人間として、ペトラたちエミリア陣営と接している、というのならまだわかる。 　でも、クリンドは違う。誰に対しても同じだ。 　クリンドが主として慕うアンネローゼにも、クリンドと悪友みたいな付き合い方のロズワールにも、クリンドを自分の人生から締め出せないフレデリカにも、同じだ。 「そんな過ごし方、エミリア姉様の理想の王国じゃ許されないから」 「――――」 「他人事なんてないの。生きてて、誰かと会って話して顔を見て過ごすんなら、そこで生まれるいいことも悪いことも問答無用なんだよ。ちょっとだけとか、いいところだけ摘まもうとか、そんなズルはできないし、しちゃいけないの」 「ペトラちゃん……」 「そんな風にしてたら、いつか大事なもの全部にそっぽ向かれちゃうんですっ」 　袖に触れたメィリィの存在を感じながら、ペトラは息が切れるくらい強く言い放つ。 　途中から、自分でも言いたいことが言えているのかわからなくなって、ちゃんと伝えたいことが伝えられたかわからない。きっと、『死者の書』のスバルの影響だ。 『おいおい、それも今言ったズルの一環なんじゃねぇの？』 　なんて、眉尻を下げたイマジナリースバルに言われるけど、今はそれを意識的に無視。それよりも、重視すべきなのはクリンドの反応で――、 「大事なもの、全てにそっぽを向かれる、ですか……。痛感」 　そう呟いたクリンドに、ペトラは小さく息を呑んだ。 　それは、クリンドの囁くような声音に込められた、ひどく痛切な感情が胸に痛ましく響いたこともある。だがそれ以上に、クリンドの表情がそうさせた。 「――――」 　クリンドは、その感情を滅多に面に出さない。笑顔も怒りも、悲しむところはペトラは思い当たらなかったが、とにかくそれら全部、無表情で表現するのがクリンドだ。 　そのクリンドの表情に、変化があった。――それは、哀切だ。 　痛切な声と、哀切の表情。その二つが重なれば、人はそれを儚げと言い表す。 　このとき、クリンドは儚げで、そして切なげな、過去を懐かしむ顔をしていた。 「すでに、なのですよ。郷愁」 「クリンド、兄様」 「すでに一度、私はその全てにそっぽを向かれたあとなのです、ペトラ。自嘲」 　そう言葉にされ、ペトラは直前の自分の発言を思い出し、羞恥を覚える。 　知った風に、自分で齧ったばかりの感情のことを偉そうに語ってしまった。すでにクリンドは、その感覚を知っていて、その上で今があると振る舞っていたのに。 　ただ、その恥を覚えても、なお、ペトラは言いたい。 「それでも……っ」 「――ええ、それでもです。感嘆」 「え？」 「かつて一度、何もかもを手放した。それで空っぽになったのが事実だとしても、その後の私の歩いてきた道のりにも、得たもの、積み上げたものがある。自省。――ペトラ、あなたたちとの関係も、その一つでしたね。天啓」 　そう口にしてから、クリンドは目をつぶり、空を仰ぐ。 　まばらに雲が引き千切られていく、世界の終わりを向こう側にギリギリで押しとどめているような空、そこに彼は何を見たのか。 「何故、命じられたわけでもなく、微かな違和感を理由にこの場に留まったのか。私もまた、このまま行き過ぎるのを耐え難いと、そう思ったからなのでしょう。氷解」 「……ええと、クリンド兄様、それって」 「それってつまり、ペトラちゃんの言う通りでしたごめんなさあいってことお？」 「メィリィちゃん！」 『うおお、メィリィパイセン、言うなぁ』 　戸惑うペトラの傍らで、はっきりそう言ったメィリィに驚かされる。目を見張ったペトラの横、感心した風なスバルがメィリィを「パイセン」と呼んだことに、そのことの記憶がなくてもスバルらしい反応だと、そうも思わされるが。 　と、そんなペトラの混乱を余所に、クリンドは「ふ」と小さく笑い、 「当事者意識に欠け、不安にさせたことを謝罪します。陳謝。その上でペトラ、あなたに感謝します。大恩。――私も、前向きに協力したい」 「クリンド兄様……っ」 　そう告げ、かしこまった一礼をするクリンドにペトラは目を輝かせる。 　しかし、そんなペトラの感激に水を差すように、メィリィが「っていうか」と続け、 「別に家令さんはわたしたちの邪魔しようとか、協力しませえんなんて言うつもりはなかったんでしょお？　ペトラちゃんの気にしすぎじゃなあい？」 「そ、それはそうかもしれないけど……っ」 「いえ、それは違いますよ、メィリィ。訂正。当事者意識を持つということは、私も率先して解決のための策を出すということ。傍観者とは大きく違う。別人」 『別人はいくら何でも言いすぎだろ！』 「でも、そのくらい期待してもいいってこと、ですよね？　だったら！　クリンド兄様の不思議パゥワーで、わたしたちをみんなのところに……」 　ぐっと前のめりになり、ペトラがクリンドの力を使い倒そうと意気込む。 　実際、ペトラがこの状況で一番当てにしていたのがクリンドの『転移』の力だ。目的地までの距離を一瞬でなくす彼のテレポートは、『神龍』を引き連れてどこかへ向かったアルを追いかけるのになくてはならない力になる。 　アルの目的地は不明だが、あれだけ目立つ『神龍』連れなのだ。 　エミリアやラムたち、正直嫌だがロズワールらの協力があれば、向かう先を特定し、追いつくことも十分可能になるはず。 　と、そう鼻息荒くペトラは意気込んだのだが――、 「残念ですが、私の移動術は無制限に使えるものではありません。むしろ、制限という意味ではかなり融通の利かない力です。残念」 「クリンド兄様の嘘つきっ！　裏切り者っ！」 『期待させてそんなのないぜ！　クリンド兄様のぬか喜びゃー！』 「い、言いすぎよお、ペトラちゃん。家令さんも悪気はないと思うわあ」 　見えた光明がいきなり雲隠れし、ペトラがイマジナリースバルと二人で怒る。その怒りの半分しかクリンドとメィリィに伝わらないが、ぬか喜びさせられたのは事実。 　そもそも、仕組みのわからない力と言えばそうなのだが、当てにしていた『転移』が使えないとなると、ただイケメンが前向きについてくるだけの話だ。 「あれは正確には『転移』ではなく、空間と時間の『圧縮』です。説明。本来、移動するはずの距離と、必要な時間を『圧縮』する。ただし、世界の在り方に大きく影響を与えかねないため、オド・ラグナの目こぼしが必要となる。便宜」 『オド・ラグナ？　なんじゃらほい』 「マナとかの根源、スバルの知識だと、意識のない神様みたいなもの……たぶん」 　クリンドの口にした不意打ち気味の単語、それに首を傾げるイマジナリースバルに説明しながら、ペトラもその理解にイマイチ確証はない。 　ロズワールに師事し、魔法を教わる立場になっているペトラは、オド・ラグナについても通り一遍の講釈は受けたのだが、ちゃんとわかっているかは微妙なところだ。ロズワールも、オド・ラグナを完璧に理解しているとは言い難い、とか言っていた。 　ただ、オド・ラグナは途轍もなく大きな力の塊であり、それはある意味、『剣聖』や『神龍』、『嫉妬の魔女』といった力あるモノの頂とも、別格の位置にある何かだと。 「その、オド・ラグナを誤魔化せないと、どうなるわけえ？」 「不明です。不明であるという、その事実が恐ろしい。震撼」 　メィリィの質問にそう応じ、ゆるゆるとクリンドが首を横に振る。 　彼の答えには誤魔化す意図や、はぐらかそうとする意思は感じられない。つまり、何でも知っているように見えるクリンドも、ロズワールと同じ見解。 　でも、だとしたら――、 「クリンド兄様は、今まで何回かそれをやってくれたでしょ？　それは、今の話だと、オド・ラグナを誤魔化せたってこと……どうすればいいの？」 「ペトラ……」 「その方法があるから、クリンド兄様は力が使えてた。何があればいいの？　例えば……魔法を使うにはマナがいる。精霊を従えるのには契約がいる。だったら、オド・ラグナに何かしてもらうのにも、対価がいる？」 「――。あなたという子には、本当に驚かされる。脱帽」 　そのクリンドの反応が、ペトラの推測が正しいことを裏付けていた。 　すなわち、オド・ラグナに対価を捧げることで、クリンドの規格外の力を使う許可をもらえる。クリンドの言い方に従うなら、目こぼししてもらえるのだ。 『賄賂とか袖の下ってわけか。……超俗物だな、神様のくせに』 　渋い顔でこぼすイマジナリースバルに、ペトラも全く同意見。でも一方で、何もなしで施しを与えてくれる神様より、対価を求める神様の方が信用できる気もした。 　何より、身を切らないで欲しいものが手に入るほど、世界は難易度イージーにはできていないのだと、そうペトラは『死ぬほど』知っている。 　だから――、 「何がいるのか教えてください、クリンド兄様。わたしは、それが何であっても必ず用意します。スバルとベアトリスちゃんと、みんなのためだから」 「あらあ、ペトラちゃんったらおかしいのお。さっき自分で言ってたのに、わたしじゃなくて、わたしたちだってえ」 「――。ごめんごめん。でも、ありがと」 　決意を固めたペトラの腕を抱いて、そう言ったメィリィに微笑みを向ける。 　思えば、メィリィともこんな関係になれるなんてちっとも思っていなかった。彼女が屋敷の座敷牢に囚われていたとき、ペトラがたびたびメィリィの下を訪れたのは、彼女が情に絆され、危ない存在でなくなればいいという打算が目的だった。 　こんな風に、一人決意したペトラに寄り添ってくれるなど、想像もしなかった。 　そしてこの全部を、ペトラは彼にもらったのだから。 「――可能性です。回答」 　そのペトラとメィリィを前に、クリンドが一拍おいて、そう言った。 　そこにあったのは躊躇いや逡巡、あるいは幼い少女たちにこれを告げることへの迷いや懊悩、そんな後ろ向きなものではなかった。 　クリンドは事態を我が事と受け止め、同じ問題に向かい合うペトラたちのことも、確かな仲間だと認めた。その上で、続ける。 「世界に、オド・ラグナにもたらすであろう影響、可能性、それを対価にする。それが私が有する、『憂鬱』の魔女因子の権能、その使用の条件です。――白状」 TRANSLATED TEXT: Chapter 9-32: "The Man Called Clind" —While Aldebaran's group was relentlessly pursued by formidable foes, there were two places in the Kingdom where equally fierce battles were being waged. One was the battle of the 『Sword Saint』, trying to prevent the world's destruction from the 『Witch of Envy』, who had manifested a part of herself from the sealed shrine and was threatening to engulf the Augria Sand Dunes. Both the 『Witch of Envy』 and the 『Sword Saint』 possessed the power to conclude the battle in an instant if not for each other. However, because they were each other's opponents, the battle remained evenly matched, with the conclusion continuously postponed. Literally, the battle could continue for seven days and seven nights—at the cost of the world's collapse. The other battle, unlike those involving Aldebaran's group or the 『Sword Saint』, did not involve physical confrontation but had the potential to significantly influence the outcome of the other two battles. This was the struggle of those pursuing the 『Following Star』, with Petra Leyte as the key. —Petra knew very little about the man called Clind. He was undoubtedly an ally. Annerose Miload, whom he served as a master, was a bright young girl who was not hindered by her youth or her relation to Roswaal and was a strong supporter of Emilia's camp. From Petra's perspective, there was no doubt that she was captivated by Emilia. Clind, who supported Annerose devotedly and was trusted as a versatile steward, had initially been someone Petra relied on to learn manners and etiquette when she started working as a maid. Not only Petra, but almost all members related to the Mathers Family, including Frederica and Ram, had received Clind's guidance and learned the basics of being a servant. Therefore, Clind held a position akin to the progenitor of the servants connected to the Mathers Family, and Petra should have treated him as a teacher or mentor. However, it was Clind himself who corrected Petra's perception. "I never intended to take on such an exaggerated role as teaching and guiding. Misunderstanding. I am merely passing on what I have heard from my predecessors. It is only because I have been in this position for a long time that I have had many opportunities. Refusal." Clind's perspective could be seen as a reflection of humility and modesty. Yet Petra somehow sensed that this was Clind's genuine sentiment, almost devoid of emotional fluctuation. "In the end, that man underestimates himself. Because his self-assessment is low, he thinks his work is not worthy of praise... It's insulting!" This was Frederica's unusually harsh critique of Clind, but Petra partially agreed and partially disagreed with Frederica's view, which she believed to be absolutely correct and more wonderful than anyone else in the world. Indeed, at first glance, Clind's attitude seemed like that of a person with low self-esteem. However, on the other hand, Clind rarely showed hesitation or doubt when conveying something to younger or junior individuals through his words and actions. If he truly had low self-esteem, he would hesitate more. Clind's demeanor lacked such ordinary doubts—just like Petra. "I can do anything if I set my mind to it." Most people might scoff at this as arrogance, but Petra didn't care because what mattered to her were not most people but those close to her. And she believed that those close to her believed in her confidence and potential. Petra is aware that she is a bundle of potential and has the talent to make it blossom. She is not only cute in appearance but also possesses the talent to walk the path she desires, along with the determination to continue believing in that talent. She is aware that she is a being endowed with not just two but three gifts from the heavens. As someone blessed with such talents, she would say that Clind's way of being is not that of someone with low self-esteem but rather someone with high self-regard. Clind is aware that he possesses excellent abilities. However, he does not think it is something to boast about. Therefore, at first glance, he appears to be a humble and modest person. "But that's really unpleasant." ――Petra doesn't know much about the man named Clind. However, Petra honestly didn't like Clind, whom she didn't know much about. This was not unrelated to the fact that Frederica, who is gentle like a loving mother to everyone, showed special attitudes and expressions only towards Clind, and Petra had a hunch about what emotions those came from. It also had to do with the fact that Clind seemed to have a long-standing and close relationship with Roswaal. But the biggest reason was derived from Clind's own way of being, which was different from his relationships with Frederica or Roswaal. ――The way he seemed to have already reached the top was fundamentally opposed to Petra's principles. "――I've come back, so lend me your strength! You can hear me, right, Clind-nii-sama!" Passing through the gate at the entrance of Milura, the nearest town to the sand dunes, in a dragon carriage, Petra raised her voice and called out to the familiar presence of a man. Thanks to Patrasche, who had fiercely traversed the sand sea for a day and night from the Pleiades Watchtower, Petra and her group's return had been on the shortest route and in the shortest time possible. Even so, they were far behind Al, who had borrowed the wings of the 『Divine Dragon』. To catch up with that distant back, his power was indispensable. "Clind-nii-sama!" Pulling the reins to stop the dragon carriage, Petra raised her voice again in the middle of the town square. The voice of the man she sought did not return in response to Petra's earnest plea. However, believing that her voice was definitely reaching him, Petra looked around. 'What? Is there no one in the town?' Imaginary Subaru voiced this while surveying the same scenery as Petra. As Imaginary Subaru said, despite it still being broad daylight, there wasn't a single person to be seen in the square. ――No, it wasn't just the square. There was no sign of people throughout the entire town. Milura, with its strong impression as a desolate post town, should still have had a population of a hundred or two hundred people living there. The fact that not a single person was in sight was strange. "…Could it be that the helmet guy made everyone disappear?" 'You're saying something really scary! You're not like Elsa!' "Meili-chan, don't say scary things. ――Subaru, Meili-chan won't do such things anymore. It's the result of education." The first half was directed at Meili, and the latter half was words to reassure Imaginary Subaru. It would be a lie to say that the worst-case scenario Meili mentioned didn't momentarily cross their minds, but the possibility was negated by the fact that the town, despite being devoid of people, was not ravaged. If Al and Volcanica had gone on a rampage, the town would have been more destroyed, and an irreparable disaster would have spread. The state of this town was more like――, "It looks like they fled overnight." 'It seems like an overnight escape.' Petra and Imaginary Subaru's impressions unexpectedly align. Since Imaginary Subaru resides in Petra's mind, it's only natural that their thoughts coincide, but as a girl in love, she's a bit pleased that her thoughts match with the person she admires. Moreover, there were other reasons for her newfound optimism. "――There might be some misunderstanding, but overall, your assessment is correct. Keen insight." Saying this, a man steps forward into the town square, now devoid of any inhabitants. Amidst the desolate and barren scenery of the town, he maintains a sophisticated aura that stands out. His mysterious presence feels like a single drop of deep blue paint on a blank canvas, exuding an unobtrusive strength. Even if this were not a deserted town but the bustling capital filled with people, or a packed fireworks festival with summer fireworks booming, one would not overlook this man's presence—such is his innate nature. 'Wait a moment. I'm quickly loading Petra's knowledge now.' "――Clind, brother." 'Ah, you said it first!' While the then-unfamiliar Imaginary Subaru feels frustrated at being intercepted by the person who appeared, Petra nimbly jumps down from the driver's seat and looks straight at the person—Clind, the versatile steward and the one holding the key to changing this situation. "――. Considering the state of Milura and the turmoil of the sand sea, it seems it was the right decision not to return. Fortunate indeed." Adjusting the position of the monocle on his left eye with his hand, Clind narrows his eyes at the empty town and the murky sky behind Petra and the others, as well as the cause of it. And then――, "Let's talk, Petra. It seems we need to do that. Urgently." △▼△▼△▼△ "――I see. Thoughtful." After listening to a rough explanation, Clind places a finger on his slender chin and closes one eye. The contemplation of this sharp-featured beauty holds a solemnity akin to a painting, but unfortunately, Petra doesn't have the luxury to be captivated by it, nor does her sensibility align with it. If it's simply about beauty, looking in a mirror or at Emilia would be the quickest. "What about Garfiel and the person named Ezzo's condition? Confirmation." "Both the fang brother and the teacher don't seem to be in any life-threatening danger. It's a bit worrying that the tough fang brother isn't waking up, though..." "Yeah, I think Garf probably shielded Ezzo." Picking up from the latter part of Meili's response, Petra thinks of the two lying in the dragon carriage. Despite his toughness, Garfiel, who is in the same position as the dwarf and magician Ezzo, suffered significant damage likely because he stood in front to shield Ezzo from the 『Divine Dragon』's attack. Without his intervention, Ezzo might not have survived. 'So, Garfiel took a direct hit from the dragon. I still can't fully grasp that this guy is capable of going that far, or that he's fourteen and in his second year of middle school.' "For the record, Garf is already fifteen. By the way, I'm almost fourteen." 'Time flies. No wonder Petra has turned from a beautiful girl into a beautiful woman.' "――――" It is important to remember that this is merely an Imaginary Subaru in Petra's mind, and not something actually said by the real Subaru. However, even the real Subaru would say something like this without hesitation, and it was something she had heard before. Even though she understood that it was not flattery but his true feelings, the fact that he could say such things so casually to someone other than Emilia was, well, somewhat troubling. Anyway――, "I'm worried about Garf and Sensei, but my biggest concern is Al. Clind, you feel the same way, which is why you waited, right?" "When you say 'the same way,' it's a bit different. The reason I stayed here was due to a slight discomfort I felt when seeing Petra and the others off. Doubt." "A slight, discomfort?" "Yes. I actually informed both Subaru and Beatrice about it. Recollection." Hearing about something Petra and Meili didn't know, Clind lowered his eyes with a melancholic expression. In reality, since both of them had fallen into Al's hands after being informed, Clind must feel quite responsible. Even the Imaginary Subaru, who didn't know Clind, felt a bit sympathetic towards this awkwardness, 'No, the more I hear, the more it seems like Beatrice and I are at fault. I mean, Clind did report properly, didn't he? And we didn't report back, did we? That's why this happened, so it's inevitable...' "It's not Subaru and Beatrice's fault. Subaru, be quiet." 'My own reflection can't include my own will!' Subaru lamented as if he had encountered something unreasonable, but Petra wouldn't allow anyone to carelessly criticize Subaru, even if it was Subaru himself. Moreover, the way it was said implicated Beatrice as well. Beatrice is cute and earnest, so she is blameless. Petra wouldn't hesitate to show favoritism that would make anyone tremble upon hearing it. That is the rule of Petra Leyte's court, and the judgment of Judge Petra. "So, what was it that concerned you, Clind?" "At that time, I couldn't point out anything specific. Lack of ability. However, now that the situation has unfolded like this... there is room for doubt in the setting of the situation. Concern." Prompted by Meili, Clind, still with downcast eyes, put his thoughts into words. The 'setting of the situation' that Clind found concerning likely referred to when they saw Petra and the others off at Milura. "It wasn't so unnatural. The personnel made sense when you heard the explanation. ――However, it felt like a combination that couldn't be established without forcing two or three reasons through. Intent." "Intent..." Petra mouthed the word, mulling over Clind's explanation. To be honest, the fact that Clind avoided explicitly stating it—the choice of companions for the Pleiades Watchtower—always lingered in Petra's mind as a self-critical reasoning. If it hadn't been Petra who went with Subaru and the others, but Emilia, Ram, or Otto, perhaps things wouldn't have turned out this way. If Frederica had gone in Petra's place as initially planned, they might have prevented Al's violent act. Meili was indispensable for crossing the Augria Sand Dunes, and Garfiel was the most reliable force for protection, making these two essential members of the team. It was only Petra. Only Petra was the interchangeable member. "――――" Could it be that I should have asserted myself more? Perhaps postponed the journey to the tower or insisted on acting together. Of course, returning from Vollachia and reporting the events that took place there was urgent, and it was indeed necessary to care for Schult's heart, who had lost his place of belonging. It was undoubtedly the right decision to have the current members, considering these reasonable judgments. However, Petra lacks confidence that her subjective, arbitrary wishes didn't influence the decision. The selfish desire to not be apart from Subaru, whom she had been separated from for so long, and the selfish ambition to be of use to him. In a place without Emilia or Rem, didn't Petra hope that her strength and presence could support Subaru? That's why she couldn't even notice the discomfort that Clind sensed――. "――Petra, you're overthinking it, no matter how you look at it." Petra's hand, tightly gripping the hem of her skirt, felt the imaginary touch of Imaginary Subaru's hand overlapping hers, and a gentle voice whispered in her ear. Yet, Petra couldn't simply be saved by Subaru's words. "Well, even though I'm the one saying this, the idea that maybe there wasn't zero ulterior motive in wanting to be with me is entirely possible. But that's not a bad thing. Even if there was a tiny bit of that feeling, it's just one percent. I understand that the remaining ninety-nine percent is Petra's kindness." "Oh no... I'm the one making the Subaru in my head say that..." "If you say that, I can't say anything else! That's a forbidden card!" Imaginary Subaru, who must have been embarrassed to admit he wanted to be with her, blushed slightly as he protested, and Petra let out a long breath. She really disliked how easily she was swayed by that kindness. Probably, it's not that Petra is a cheap girl, but that Subaru's words have too much power. "Besides, the fact that Petra is suffering might genuinely not be Petra's fault, I think." "Does that have something to do with Al being too strong?" "Well, I've never actually seen Al fight with a sword, so I might be saying something off the mark... but I know about Reinhard." Even if Al's true strength is unknown, the pinnacle of this world—Reinhard's strength is known. Garfiel and Ezzo are both highly skilled individuals beyond Petra's reach. Since Al defeated those two, it's normal to think he's even stronger. However, no matter how strong Al is, he can't match Reinhard. "When I first saw him in the stolen goods warehouse, I didn't quite understand the common sense of this world, but... even by this world's standards, that guy's a monster." "Yeah. But Al managed to deal with Reinhard somehow. It's certain that Flam's blessing summoned Reinhard..." "At the very least, he wasn't instantly defeated by Reinhard. That's something that can't be easily done, even with a helper character like the 『Divine Dragon』, right?" "Does that have anything to do with our combination?" "Maybe. It feels like there are many things that can't be explained by just being strong." Imaginary Subaru's comment made Petra ponder carefully. Indeed, when facing Reinhard, all strength becomes meaningless. In terms of power, it is impossible to evade Reinhard and achieve one's goals. In other words, Al's fear stems from reasons beyond mere strength. "Honestly, up until now, things have been conveniently favorable for Al." "But for people who are always lucky, there's usually a reason beyond luck, right?" "Exactly." Although she couldn't grasp the core, Petra thought it was worth noting that aspect. By exploring other possibilities, some of the directionless self-reproach was alleviated. Perhaps this was what Subaru truly intended. "Petra-chan? Are you okay, spacing out like that?" "—. Sorry, Meili-chan, I'm fine. Also, Clind-niisama." "What is it? Confirmation." "I think the unease Clind-niisama felt isn't wrong. I don't know the reason yet, but without knowing that unease, no one can stop Al-san." "――――" "It's just us. Only we can stop Al-san. — We have to stop him and then get Subaru and Beatrice-chan back." Placing her hand on her chest, Petra strongly appealed to Clind. It took considerable courage for Petra to finally express her last breath. "――――" Imaginary Subaru, with arms crossed, looked at Petra's profile with a complex expression. Without turning her gaze towards him, Petra unwaveringly believed in her conclusion. She believed with all her heart. —Petra had read the 『Book of the Dead』. In the worst-case scenario, Al might have killed both Subaru and Beatrice, erasing them from this world. The existence of Natsuki Subaru's 『Book of the Dead』 suggests such a possibility. "But, my Subaru is not ordinary." She inadvertently said "my," but it was true. The extraordinary part was a fact. Natsuki Subaru possessed the incredibly painful, arduous, and gentle power of 『Return by Death』, which only a kind-hearted person could handle correctly. Petra speculated that the book she saw might have been one of Subaru's past death experiences. Because— "After the book I saw, has Subaru really managed to not die even once?" "It feels like negative trust. But considering Petra's knowledge of... the simultaneous appearance of the Sin Archbishops, the adventures at the Pleiades Watchtower, the hellish Vollachia Empire... it's hard to believe I got through all that without mistakes." "…Yeah." When Petra realized that Subaru's brilliant achievements, which were already considered the result of enduring hardships, were actually a collection of hellish experiences beyond her imagination, she wasn't disappointed in Subaru but rather shattered by his dedication. And simultaneously, she realized the depth of Subaru's heartache from letting Priscilla die. Subaru was deeply, unimaginably wounded. That's why he took it upon himself, believing it was his fault, and resolved to do anything for Al. Al betrayed all of Subaru's feelings, including his unparalleled resolve to "want to help everyone even if it means dying." If Al had killed Subaru and Beatrice, Petra wouldn't be able to achieve revenge even if she tore Al's body, heart, and soul to pieces. "Petra-chan, your brother and Beatrice-chan are ah…" "I'm alive. Absolutely." "...Yes, indeed. Both of you, especially your brother, are quite tenacious." Meili murmured in a soft voice, gently resting her head on Petra Leyte's shoulder. Despite her outward demeanor, Meili genuinely worried about Natsuki Subaru and Beatrice. This perception by those around her was a result of the footprints Subaru had left behind. "Beatrice and Meili, I wonder what the me I don't know has done." Imaginary Subaru muttered in an exasperated tone, as if his own actions were unknown to him. Petra, noticing Imaginary Subaru's demeanor, smiled and turned back to Clind. She had already conveyed her intentions and purpose. Now, all that remained was to wait for his response. Receiving Petra's gaze directly, Clind quietly let out a breath from his thin lips. "Something only you can do, is it? Bold words. However, your determination is something to behold. Admirable." "――――" "To be honest, when the 'Witch' began to move at the edge of the world, and it led to a situation that only the 'Sword Saint' could stop, I had half-resigned myself to the irreparable. Regretful. But if you are determined to fuel that spirit—" "Wait, Clind brother." Petra interrupted Clind as he began to speak. It wasn't because the conversation seemed long or out of fear of digression. As Clind might say, it was an indistinct sense of unease. However, Petra couldn't overlook that unease, especially since Clind regretted having overlooked it himself. What caught Petra's attention was Clind's choice of words. "I said 'we.' That 'we' includes you too, Clind brother. Don't talk as if it's someone else's business." "That is... hesitation." "Even at a time like this, I'll say it. Clind brother, you've always been with us, acting like you're on the outside looking in. I didn't like that." If he was engaging with Petra and the Emilia camp from a step back, as an adult, fulfilling a necessary role, that would be understandable. But Clind was different. He was the same with everyone. Whether it was Annerose Miload, whom Clind admired as his master, Roswaal, with whom Clind had a relationship akin to bad friends, or Frederica, who couldn't exclude Clind from her life, it was the same. "Such a way of living isn't allowed in Emilia's ideal Kingdom." "――――" "There's no such thing as someone else's business. If you're alive, meeting people, talking, seeing faces, then the good and bad things that arise from that are inevitable. You can't just pick and choose the good parts or take only a little. That's unfair, and you shouldn't do it." "Petra..." "If you keep doing that, eventually everything important will turn its back on you!" Feeling Meili's presence touching her sleeve, Petra declared strongly, almost out of breath. Partway through, she wasn't sure if she was conveying what she wanted to say or if it was understood. Surely, it was the influence of the 'Book of the Dead' Subaru. "Hey, isn't that part of the unfairness you just mentioned?" Imaginary Subaru, with lowered eyebrows, pointed out, but Petra consciously ignored it for now. More important was Clind's reaction— "Everything important turning its back on you... I feel it deeply." Petra Leyte gasped softly at Clind's murmur. It was partly because the deeply poignant emotion in Clind's whispering voice resonated painfully in her chest. But more than that, it was Clind's expression that caused it. "――――" Clind rarely showed his emotions on his face. Petra couldn't recall seeing him smile, get angry, or express sadness; in any case, Clind expressed all of these with a blank expression. But now, there was a change in Clind's expression. ――It was one of sorrow. A poignant voice and a sorrowful expression. When these two overlap, people describe it as ephemeral. At that moment, Clind looked ephemeral and wistful, as if reminiscing about the past. "It's already, you know. Nostalgia." "Clind, brother." "Once already, I was turned away from all of it, Petra. Self-mockery." Hearing those words, Petra recalled her earlier statement and felt embarrassed. She had arrogantly spoken about emotions she had only just begun to understand. Clind already knew that feeling and acted as he did now, having experienced it. Yet, despite her embarrassment, Petra still wanted to say, "Even so...!" "――Yes, even so. Admiration." "Huh?" "Once, I let go of everything. Even if it's true that I became empty, there are things I've gained and built up on the path I've walked since then. Introspection. ――Petra, my relationship with you all was one of those things. Revelation." After saying this, Clind closed his eyes and looked up at the sky. The sky, where clouds were sparsely torn apart, seemed to barely hold back the end of the world. What did he see there? "Why did I stay here, without being ordered, just because of a slight sense of discomfort? Perhaps I too found it unbearable to let things pass by like this. Realization." "Uh, Clind brother, does that mean..." "Does that mean, 'I'm sorry, Petra-chan, you were right all along'?" "Meili-chan!" 'Whoa, Meili-senpai, that's bold!' Beside the bewildered Petra, Meili's clear statement surprised her. Even though Petra was taken aback by Natsuki Subaru calling Meili "senpai" with admiration, it seemed like a typical Subaru reaction, even if she didn't remember it. Meanwhile, Clind, ignoring Petra's confusion, gave a small laugh, "I apologize for lacking a sense of involvement and causing anxiety. Apology. On top of that, Petra, I thank you. Great gratitude. ――I also want to cooperate positively." "Clind brother...!" Petra's eyes sparkled at Clind's formal bow and declaration. However, Meili interjected, as if to dampen Petra's excitement, "Anyway, the steward wasn't planning to interfere with us or refuse to cooperate, right? Isn't Petra-chan just overthinking it?" "Th-that might be true, but...!" "No, that's not correct, Meili. Correction. Having a sense of involvement means I will also actively propose solutions for resolution. It's vastly different from being a bystander. A different person." 'Calling him a different person is going too far!' "But, it means we can expect that much, right? Then! With Clind brother's mysterious power, take us to everyone..." Petra leaned forward eagerly, determined to use Clind's power to overcome the situation. In fact, Petra was relying heavily on Clind's power of 'teleportation' in this scenario. His ability to instantly eliminate the distance to their destination was an indispensable power for chasing after Al, who had headed somewhere with the 『Divine Dragon』. Al's destination was unknown, but with such a conspicuous companion as the 『Divine Dragon』, it should be quite possible to pinpoint his destination and catch up with him with the cooperation of Emilia, Ram, and, though she was reluctant to admit it, Roswaal and the others. Petra was brimming with enthusiasm at the thought, but— "Unfortunately, my teleportation technique is not something that can be used without limits. In fact, in terms of limitations, it's quite an inflexible power. Regrettably." "Clind, you're a liar! A traitor!" 'You got our hopes up for nothing! Clind, you're such a letdown!' "Th-that's too much, Petra-chan. I don't think the steward meant any harm." The glimmer of hope suddenly vanished, and Petra, along with Imaginary Subaru, expressed their anger. Only half of that anger reached Clind and Meili, but it was true that they had been given false hope. In the first place, it's true that the power is not well understood, but if the 'teleportation' they were counting on couldn't be used, it was just a matter of a handsome guy tagging along optimistically. "Technically, it's not 'teleportation' but a 'compression' of space and time. Explanation. It compresses the distance that should be traveled and the time required. However, because it could significantly impact the nature of the world, it requires the indulgence of Od Lagna. Convenience." 'Od Lagna? What's that?' "It's like the source of mana, in Subaru's knowledge, it's like a god without consciousness... probably." As Clind mentioned the unexpected term, Imaginary Subaru tilted his head in confusion, and Petra, while explaining, was not entirely confident in her understanding. Petra, who was studying magic under Roswaal, had received a cursory lecture on Od Lagna, but whether she truly understood it was questionable. Even Roswaal had said it was hard to claim a perfect understanding of Od Lagna. However, Od Lagna is an incredibly massive force, and in a sense, it's something that stands apart, even at the pinnacle of powerful beings like the 『Sword Saint』, the 『Divine Dragon』, and the 『Witch of Envy』. "So what happens if you can't deceive Od Lagna?" "Unknown. The fact that it is unknown is terrifying. Shocking." Meili's question was met with Clind slowly shaking his head. There was no intention to deceive or evade in his answer. In other words, even Clind, who seemed to know everything, shared the same view as Roswaal. But if that's the case— "Clind, you've done it a few times before, right? Does that mean, according to what you just said, you managed to deceive Od Lagna... how do you do it?" "Petra..." "Because there's a way, Clind was able to use his power. What do you need? For example... mana is needed to use magic. A contract is needed to command spirits. Then, to get Od Lagna to do something, is a price required?" "—. You really surprise me, child. Hats off." Clind's reaction confirmed that Petra's guess was correct. In other words, by offering a price to Od Lagna, Clind could obtain permission to use his extraordinary power. According to Clind, it was like getting a blind eye turned. 'So it's like a bribe or a payoff. ...How worldly, for a god.' Imaginary Subaru grumbled with a grim expression, and Petra Leyte felt exactly the same. However, she also thought that a god who demands compensation might be more trustworthy than one who gives blessings for nothing. More than anything, Petra knew 'to death' that the world wasn't set to an easy difficulty where you could get what you wanted without sacrificing anything. So――, "Please tell me what you need, Clind. No matter what it is, I will make sure to prepare it. It's for Subaru, Beatrice, and everyone." "Oh my, Petra, that's funny. You said it yourself earlier, it's not just me, it's us." "――. Sorry, sorry. But, thank you." Petra smiled at Meili, who hugged her arm with determination. In hindsight, Petra never thought she could have such a relationship with Meili. When Meili was imprisoned in the mansion's cell, Petra frequently visited her with the ulterior motive that Meili might become less dangerous if she was swayed by emotions. She never imagined that Meili would be there to support her when she made a decision like this. And Petra received all of this from him. "――Possibility. That's the answer." In front of Petra and Meili, Clind paused for a moment before speaking. There was no hesitation, indecision, or reluctance to tell this to the young girls—none of those backward feelings. Clind accepted the situation as his own and acknowledged Petra and the others facing the same issue as true comrades. With that, he continued. "The impact it will have on the world, on Od Laguna, the possibility—that will be the compensation. That is the condition for using the authority of the 『Melancholy』 Witch Factor that I possess. ――Confession." NAME MAPPINGS: アルデバラン → Aldebaran ペトラ・レイテ → Petra Leyte クリンド → Clind アンネローゼ・ミロード → Annerose Miload ロズワール → Roswaal エミリア → Emilia フレデリカ → Frederica ラム → Ram イマジナリースバル → Imaginary Subaru エルザ → Elsa メィリィ → Meili アル → Al ガーフィール → Garfiel エッゾ → Ezzo ラインハルト → Reinhard シュルト → Schult オットー → Otto ナツキ・スバル → Natsuki Subaru プリシラ → Priscilla フラム → Flam 王国 → Kingdom アウグリア砂丘 → Augria Sand Dunes ミルーラ → Milura プレアデス監視塔 → Pleiades Watchtower ヴォラキア → Vollachia 『嫉妬の魔女』 → 『Witch of Envy』 『剣聖』 → 『Sword Saint』 『後追い星』 → 『Following Star』 パトラッシュ → Patrasche 『神龍』 → 『Divine Dragon』 ボルカニカ → Volcanica 『死者の書』 → 『Book of the Dead』 『憂鬱』の魔女因子 → 『Melancholy』 Witch Factor メイザース家 → Mathers Family Exported from TranslAItion