TITLE: Arc 9 - Chapter 36: 『Proposition』
FROM: JA
TO: EN
DATE: 2025-06-05

ORIGINAL TEXT:
第九章３６　『命題』




「ごめんなさいっ、大変ご迷惑をおかけしました……っ」



「いえ、レムの方こそ、あんなに泣いて喜んでもらえるなんて、姉様にそうしてもらえたのと同じで嬉しかったです……あ」



　何度も何度も頭を下げ、取り乱した自分の醜態を謝罪するペトラ。そのペトラを慰めようとしたレムが、マズいことを言ったと頬を強張らせ、ラムの方を見る。

　そのレムの眼差しに、ラムは「いいのよ」と優しく微笑み、



「所詮、ラムは感動の再会の場面で平静を保つこともできない情けない姉だもの。レムに泣き虫と言い触らされても仕方がないわ」



「そ、そんなつもりでは！　姉様が泣き虫だなんて誤解です！　それに、私は姉様が泣いてくださって嬉しかったですよ！」



「そうよ、ラム。だって、やっとレムのことを思い出せたんだもの。それで泣いちゃったんだとしても、誰もラムが泣き虫だなんて思わないわ。元気を出して！」



「レム、エミリア様……よよよ」



　レムに続いてエミリアも慰めに参加し、ラムが目元に手を当てて顔を背ける。その様子に二人はなおも心配げにするが、ペトラ目線からは茶番も過ぎた。

　もちろん、ラムが感涙するほど嬉しい事態なのは間違いのない話だけれど。



「……ラム姉様、嬉しいのはわかるけど、あんまり二人をからかっちゃダメです」



「え！？」



「からかう……？」



　何とか声を落ち着け、そう注意したペトラに、エミリアとレムが目を丸くする。そんな素直な二人を騙した悪いラムは、嘘泣きをやめて肩をすくめると、



「そうね。無事に記憶が蘇ったものだから、ついレムの色んな顔を見たくて意地悪をしてしまったの。悪い姉様を許してくれる？」



「姉様……もう、仕方ありませんね。今回だけですよ？」



「ええ、ありがとう。エミリア様も、それでいいかしら？」



「もう、レムが許してるのに私がいつまでも怒ってるなんてできません。まったく」



「すごおい。全然へりくだってないのに、甘えただけでやり過ごしちゃったわあ」



　全く反省の意が見えない態度にも拘らず、ラムの横暴がレムとエミリアによって簡単に許され、それを目の当たりにしたメィリィが呆れた風に呟く。そのメィリィの呆れにペトラも同感だ。ラムらしい態度だが、ちょっと浮かれすぎている。



「わたしだって、レム……レム姉様のために祝勝会を開きたい気持ちだけど、今はとっても大変なときなんだから、ラム姉様も自重してください」



「自重、ね。一見まともな意見だけど、ペトラの方こそどうなの？」



「――？　どういう意味ですか？　さっきのことから、わたしも反省してますけど」



「別に取り乱したことを責めるつもりはないわ。気になるのは別のことよ。――さっきから自然と、レムとエミリア様の間に収まっている状況の方ね」



　片目をつむったラムの指摘に、「え？」とペトラは目を丸くした。それから自分の左右を見て、そこにいるエミリアとレムの横顔をそれぞれ見る。

　三人は今、ペトラを中心に、横長のソファに並んで座っている状態だ。ペトラは二人の腕をそれぞれ抱いて、もう手放すまいとガッチリ押さえ込んでいる。



「あれっ？」



「あれじゃないわよお。レムお姉さんに抱き着いたあと、すごおく自然にそっちに引っ張っていってたわあ。エミリアお姉さんまで一緒にねえ」



「ご、ごめんなさい。二人への愛情が溢れ出しちゃったみたいで……」



　呆れを続行するメィリィの言葉に、ペトラは我が身を顧みて反省する。が、その言い訳がさっきのラムの甘えと全く同じだったので、ラムに「ハッ」と笑われる始末だ。



「いいんです、大丈夫ですよ、ペトラさん。レムも、これまで空白になってしまっていた部分を一個ずつ、ちゃんと埋めていきたいと思っていましたから」



「レム姉様……」



「それにその、レムは村で暮らしていたペトラさんたちと、あまり仲良くできていないと思っていたので、こんなに大切に思ってもらえていたのは嬉しいんです」



　ペトラに腕を抱かれたまま、レムがほんのり頬を赤くしてはにかむ。

　レムの自意識的には、ペトラたちとの付き合いは王選が開始する前後――スバルが屋敷に迎えられた一ヶ月がピークで、それ以前はただすれ違うだけの間柄だった。

　だから、はにかむレムの認識は間違っていない。ペトラがこうまでレムに巨大な感情を抱くのは、ペトラ自身の感情というより、『スバル』の影響が大きいからだ。

　ただ、それでも、思う。



「微笑んではにかんでるレム姉様、尊い……」



「ペトラちゃん、耳まですごーく赤いわ。大丈夫？」



「あっ、違うんですっ。浮気じゃなくて……エミリア姉様が一番ですっ」



「え？　あ、そうよね。私が陣営の一番偉い人なんだから、ちゃんとしないとよね」



　焦りと幸せの板挟みで余計なことを口走るペトラだが、エミリアはまさに天使か女神、あるいは勘違い系主人公みたいな受け止め方でスルーしてくれた。

　そのことに、ペトラは自分の弾む心臓の鼓動を胸越しに抑え、「わたしの一番はスバルでしょ……っ」と言い聞かせながら、立ち上がる。

　このままエミリアとレムの二人に挟まれていたら、心がバラバラになりそうだ。



『偉いぜ、ペトラ！　よくぞ耐え切った！』



「スバルはあとで、わたしにたくさん嫌味言われる覚悟してて。浮気者」



『エミリアたんにもレムにも触れられない俺にご無体すぎる！』



　女々しい未練を何とか断ち切ったペトラは、わだかまった怒りをイマジナリースバルへと向ける。ハンカチ片手に涙を押さえ、記憶の戻ったレムへの感情の爆発を応接室をくるくる舞うことで表現している『スバル』に、ペトラは嘆息した。

　それから――、



「レムのことでお騒がせしているのはわかっていますが、一度、ここまでで落ち着けると助かります。――あの人の、話をしましょう」



「――――」



　静かな声音で切り出したレムに、部屋の空気がわかりやすく引き締まった。

　弛緩とまではいかなくても、差し迫った状況と対照的に場は熱を持ちかけていて、それを切っ掛けとなったレム自身が払拭した形だ。とても偉い。立派だ。



「ラムとレムは、クリンドさんから話は聞いてくれた？」



「おおよそは。それに、王都の惨状も見させていただきました。これほどの大事になるなんて……バルスはヘマをしましたね」



「ラム姉様っ、その言い方は……」



「ごめんなさい、言い直すわ。――ラムたち全員、ヘマをしましたね」



「――――」



　そのラムの見解は重たく、全員の胸にずっしりと響いた。

　先ほど、ラムとレムの合流前にも確かめ合ったことだが、改めてアルの行いの被害、その甚大さには目を覆いたくなるばかりだ。



「とはいえ、過剰に自責しておっても得られるものはない。あくまで、事態の責任は引き起こした張本人にある。それが儂らの結論じゃ」



「ラムたちの心掛けはそうでしょうね。でも、事はそう単純ではない。違う？」



「……侮れん娘じゃな。さっきまでの悪ふざけはなんだったのやら」



　そうこぼすロム爺が自分の禿頭を撫で、ラムの追及に渋い顔をする。そのわかり合った二人のやり取りに、「姉様」とレムが首を傾げ、



「単純ではないというのは、責任の所在のお話ですか？」



「ええ、そう。詳しいことは、ロム様が話したがっているわね。譲るわ」



「面倒事をぶん投げおったな……まあよい。その娘の言う通り、儂らの心構えはともかく、現状は儂らにとってもお前さんらにとってもよろしくない」



　説明役をラムに託されたロム爺が、その太い指で自分と、エミリアを指差す。その大きな指先を見つめながら、エミリアが紫紺の瞳を瞬かせ、



「私たちはもちろんそうだけど、ロム爺たち……フェルトちゃんもなの？」



「塔にはうちのエッゾもおった。エッゾには、正式な国の調査団が派遣されるまで、塔を管理する役目が与えられていたが、それを果たせなんだ。ラインハルトにしても、兜ヤローも『神龍』も止められず、王都に被害を出してしまっておる」



「でもお、エミリアお姉さんのおかげで、街に大きな石は落ちないで済んだでしょお？　それなのにまだ怒られちゃうのお？」



「投げた石を砕いて人気取りができるなら、ラインハルトで延々同じことができる。こういうことはな、メィリィ、結果だけでなく過程も公平に評されねばならん」



　大きな首をゆるゆると振り、難しい顔をするロム爺にメィリィが唇を尖らせる。

　納得いかない、というメィリィの態度の裏には、エミリアが果たした大役が正しく評価されないことへの不満が隠れている。それがわかるから、エミリアはメィリィに「ありがとう」と微笑み、唇を尖らせた少女にさらにそっぽを向かせていた。



「最低限、儂らが確実にしなければならんことを話すぞ。まず、兜ヤロー……アルデバランを名乗る男を、儂らの手で止めねばならん。他の誰かや王国には任せられん。それができてようやく、失点を取り返したあとの話ができる」



「私たちじゃないといけないのはどうして？　もちろん、私たちがうんと頑張るのは当たり前だけど、アルがひどいことをする前に止められるなら……」



「わかっておらんな、エミリア。もはや、アルデバラン単体がどうという話ではない。奴には『神龍』がついておる。それは王選の基盤が揺らぐ重大事……覆すには、『神龍』を竜の巫女が、王選候補者が引き戻す他にない。それができなければ……」



「――王選自体が、なかったことになっちゃう？」



　決定的な可能性を口にしたエミリアに、ロム爺が深刻な表情で顎を引く。そこまで話を聞いたところで、ペトラも遅れてその危機感に追いついた。

　そもそも、ルグニカ王国の次代の王を決める王選は、龍との盟約と、それを維持するために必要な竜歴石の予言を土台としたものだ。言うなれば、『神龍』ボルカニカの強大な力を当てにした儀式であり、『神龍』なくして王選は成り立たない。



「故に、必ずいる。『神龍』を惑わせたアルデバランを、他ならぬ王選候補者がその手で止めたという決着がな」



　それが、この一大事を決着させ、王選を続けるための大前提。

　フェルト陣営の知恵者であり、長く世界を見てきた老巨人の言葉には、他の誰も反論のできない説得力があった。

　アルの手で、世界が壊されるのは防がなくてはならない。だが、世界が壊れさえしなければ、あとは何がどうなってもいいという話ではない。

　戦いが終わったあと、そこには――、



「ちゃんと、スバルくんが帰ってこられる場所を残しておかないといけません」



「レム……」



　ロム爺の話を聞いて、そう呟いたレムをエミリアが見つめる。レムはその視線に、薄青の瞳を使命感で満たしながら、「だって、そうでしょう？」と応じ、



「あの人は、私にそうしてくれました。屋敷のレムの部屋は、以前のそのままで……スバルくんが強く想ってくれていたから、レムは忘れていたことを思い出せたんです。この、スバルくんが毎日磨いてくれていたモーニングスターのおかげで……！」



　そう、レムが鎖付きの鉄球――モーニングスターを手に、力強く力説した。ジャラジャラと勇ましく鳴り響く鎖の音とレムの勢いに圧倒され、エミリアが首を傾げる。



「……モーニングスターのおかげ？」



「はい。驚かれるかもしれませんが、このモーニングスターに触った瞬間だったんです。それまでの記憶がバーッと蘇って……あの人の偏執的な拘りだと思っていましたが、それは勘違いでした。……色々と、謝りたいこともいっぱいで」



　自分を恥じるように目を伏せ、レムが記憶の蘇った経緯をそう語り始める。その熱の入ったレムの訴えに、エミリアは目を白黒、手をワタワタさせ、困っていた。

　たぶん、タイミングの問題だ。――アルが監獄塔から連れ出した『暴食』、それがした何かというのが、おそらくレムの『記憶』と『名前』の復活に関係している。そしてそれは、レムが屋敷でモーニングスターに触れたのと同時に起こったのだ。

　だからレムは、モーニングスターが自分を呼び覚ましたのだと思い込んでいて。



「あのね、レム、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」



「安心してください、エミリア様。レムはこのモーニングスターで、必ずやスバルくんを取り戻す力になってみせます。そのあとで、帝国でのことと今後のことを、色々とお話しさせていただければ……」



　拳を握り固め、力の入ったレムの態度にエミリアの困り顔は継続。その傍ら、メィリィがラムの方を見て、「止めないのお？」と尋ねると、



「仕方ないわ。こればかりはラムも予想外だったもの。――まさか、あれを毎日磨いていたバルスの与太話が、本当に役立つなんてね」



「……この中でわたしが常識人寄りなの、ホントによくないと思うわあ」



　あのラムさえも、モーニングスターの力を過信しすぎている状況をメィリィが嘆く。

　ともあれ、『暴食』の件については、推測の域を出ない点まで含めて、レムたちに共有する必要がある。それはエミリアに任せればいいだろうと、ペトラはエミリアとレムの夢の競演を視界の端に収めたまま、ロム爺に向き直った。

　そして――、



「まだ、クリンド兄様が旦那様たちを連れ帰ってないけど……時間がありません。わたしたちとロムお爺さんたちは協力関係、ですよね？」



「――。うむ、間違いない。王選を続けることは、儂らの総意よ」



「じゃあ、教えてください。ロムお爺さんが、アルさんのことで気付いたこと」



　平原で合流し、王都に飛んでくるのに同行したロム爺。クリンドの『圧縮』の都合上、トンチンカンらと別行動を選んだ彼は、エミリアたちと共闘する上で、一度衝突したときに掴んだアルの重大な情報があると、そう布石を打ってきていた。



　ここまでの話し合いで、すでにエミリア陣営とフェルト陣営は一蓮托生。そろそろ、お互いの胸襟を開くべきだと、そうペトラはロム爺に求める。

　そのペトラの求めに、ロム爺は自分の禿げ頭をぺしぺしと叩いて、



「この話は、かなり突拍子もない非常識な内容になる。儂が伏せたのはもったいぶったからでなく、信頼性の問題じゃ」



「大丈夫です。わたし、ロムお爺さんのこと信じてますよ。きっとロムお爺さんが知ったらビックリするくらい、本気で」



「……お前さんも、十分以上に変わった娘じゃな、ペトラ」



　リップサービスだと思ったのか、眉尻を下げたロム爺が呆れながらそう呟く。

　でも、ペトラの言に嘘はない。ペトラはロム爺を信用している。彼が、アルたちに人質にされたフェルトを大事に想っていて、フェルトのためなら躊躇なく命を投げ出すことができる父性の持ち主だと、そう知っているから。

　だから、ロム爺が気にしていた信頼のハードルは、最初からクリアされていたのだ。

　そのペトラの諸事情を知らないロム爺は、今もエミリアとレムがお互いの認識のすり合わせを行っているのを気にしながら、



「これはエミリアたちにもあとで伝えることじゃが……アルデバランの奴はおそらく、権能と呼ばれる反則技を使っておる」



『――権能』



　慎重に選ばれたロム爺の言葉に、ペトラより先に『スバル』が反応した。

　空中旋回を止めた『スバル』が顔を強張らせ、ロム爺の顔をじっと見つめる。イマジナリースバルの、その反応も当然だ。折しも、クリンドの口から聞いたばかりだが、ペトラも『スバル』も、もっと悪い意味で、権能という単語に聞き覚えがある。



　それは『怠惰』の大罪司教が、墓所に眠る『強欲の魔女』が、口にしてきた単語。

　この世界の在り方に干渉し、概念を覆し、自儘に法則を塗り替える強大な権利、顕現。

　それをアルが用いていたと、そうロム爺が判断した理由は――、



「――奴は、一度過ぎた時を遡れるらしい。そう長い時間ではないようじゃが、な」





　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△





　――結局のところ、自分のやらなきゃいけないことは何なのか。



　その、小さくて弱っちい頃から延々と付き合い続けている『命題』が、アルデバラン一味に連れ回されている今も、気安い調子でフェルトに付きまとってくる。



「ったく、鬱陶しいったらねーぜ」



　そう苛立たしさに頭を掻いて、フェルトは腹の奥に溜まった鬱憤を吐き捨てる。

　無力感や諦念、そうした感情が生きるのに役立たないことをフェルトは知っている。そのくせこいつらは、喉を潤すでも腹に溜まるでもないくせに、人の体を自分たちでいっぱいに満たそうと、あの手この手で湧き上がって邪魔してくるのだ。



「――ちっ」



　舌打ちをこぼし、フェルトは夕食にと渡された干し肉に歯を立て、噛み千切る。塩味の強すぎる味にはっきり不満を覚えて、贅沢になったものだと自分に呆れた。

　引き離されてほんの二日半、それなのにもうフラムとグラシスの食事が恋しい。

　たまに食卓に並ぶエッゾやラチンスたちの、濃い味付けの男飯も携帯食よりずっとマシだ。ラインハルトに料理させるのは、フラムたちが適材適所と怒るのでやらせないが、こっそりと菓子作りだけさせると、なかなか悪くない腕をしている。

　残念ながら、フェルトとロム爺の料理の腕前は壊滅的で、よくもまあ、盗品蔵に通い詰めていた十年近く、食あたりで死なずに済んだものである。もしかして、フェルトが同年代に比べて成長が乏しいのは、それが原因かもしれない。

　そんな陣営の料理事情はともあれ――、



「アタシにゃ料理なんてできねー。なら、何ができんだ？」



　ほんのりと、指先についた塩の欠片を舌で舐め取り、赤い目を細めながら、フェルトの思考は最初と同じ『命題』へと戻ってくる。



　――現在、アルデバラン一味は拠点を転々と変えながら、アルデバランと『神龍』の王都での消耗の回復に努めている。当初フェルトは、王都を逃れたアルデバランたちが目的地であるモゴレード大噴口へ直行するものと思っていたが、どうやらただ現地に辿り着けばいいという話ではないらしく、時機を選んでいる素振りがあった。

　ただし、その時機を待つための休息は、決して順調とは言えない有様――非情の追跡者である、オットー・スーウェンによる執拗な妨害工作に遭っていた。



「ただ虫と話せるどころじゃなく、とんでもなくヤベー加護だ。……ってより、ヤベーのは加護じゃなくて、ゾッダ虫の兄ちゃんがヤベー奴なんだろーな」



　おっとりととぼけた顔をしたオットーだが、その本性は超要注意人物だったらしい。

　究極的には、どんな加護も道具の一種に過ぎない。どんなに立派な剣を持たされても、それを振り回す腕力と、使い方を学ぶ機会と意欲、いざというときに振るえる勇気が備わっていないなら、剣はただの立派な飾り物だ。

　オットーには腕力と、機会と、意欲と、勇気があった。――そして、フェルトにもそれがあるのだと、剣を持たない身で証明しなければならない。



「あの兄ちゃんの方針は削り一択……やらしーこと考えやがるぜ」



『言霊の加護』で虫を、鳥を、魚を味方に付けているらしいオットーにより、アルデバラン一味はひと時の安らぎも許されず、常に対処を強いられている。

　虫の羽音に獣の遠吠え、汚れた水に食料の汚染と、その搦め手は多岐にわたり、睡眠時間の確保もままならないせいで、付き合わされるフェルトも頭が痛い。

　だが、この程度の巻き添えは可愛い被害とフェルトも織り込み済みだ。できるなら、フェルトも敵に同行する立場を利用し、容赦なくオットーの作戦に加担したい。



「『神龍』の抑え役になってるだけで、意味があるっちゃあるんだろーが……」



　それだけでは足りないと、そうわかったのが王都での『神龍』と『剣鬼』の戦いだ。

　フェルトの存在が『神龍』の力を一割削れても、残りの九割で十分に災害級の力を発揮するのが『神龍』ボルカニカの真骨頂――この先、一度は敗れたロム爺がアルデバランたちに再戦を挑む可能性を考えれば、今のままでは足りない。

　目下、それが囚われのフェルトが抗うべき『命題』であった。



「いや、あともう一個あるか」



　そう呟いて、フェルトは自分の立場から臨む、もう一つの『命題』へと目をやった。



「――――」



　正面、パチパチと音を立てる焚火を挟んで、フェルトと相対する男がいる。――否、正しくは相対とは言えない。なにせ相手は顔を伏せ、こちらを一瞥もしていない。

　鞘に入った剣を胸に抱いて、死んでいるみたいに静かに蹲っているのは、その全身から辛気臭さを全方位にばら撒いている赤毛の男――ハインケルだ。



　岩場に自然にできた洞穴の入口で、フェルトとハインケルは二人きり、周囲の安全確認と妨害の排除に向かった面々を待ち、陰鬱な時間を共にしている。

　一応、ハインケルはフェルトの監視役を任されているはずだが、相手を見ている率で言えば、どちらが監視役だかわかったものではない。夕食の干し肉どころか、水にも口を付けない徹底した外界の拒絶ぶりは、全力でフェルトの神経を逆撫でし続けていた。



「――――」



　フェルトはハインケルの行いについて、良い悪いの物差しを持たないと断言した。それに嘘はないし、意見も変えないが――好き嫌いの物差しはある。

　少なくとも、生きているのにホロゥみたいな態度は、大嫌いの判定だった。



「オイ、食わねーんなら、その干し肉くれよ」



「――――」



「聞こえてんだろ？　無視してんじゃねー……って、とと」



　最初からケンカ腰もなんだと、話の切っ掛けに使った干し肉を黙れと言わんばかりに投げつけられた。慌ててそれを受け取ったが、ハインケルはこちらを見もしていない。

　途端に、拳を開いたのが馬鹿らしく思えて、フェルトは「オイ」と再び呼びかけ、



「なんで、あそこで横槍入れやがったんだ？」



　単刀直入に、フェルトはハインケルが蹲っている原因に堂々と切り込んだ。



「――――」



　押し黙ったままのハインケル、しかし、干し肉を投げてきたのだから、外界を完全には拒み切れていない。それを踏まえ、フェルトは小さく鼻を鳴らし、



「テメーの親父……言いづれーな。ラインハルトの祖父さんと『神龍』のケンカだ。アタシは別に戦士ってわけじゃねーから、あのケンカのどっちが優勢だったか細かいとこまではわからねー。けど、テメーは『神龍』の味方のはずだろ？」



「――――」



「そのテメーが割って入ったってことは、『神龍』がヤバかったってことだ。それもとんでもねー話だが、おかしいとこがある。――テメーの目的が『龍の血』だってんなら、祖父さんが勝ちそうだったのは絶好の機会だったはずだぜ」



「――――」



「龍が死んだら血が手に入ったかもしれねーのに、テメーは邪魔した。なんでだ？」



　相手の反論がないのをいいことに、フェルトはずけずけとそう言葉を並べる。

　言った通り、『神龍』と『剣鬼』の戦いへの横槍は、ハインケルの目的からすれば不自然極まりなかった。あるいは、父親への強い恨みが動機の可能性も疑ったが、ハインケルは『神龍』と飛び立つ寸前、自分が刺したヴィルヘルムの治療を龍に頼んでいる。

　つまりハインケルは、あの戦いで『神龍』の死も、『剣鬼』の死も望んでいない。



「ちぐはぐすぎるぜ。テメーはいったい、何を――」



　考えている、と続けようとした瞬間だった。――硬い地面に一瞬で押し倒され、抜き放たれた刃がフェルトの首に宛がわれていたのは。



「喋りすぎなんだよ、ガキ」



　すぐ目の前に、血走ったハインケルの青い双眸がある。口の中を噛み切ったのか、血の臭いがする息を浴びせられ、フェルトは顔をしかめた。そうする間にも、ハインケルはなおもフェルトを恫喝するように刃を滑らせ、



「痛い思いしたくなきゃ、余計な口を――ごあっ！？」



　その恫喝の隙間に、フェルトは躊躇なく拳をねじ込み、ハインケルの鼻面を殴った。

「う、ぁ？」と、痛みより殴られた驚きに目を白黒させるハインケル。起き上がる勢いでその胸を蹴り上げ、思わず尻餅をつくハインケルをフェルトが見下ろした。



「今さらテメーにビビるわけねーだろ」



　そう言って、フェルトはすぐ傍に落ちたハインケルの剣を拾う。一瞬、ハインケルがビクッと身を硬くするが、フェルトはため息をついて剣を彼に投げ渡した。とっさに剣を受け取ったハインケルが目を見張るが、フェルトはそれに肩をすくめる。



　何故剣を返したのか不思議なのだろうが、フェルトからすれば当然の判断だ。

　ここでフェルトが暴れてもハインケルには勝てないし、万一、うっかりハインケルがフェルトを斬ろうものなら、ヤエが大喜びするのは目に見えている。そもそも、ここでフェルトとハインケルを二人きりにする時点で、ヤエの狙いは明白だ。

　あわよくば、フェルトとハインケルの二人を切り捨てたいヤエ。彼女の思惑に乗らないためにも、ここで暴れるのは得策ではない。――なんて、そんな理詰めじゃなくても、ハインケルを叩きのめすのがフェルトの役目じゃないというのもあった。



「じゃあそれがラインハルトの役目かっつーと、それもどうかと思ってんだよな」



「――っ」



　ラインハルトの名前を出され、ハインケルがまたしても大げさにビクつく。

　自分の倍以上も年上の男が、フェルトの言動にビクビクと怯えているのはとんでもなく見苦しい。しかしフェルトは、その見苦しさの理由が知りたい。

　たとえそれが、フェルトにとって、ひどく苦い味をもたらすとしても、だ。



「さっきと同じ、何も答えねーでいいぜ。アタシが勝手に話して、勝手に拾う」



　押し倒されて汚れた服の裾を払い、フェルトは相手の返事を待たず、空を仰ぐ。岩場の隙間から覗かれる夜空には、場違いに明るい星がいくつも煌めいていた。

　その皮肉な空の美しさを睨みながら、フェルトは「実際のとこ」と切り出し、



「アタシが『神龍』と祖父さんのケンカのことで引っかかってんのは、さっきの話が全部だ。『龍の血』が欲しいのに、テメーのやってることがちぐはぐに見える。で、ちぐはぐに見えてることがもう一個あんだ。――『暴食』だよ」



「――――」



「アイツが性格最悪で、口の減らねーヤローだってことはいったん無視だ。それをなしにしても、大罪司教なんてろくでなし、歓迎できるわけねーが……あのヤローを嫌う理由なら、アタシよりもテメーのがよっぽどあるよな？」



　押し黙ったまま、何も答えないハインケルが、その問いかけに息を詰めた。言葉で答えなくても、その反応でわかりやすすぎるハインケルに、フェルトは目を細める。



　監獄塔から解放され、アルデバランが計画のために必要だと同行させるロイ・アルファルド――数多の悲劇を生んできた大罪司教が嫌われ、憎まれる理由は無限にあるが、ハインケルにはより明確な、絶対的な敵意の理由があるはずだ。

　何故なら、ラインハルトの母であり、ハインケルの妻である女性――眠り続けるルアンナ・アストレアの被害は、『暴食』の被害者と著しく似通っているのだから。



「いっぺん話したが、アタシはテメーの……ラインハルトの家の事情は知ってる。オッサンの女房が十年以上眠りっ放しなのも、それを起こす方法が見つからねーのも。まぁ、そっちは『龍の血』がありゃ済むんだろーが……落とし前は？」



「――――」



「テメーの女房を十年以上も寝かせっ放しにしたヤローへの落とし前はどーする？」



　クルシュ・カルステン公爵襲撃事件と、水門都市プリステラ攻防戦を経て、『暴食』の権能の被害が明らかになったことで、『眠り姫』――周囲の誰も存在を知らず、目覚めることのない眠りについた状態で発見された、あらゆる繋がりを絶たれた悲劇の存在。そのものたちが、他ならぬ魔女教の被害者だったと発覚したのだ。

　当然、ハインケルの耳にもそれは入っているはず。にも拘らず、ハインケルは妻の眠りの原因かもしれない『暴食』に、これまで一度も興味を示していなかった。



　――『龍の血』を手に入れ、妻を目覚めさせることが何より最優先だから？

　――自分の手で父を刺し、その血を浴びたことの衝撃でそれどころではない？



　あるいは――、



「本気でヤローが眼中にねーんだとしたら、なんでだ？」



「ま、待て……何を……」



「返事はいらねーよ。言っただろ。アタシは勝手に話して、勝手に拾う」



　剣を握った手を震わせて、ハインケルが土気色の顔でフェルトを見る。その、アストレア家由来の青い瞳と自分の赤い瞳の視線をぶつけ、フェルトは確信を得た。

　ハインケルの瞳の奥に、ひどく頼りなく、それでも消えてなくならない残り火。――それはたぶん、フェルトを見るロム爺の瞳に宿るのと、同じ類の熱だ。



「――――」



　自暴自棄で、自分本位で身勝手で、身の程知らずな上に芯もブレブレで手の施しようのない見下げた男に見えるハインケル・アストレア。――その最奥に、ほんの微かに垣間見えた熱が、この男の行動の一端に常にあるのだとしたら。



「テメーが『暴食』を見もしねーのは、テメーの女房が眠っちまったのと、『暴食』が関係ねーって知ってるからだ。筋違いだってわかってるから、剣も向けねー。けど」



　――ルアンナ・アストレアの『眠り姫』の被害は、他の『眠り姫』と決定的に違う。

　世界中のあらゆる繋がりを絶たれる『眠り姫』と違い、ルアンナのことはラインハルトが、ハインケルが、彼女の関係者が全員覚えていて、その眠りを惜しんでいる。

　つまり、違うのだ。ルアンナ・アストレアは『暴食』の被害者ではない。そして、ハインケルはその事実を知っていながら、誰にも発信していなかった。



　何故か。知られてはならなかったからだ。――ルアンナを眠らせた、その原因を。

　その原因とは――、



「――ラインハルト」



「――――」



　凝然と、見開かれた双眸が、声をなくした表情が、生気の抜けた吐息が、言葉よりも雄弁な答えになって、フェルトの確信を後押しした。



　自分がやらなければならないこと。――知ることが、今のフェルトの『命題』。

　その『命題』に臨む覚悟と確信が導き出した、ひどく苦い味の真相、それは――、





「――ラインハルトの母親を眠らせたのは、ラインハルトのヤローか」

TRANSLATED TEXT:
Arc 9 - Chapter 36: 『Proposition』

"I'm sorry, I caused you so much trouble..."

"No, Rem was the one who was so happy she cried. It made me just as happy as when my sister did that for me... ah."

Petra repeatedly bowed her head, apologizing for her own disgraceful behavior. Rem, trying to comfort Petra, realized she had said something awkward, and her cheeks stiffened as she glanced at Ram.

Seeing Rem's gaze, Ram gently smiled and said, "It's fine."

"After all, I'm just a pathetic sister who can't even stay calm during an emotional reunion. It's no wonder Rem spreads rumors about me being a crybaby."

"Th-that's not what I meant! It's a misunderstanding to say my sister is a crybaby! Besides, I was happy that you cried for me!"

"That's right, Ram. After all, you finally remembered Rem. Even if you cried because of that, no one would think you're a crybaby. Cheer up!"

"Rem, Lady Emilia... oh dear."

Following Rem, Emilia also joined in comforting Ram, who put her hand to her eyes and turned her face away. The two continued to worry, but from Petra's perspective, it was all too much of a charade.

Of course, it was undoubtedly a situation so joyful that it brought Ram to tears.

"...Ram nee-sama, I understand you're happy, but don't tease the two of them too much."

"What!?"

"Tease...?"

Trying to calm her voice, Petra cautioned, causing Emilia and Rem to widen their eyes. The mischievous Ram, who had deceived the two honest girls, stopped her fake crying and shrugged her shoulders.

"That's right. Since my memory returned safely, I couldn't help but be mean because I wanted to see various faces of Rem. Will you forgive your bad sister?"

"Sister... oh, it can't be helped. Just this once, okay?"

"Yes, thank you. Lady Emilia, is that alright with you too?"

"Well, if Rem has forgiven you, I can't stay mad forever. Really."

"Amazing. Without being humble at all, she just acted spoiled and got away with it."

Despite showing no signs of remorse, Ram's audacity was easily forgiven by Rem and Emilia, and Meili, witnessing this, muttered in disbelief. Petra shared Meili's sentiment. It was typical of Ram, but she was a bit too elated.

"I also want to hold a victory celebration for Rem... Rem nee-sama, but it's a very difficult time now, so please restrain yourself, Ram nee-sama."

"Restrain, huh. It sounds like a reasonable opinion, but what about you, Petra?"

"――? What do you mean? I'm reflecting on what happened earlier too."

"I'm not blaming you for losing your composure. It's something else that concerns me. ――It's the situation where you've naturally settled between Rem and Lady Emilia."

At Ram's pointed remark, Petra widened her eyes in surprise. Then she looked to her left and right, seeing the profiles of Emilia and Rem beside her.

The three of them were now sitting on a long sofa with Petra in the center, each holding one of their arms tightly, as if never to let go.

"Huh?"

"It's not 'huh.' After clinging to Rem, you naturally pulled her over there. Even Lady Emilia too."

"I'm sorry. It seems my affection for the two of you overflowed..."

Continuing to express her disbelief, Meili's words made Petra reflect on herself. However, since her excuse was exactly the same as Ram's earlier indulgence, Ram couldn't help but laugh at her.

"It's alright, it's okay, Petra. Rem also wanted to fill in the blanks one by one that have been left empty until now."

"Rem nee-sama..."

"Besides, I thought I hadn't been able to get along well with you, Petra, and the others living in the village, so I'm happy to know you think of me so dearly."

With Petra holding her arm, Rem blushed slightly and smiled shyly.

In Rem's self-awareness, her relationship with Petra and the others peaked around the time the royal selection began—about a month after Subaru was welcomed into the mansion. Before that, they were merely passing acquaintances.

Therefore, Rem's shy recognition was not wrong. The reason Petra harbored such immense feelings for Rem was largely due to the influence of 'Subaru' rather than Petra's own emotions.

Even so, she thinks to herself.

"Rem nee-sama, smiling shyly, is precious..."

"Petra-chan, your ears are very red. Are you okay?"

"Oh, no, it's not like that. It's not cheating... Emilia nee-sama is number one!"

"Huh? Oh, right. I'm the most important person in the faction, so I have to be proper."

Caught between anxiety and happiness, Petra blurted out unnecessary things, but Emilia, like an angel or goddess, or perhaps a protagonist who misunderstands things, let it slide.

Because of that, Petra suppressed the pounding of her heart through her chest and stood up, telling herself, "My number one is Subaru..."

If she had stayed sandwiched between Emilia and Rem like this, her heart might have fallen apart.

『Great job, Petra! You held on well!』

"Subaru, be prepared to hear a lot of sarcastic remarks from me later. Cheater."

『It's too cruel for me who can't even touch Emilia-tan or Rem!』

Petra, having somehow cut off her lingering regrets, directs her pent-up anger towards the imaginary Subaru. Holding a handkerchief, she wiped her tears and sighed at 'Subaru,' who was expressing his emotional explosion towards the memory-restored Rem by twirling around the reception room.

Then—,

"I understand that Rem's situation is causing a stir, but it would help if we could settle things here for now. —Let's talk about that person."

"――――"

With Rem's quiet voice, the atmosphere in the room noticeably tightened.

Even if it wasn't completely relaxed, the situation was heating up in contrast to the pressing circumstances, and Rem herself, who was the catalyst, dispelled it. Very commendable. Admirable.

"Did Clind-san tell you about Ram and Rem?"

"For the most part. And we also saw the devastation in the royal capital. To think it would become such a significant matter... Barusu really messed up."

"Ram nee-sama, that way of saying it..."

"I'm sorry, let me rephrase. —All of us, including Ram, messed up."

"――――"

Ram's perspective was heavy, resonating deeply in everyone's hearts.

It was something they had confirmed with each other before Ram and Rem joined, but once again, the damage caused by Al's actions was so immense that it was hard to look at.

"That said, there's nothing to gain from excessive self-blame. Ultimately, the responsibility for the situation lies with the one who caused it. That's our conclusion."

"That's how Ram and the others feel, isn't it? But the matter isn't that simple. Is it?"

"...A formidable girl. What was all that fooling around earlier?"

Old Man Rom muttered as he stroked his bald head, making a sour face at Ram's probing. In the exchange between the two who understood each other, Rem tilted her head and said, "Nee-sama."

"Are you talking about the issue of responsibility when you say it's not simple?"

"Yes, exactly. Old Man Rom is eager to discuss the details. I'll let him take over."

"You've thrown the troublesome task my way... well, fine. As that girl said, regardless of our intentions, the current situation is unfavorable for both us and you."

Old Man Rom, entrusted with the explanation by Ram, pointed his thick finger at himself and then at Emilia. As Emilia blinked her violet eyes while staring at his large fingertip,

"Of course, it's true for us, but does that include you, Old Man Rom... and Felt-chan too?"

"Our Ezzo was also at the tower. Ezzo was given the role of managing the tower until an official national investigation team could be dispatched, but he failed to fulfill it. Even Reinhard, the Helmet Guy, and the 『Divine Dragon』 couldn't be stopped, resulting in damage to the royal capital."

"But thanks to you, Emilia-neesan, the big stones didn't fall on the city, right? And yet, you're still getting scolded?"

"If breaking the thrown stones could gain popularity, Reinhard could do the same endlessly. In matters like this, Meili, not only the results but also the process must be fairly evaluated."

Meili pouted her lips at Old Man Rom, who shook his large head slowly with a difficult expression.

Behind Meili's attitude of dissatisfaction was the hidden frustration that Emilia's significant achievement wasn't being properly recognized. Understanding this, Emilia smiled and said "Thank you" to Meili, causing the pouting girl to turn away even more.

"At the very least, we must discuss what we absolutely need to ensure. First, we must stop the man who calls himself Aldebaran, the Helmet Guy, with our own hands. We can't leave it to anyone else or the kingdom. Only after we manage that can we talk about recovering from our setbacks."

"Why does it have to be us? Of course, it's natural for us to try our best, but if we can stop Al before he does something terrible..."

"You don't understand, Emilia. It's no longer just about Aldebaran alone. He has the 『Divine Dragon』 with him. This is a serious matter that shakes the foundation of the royal selection... To overturn it, the 『Divine Dragon』 must be brought back by the dragon priestess, the royal selection candidates. If that can't be done..."

"—The royal selection itself might be nullified?"

Emilia voiced the decisive possibility, and Old Man Rom nodded gravely. Having listened to this point, Petra also caught up with the sense of crisis belatedly.

The royal selection to decide the next king of the Kingdom of Lugnica is fundamentally based on the covenant with the dragon and the prophecy of the dragon stone necessary to maintain it. In other words, it is a ceremony relying on the immense power of the 『Divine Dragon』 Volcanica, and without the 『Divine Dragon』, the royal selection cannot proceed.

"Therefore, it is essential. The resolution that the royal selection candidate themselves stopped Aldebaran, who confused the 『Divine Dragon』, with their own hands."

That is the fundamental premise to resolve this major issue and continue the royal selection.

The words of the wise old giant of the Felt camp, who had seen the world for a long time, carried a persuasive power that no one could refute.

The world being destroyed by Al's hands must be prevented. However, it's not a matter of being indifferent to what happens as long as the world isn't destroyed.

After the battle is over, there must be—

"We must ensure there's a place for Subaru-kun to return to."

"Rem..."

Emilia gazed at Rem, who murmured this after listening to Old Man Rom's talk. Rem met her gaze, filling her pale blue eyes with a sense of duty, and responded, "Because, isn't that right?"

"That person did that for me. The room of Rem in the mansion remained just as it was before... because Subaru-kun held strong feelings, Rem was able to remember what she had forgotten. Thanks to this morning star that Subaru-kun polished every day...!"

With that, Rem passionately explained, holding a spiked iron ball—a morning star—in her hand. Overwhelmed by the sound of the chain clinking vigorously and Rem's enthusiasm, Emilia tilted her head.

"...Thanks to the morning star?"

"Yes. It might be surprising, but it was the moment I touched this morning star. All my memories came rushing back... I thought it was just that person's obsessive fixation, but I was mistaken. There are so many things I want to apologize for..."

Lowering her eyes in shame, Rem began to recount how her memories returned. Emilia, bewildered by Rem's fervent plea, was flustered, her eyes darting back and forth.

Perhaps it was a matter of timing. —The 'Gluttony' that Al took out from the prison tower, whatever it did, is likely related to the restoration of Rem's 'memory' and 'name.' And that coincided with the moment Rem touched the morning star in the mansion.

That's why Rem is convinced that the morning star awakened her.

"Listen, Rem, I want you to calm down and hear me out..."

"Please don't worry, Lady Emilia. With this morning star, I will definitely become the strength to bring Subaru-kun back. After that, I would like to discuss various things about the Empire and the future..."

With her fist clenched tightly, Rem's determined attitude left Emilia still troubled. Meanwhile, Meili looked at Ram and asked, "Aren't you going to stop her?"

"It can't be helped. Even Ram didn't expect this. —Who would have thought that the tall tales about polishing that thing every day would actually be useful?"

"...I really don't think it's good that I'm the one closest to being sensible here."

Even Ram, who usually wouldn't overestimate the power of the morning star, was lamented by Meili.

In any case, regarding the matter of 'Gluttony,' including the speculative aspects, it is necessary to share it with Rem and the others. It would be best to leave that to Emilia, Petra thought, as she kept the dream collaboration of Emilia and Rem in her peripheral vision and turned to Old Man Rom.

And then—

"Although Brother Clind hasn't brought back the masters yet... we don't have time. We and Old Man Rom are allies, right?"

"—. Yes, that's right. Continuing the royal selection is our consensus."

"Then, please tell me. What Old Man Rom noticed about Al."

Old Man Rom, who joined them on the plains and accompanied them flying to the royal capital, had chosen to act separately from Gaston due to Clind's 'Compression.' He had hinted that he had obtained significant information about Al during a clash while cooperating with Emilia and the others.

With the discussions so far, the Emilia faction and the Felt faction were already in the same boat. Petra urged Old Man Rom that it was time to open up to each other.

In response to Petra's request, Old Man Rom patted his bald head repeatedly,

"This story is going to be quite outlandish and unconventional. I kept it to myself not to be secretive, but because of its reliability."

"It's okay. I trust you, Old Man Rom. I'm sure when you find out, you'll be really surprised, genuinely."

"...You too have become quite an unusual girl, Petra."

Old Man Rom, with his eyebrows lowered, muttered in disbelief, thinking it was just lip service.

However, Petra's words were sincere. She trusted Old Man Rom. She knew that he cherished Felt, who had been taken hostage by Aldebaran and his group, and that he possessed a fatherly nature that would allow him to sacrifice his life without hesitation for Felt's sake.

Therefore, the trust hurdle that Old Man Rom was concerned about had been cleared from the start.

Unaware of Petra's circumstances, Old Man Rom, while noting that Emilia and Rem were still aligning their perceptions, said,

"This is something I should tell Emilia and the others later... but Aldebaran is likely using a cheat ability called an Authority."

"――Authority."

At Old Man Rom's carefully chosen words, 『Subaru』 reacted before Petra did.

『Subaru』 stopped its aerial rotation, tensed its face, and stared intently at Old Man Rom. This reaction from the imaginary Subaru was only natural. Just recently, they had heard it from Clind, but both Petra and 『Subaru』 had a more sinister association with the term Authority.

It was a term used by the Archbishop of 『Sloth』 and the 『Witch of Greed』 who rested in the tomb.

A powerful right that interferes with the nature of this world, overturns concepts, and whimsically rewrites the laws—Manifestation.

The reason Old Man Rom judged that Aldebaran was using it was――,

"――It seems he can turn back time that has already passed. Though it doesn't seem to be for a long period."

△▼△▼△▼△

"――In the end, what is it that I have to do?"

That 『Proposition』, which has been with her since she was small and weak, continues to cling to Felt even now as she is dragged around by Aldebaran's group.

"Damn, it's so annoying."

Scratching her head in frustration, Felt spat out the resentment that had accumulated deep in her gut.

Felt knew that feelings of powerlessness and resignation were of no use in life. Yet, these emotions, which neither quenched her thirst nor filled her stomach, kept rising up in various ways to fill her body and get in the way.

"――Tch."

Clicking her tongue, Felt bit into the dried meat she had been given for dinner, tearing it apart. The overly salty taste clearly dissatisfied her, and she was exasperated at how spoiled she had become.

Only two and a half days since being separated, and already she missed the meals from Flamm and Glacies.

The hearty meals occasionally prepared by Ezzo and Rachins were much better than portable food. Although Reinhard was not allowed to cook because Flamm and the others insisted on the right person for the right job, when he was secretly allowed to make sweets, he was surprisingly skilled.

Unfortunately, both Felt and Old Man Rom's cooking skills were disastrous, and it was a wonder that in nearly ten years of frequenting the stolen goods storehouse, they hadn't died from food poisoning. Perhaps Felt's lack of growth compared to her peers was due to this.

Regardless of the cooking situation in her camp――,

"I can't cook. So, what can I do?"

Lightly licking the salt grains off her fingertips with her tongue, Felt's thoughts returned to the same 『Proposition』 as before, her red eyes narrowing.

Currently, Aldebaran's group was moving from one base to another, focusing on recovering from the exhaustion Aldebaran and the 『Divine Dragon』 suffered in the royal capital. Initially, Felt thought that Aldebaran and his group, having escaped the royal capital, would head straight to their destination, the Great Mogoredo Crater. However, it seemed that simply reaching the location wasn't the goal; they were waiting for the right timing.

However, the rest they needed while waiting for that timing was far from smooth—relentlessly disrupted by Otto Suwen, a ruthless pursuer.

"He's not just someone who can talk to bugs; his divine protection is insanely dangerous. Or rather, it's not the divine protection that's dangerous, but that bug-talking guy himself is the real threat."

Otto, with his laid-back and absent-minded demeanor, was apparently a person of extreme caution.

Ultimately, any divine protection is merely a tool. No matter how splendid a sword one is given, if they lack the strength to wield it, the opportunity and willingness to learn how to use it, and the courage to swing it when necessary, the sword is nothing more than a fine ornament.

Otto had the strength, opportunity, willingness, and courage. —And Felt had to prove that she possessed these qualities too, even without a sword.

"That guy's strategy is all about wearing us down... he's got some nasty ideas."

Thanks to Otto, who seemed to have allied insects, birds, and fish through the 『Divine Protection of Speech』, Aldebaran's group was never allowed a moment of peace and was constantly forced to deal with threats.

The buzzing of insects, the howling of beasts, contaminated water, and tainted food—all these indirect attacks were numerous, making it difficult to secure sleep, causing Felt to have a headache.

However, Felt had already factored in this level of collateral damage as minor. If possible, Felt wanted to use her position accompanying the enemy to mercilessly support Otto's strategy.

"Just holding back the 『Divine Dragon』 is meaningful in its own way, I suppose..."

But that alone wasn't enough, as was made clear by the battle between the 『Divine Dragon』 and the 『Sword Demon』 in the royal capital.

Even if Felt's presence could reduce the 『Divine Dragon』's power by ten percent, the remaining ninety percent was more than enough to unleash disaster-level power—this was the true nature of the 『Divine Dragon』 Volcanica. Considering the possibility that Old Man Rom, who had been defeated once, might challenge Aldebaran's group again, the current situation was insufficient.

This was the 『Proposition』 that the captive Felt had to resist.

"Well, there's one more thing."

Muttering this, Felt turned her gaze to another 『Proposition』 she faced from her position.

"――――"

Across the crackling campfire in front of her sat a man. —No, it wasn't exactly correct to say he was facing her. After all, he kept his face down, not even glancing her way.

Holding a sheathed sword to his chest, he crouched quietly as if dead, exuding an aura of gloom from every part of his being. This red-haired man was Heinkel.

At the entrance of a naturally formed cave in the rocks, Felt and Heinkel were alone, waiting for their companions who had gone to ensure safety and eliminate threats, sharing a gloomy time together.

Supposedly, Heinkel was assigned to monitor Felt, but judging by who was watching whom, it was unclear who was really the observer. His thorough rejection of the outside world, refusing even dried meat for dinner or water, continued to grate on Felt's nerves.

"――――"

Felt declared that she held no measure of good or bad regarding Heinkel's actions. That was no lie, and her opinion hadn't changed—but she did have a measure of like or dislike.

At the very least, having an attitude like a hollow while being alive was something she absolutely detested.

"Hey, if you're not gonna eat that jerky, give it to me."

"――――"

"You can hear me, right? Don't ignore me... hey, whoa."

From the start, Felt tried to use the jerky as a conversation starter, but it was thrown at her as if to say "shut up." Felt hurriedly caught it, but Heinkel didn't even look her way.

Suddenly, it felt ridiculous to have opened her fist, and Felt again called out, "Hey..."

"Why did you butt in back there?"

Bluntly, Felt boldly addressed the reason Heinkel was crouching.

"――――"

Heinkel remained silent, but since he had thrown the jerky, he hadn't completely shut out the outside world. Taking that into account, Felt snorted softly...

"Your old man... it's hard to say. It was a fight between Reinhard's grandfather and the 『Divine Dragon』. I'm not exactly a warrior, so I can't tell who was winning in detail. But you were supposed to be on the 『Divine Dragon』's side, right?"

"――――"

"The fact that you intervened means the 『Divine Dragon』 was in trouble. That's an incredible story in itself, but there's something odd. ――If your goal was the 'Dragon's Blood', it should have been the perfect opportunity when your grandfather seemed likely to win."

"――――"

"Even though you might have gotten the blood if the dragon died, you interfered. Why?"

Taking advantage of the lack of rebuttal, Felt bluntly laid out her words.

As she had said, Heinkel's interference in the battle between the 『Divine Dragon』 and the 『Sword Demon』 was extremely unnatural considering his objectives. Although she considered the possibility of a strong grudge against his father as a motive, Heinkel had asked the dragon to heal Wilhelm, whom he had stabbed, just before flying off with the 『Divine Dragon』.

In other words, Heinkel didn't wish for the death of either the 『Divine Dragon』 or the 『Sword Demon』 in that battle.

"It's too inconsistent. What exactly are you――"

It was at that moment when she was about to continue with "thinking." ――In an instant, she was pinned to the hard ground, and a drawn blade was placed against Felt's neck.

"You're talking too much, kid."

Right in front of her, Heinkel's bloodshot blue eyes were glaring. The smell of blood from his breath, perhaps from biting his mouth, made Felt grimace. Even as she did, Heinkel continued to threaten Felt by sliding the blade,

"If you don't want to get hurt, keep your mouth――gah!?"

Taking advantage of the gap in his threat, Felt unhesitatingly twisted her fist and punched Heinkel in the nose.

"Ugh, ah?" Surprised more by the punch than from the pain, Heinkel's eyes went wide. Felt kicked up at his chest as she got up, looking down at Heinkel who had fallen on his backside.

"There's no way I'd be scared of you now."

Saying that, Felt picked up Heinkel's sword that had fallen nearby. For a moment, Heinkel stiffened, but Felt sighed and tossed the sword back to him. Heinkel, who caught the sword reflexively, widened his eyes, but Felt just shrugged.

He might have wondered why she returned the sword, but for Felt, it was an obvious decision.

Even if Felt fought here, she couldn't beat Heinkel, and if by any chance Heinkel accidentally cut Felt, Yae would be overjoyed, that's for sure. In the first place, leaving Felt and Heinkel alone here made Yae's intentions clear.

If possible, Yae wanted to cut off both Felt and Heinkel. To avoid playing into her schemes, causing a ruckus here wasn't wise. —Not that it's a matter of logic, but Felt also believed it was not her role to beat up Heinkel.

"So, if you're asking if that's Reinhard's role, I have my doubts about that too."

"――"

At the mention of Reinhard's name, Heinkel flinched exaggeratedly again.

It's incredibly unsightly for a man more than twice Felt's age to be so jittery and scared of her words. However, Felt wanted to understand the reason for this unsightliness.

Even if it brought a terribly bitter taste to Felt, she wanted to know.

"You don't have to answer like before. I'll just talk on my own and pick up what I want."

Brushing off the dirt from her clothes after being pushed down, Felt looked up at the sky without waiting for a response. The night sky was peeking through the gaps in the rocks and was filled with inappropriately bright twinkling stars.

Glaring at the ironically beautiful sky, Felt began, "In reality, what bothers me about the fight between 『Divine Dragon』 and Grandpa is everything we talked about earlier. You want the 'Dragon's Blood,' but what you're doing seems inconsistent. And there's another thing that seems inconsistent. ――『Gluttony』."

"――――"

"Let's ignore the fact that he's got the worst personality and a mouth that never stops. Even without that, there's no way to welcome a scumbag like an Archbishop of Sin... but if there's a reason to hate that bastard, you've got way more than I do, don't you?"

Heinkel remained silent, not answering, but his reaction was obvious. Felt narrowed her eyes at Heinkel, who was easy to read even without words.

Released from the prison tower, Roy Alphard, whom Aldebaran deemed necessary for the plan, accompanied the group. The Archbishop of Sin, who had caused countless tragedies, had infinite reasons to be hated and despised, but Heinkel should have had a more clear, absolute reason for hostility.

Because the victimization of Luanna Astrea, Reinhard's mother and Heinkel's wife, was remarkably similar to the victims of 『Gluttony』.

"I've talked about it before, but I know about your... Reinhard's family situation. I know your wife has been asleep for over ten years, and there's no way to wake her up. Well, if you had the 'Dragon's Blood,' that would be solved... but what about settling the score?"

"――――"

"How are you going to settle the score with the bastard who's kept your wife asleep for over ten years?"

After the Crusch Karsten Duke assault incident and the Watergate City Priestella battle, the powers of 『Gluttony』 were revealed, and the existence of the 『Sleeping Beauty』—discovered in a state of sleep that no one around knew about, unable to wake, severed from all connections—was found to be a victim of the Witch Cult.

Naturally, Heinkel should have heard about this. Yet, Heinkel had never shown any interest in 『Gluttony』, who might be the cause of his wife's slumber.

――Is it because obtaining the 'Dragon's Blood' and waking his wife is the top priority?

――Or is it because the shock of stabbing his father with his own hands and being drenched in his blood leaves no room for anything else?

Or perhaps――,

"If you seriously don't have that bastard in your sights, then why?"

"Wa, wait... what are you..."

"I don't need an answer. I told you. I'll just talk on my own and pick up what I want."

Heinkel's hand trembled as he gripped his sword, his face ashen as he looked at Felt. Meeting the gaze of those blue eyes inherited from the Astrea family with his own red eyes, Felt was certain.

In the depths of Heinkel's eyes, there was a feeble yet persistent ember. — It was probably the same kind of passion that resided in Old Man Rom's eyes when he looked at Felt.

"――――"

Heinkel Astrea appeared to be a man who was reckless, self-centered, selfish, ignorant of his own limitations, and utterly contemptible with no redeeming qualities. — Yet, if that faint glimpse of passion at his core was always part of his actions.

"You don't even look at 『Gluttony』 because you know it has nothing to do with your wife falling asleep. You know it's misguided, so you don't point your sword at it. But."

— The case of Luanna Astrea's 『Sleeping Beauty』 is fundamentally different from other 『Sleeping Beauties』.

Unlike other 『Sleeping Beauties』 who are severed from all connections worldwide, Reinhard, Heinkel, and everyone related to Luanna remember her and lament her sleep.

In other words, it's different. Luanna Astrea is not a victim of 『Gluttony』. And Heinkel, knowing this fact, had not communicated it to anyone.

Why? Because it must not be known. — The cause that put Luanna to sleep.

And that cause is —,

"— Reinhard."

"――――"

The widened eyes, the expression that had lost its voice, the breath devoid of life, all became a more eloquent answer than words, reinforcing Felt's conviction.

What she must do. — To know is Felt's current 『Proposition』.

The bitter truth revealed by the resolve and certainty to face that 『Proposition』 is —,

"— Was it Reinhard who put his own mother to sleep?"

NAME MAPPINGS:
ペトラ → Petra
レム → Rem
ラム → Ram
エミリア → Emilia
メィリィ → Meili
スバル → Subaru
クリンド → Crusch
ロム爺 → Old Man Rom
アルデバラン → Aldebaran
ラインハルト → Reinhard
ヴィルヘルム → Wilhelm
ルアンナ・アストレア → Luanna Astrea
フェルト → Felt
オットー・スーウェン → Otto Suwen
ロイ・アルファルド → Roy Alphard
ハインケル → Heinkel
ボルカニカ → Volcanica
『命題』 → 『Proposition』
『神龍』 → 『Divine Dragon』
『暴食』 → 『Gluttony』
『スバル』 → 『Subaru』
『偉いぜ、ペトラ！　よくぞ耐え切った！』 → 『Great job, Petra! You held on well!』
『エミリアたんにもレムにも触れられない俺にご無体すぎる！』 → 『It's too cruel for me who can't even touch Emilia-tan or Rem!』
『怠惰』 → 『Sloth』
『強欲の魔女』 → 『Witch of Greed』
『圧縮』 → 『Compression』
『言霊の加護』 → 『Divine Protection of Speech』
『剣鬼』 → 『Sword Demon』
『眠り姫』 → 『Sleeping Beauty』
モゴレード大噴口 → Great Mogoredo Crater

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