TITLE: Arc 9 - Chapter 43 『True Name』 FROM: JA TO: EN DATE: 2025-08-07 ORIGINAL TEXT: 第九章４３　『真名』 　――神様、仏様、オド・ラグナ様。生涯、子どもと遊ばないと誓います。 　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△ 『例えば、クリンド兄様の持ってる魔女因子を他の人……わたしが使えたら、対価を払わなくても『転移』し放題ってこと？』 　それは、クリンドから『憂鬱』の魔女因子の存在と、『圧縮』の権能との関係について聞かされたとき、ペトラが最初に思いついた悪用法だった。 　クリンドは魔女因子と適合しておらず、結果、『圧縮』の権能を使用するのに対価――代償を支払う必要があるのだと、そう語った。同時に、『憂鬱』の魔女因子は特定の個人のために造られたワンオフ因子で、決してペトラとは適合しないのだとも。 　そのため、『死に戻り』という権能を持った『魔人』ナツキ・スバルと、彼に協力する『魔女』ペトラ・レイテ、なんて特別感のあるタッグは結成前に解散となり、ホッとした反面、残念な気持ちも味わわされたのが本音だ。 　そのまま、『憂鬱』の魔女因子の件は議題の外側に置かれ、クリンドが『圧縮』で味方の合流と、敵との決戦に突入するために用いられることで決着していたのだが――アルの『時間遡行』の権能の発覚と、アル一味を確実に止めるための作戦が練り上げられていく中で、再び『憂鬱』の権能にスポットライトが当たった。 　クリンドは、魔女因子の不適合の結果、対価なしで権能を行使することは不可能と、そうペトラたちに語った。しかし、それは裏を返せば――、 「――対価を払えるんだったら、クリンド兄様じゃない人でも『圧縮』が使えるってことですよね」 　そのペトラの確認に、クリンドは表情を変えなかった。 　それがかえって、ペトラに自分の推測の正しさを確信させる。本気で隠したいなら、クリンドは「思いつきもしなかった」と驚いてみせるべきだったのだ。 「アルさんたちをどうにかするには、全員バラバラにばらけさせるのが絶対必須。アルさん以外だと、一番相手が大変なのは『神龍』様だけど……それはクリンド兄様が何とかしてくれる、でしょ？」 「その点に関しては私も保証できる。クリンドは『神龍』ボルカニカに対する切り札になり得るキーパーソンだーぁとね。使い方、合ってる？」 「――。合ってます」 　作戦会議の過程で、『神龍』を抑え込めると豪語したのがクリンドだった。 　正直、『憂鬱』の魔女因子のことといい、ロズワールと一緒になってどれだけ秘密を隠していたのかと呆れる気持ちもあるのだが、頼もしいに越したことはない。ただし、頼もしいからとクリンドに何でもかんでも甘えるわけにはいかないのだ。 「でも、クリンド兄様が『神龍』様にかかりきりになるなら、『圧縮』で人の出し入れはできなくなっちゃうよね？」 「否定はしません。肯定。無論、私の持てる力を尽くして、全員を戦地へ送り届けることは必ずや果たしますが……」 「ううん。それだと、『圧縮』の強みが死んじゃうと思う。『圧縮』はテレポートみたいに、戦力の出し入れとか入れ替えができるのが一番のポイントだもん」 　クリンドが静かな表情で、しかし確かな熱を込めて誓った言葉は嘘ではないだろう。 　敵陣に、こちらの最大戦力を確実に送り届けられる。それだって破格の成果だ。だが、それ以上を望めるのであれば、望めるだけ望むべき戦いでもある。 「それで、権能の譲渡という話になるわけじゃな。実際、実現可能な案なのか、検討する前に確かめておきたいところじゃが」 「――。それですが。逡巡」 「クリンド兄様、材料は全部、テーブルの上に並べてください」 「――――」 「今は、みんながどんな手札を持ってて、どれならどのくらい使えそうかを話し合う場面だと思うんです。だから、隠し事はなしで」 　言い淀んだクリンドに、ペトラははっきりそう求める。 　彼が語りたがらない理由も、情報を伏せるか悩む理由もわかる。わかるが、この話し合いは王国を、世界を――ナツキ・スバルたちを救うための検討会だ。 　隠し事なしと、そう言ったペトラをメィリィが睨んでいたのはご愛敬。 「……可能か不可能かの話であるなら、可能ではあります。是認。『憂鬱』の魔女因子は私にも適合しておらず、ただ所有しているだけですので。責任」 「だとしたら、持ち主を変えるだけということ？　ハッ！　ずいぶんとお手軽に扱えるものね。クリンドが置き忘れたら大惨事だわ」 「置き忘れるのもそうですが、誰かに盗まれたり、取り上げられたりするのも怖いですね。……そういう意味でも、クリンドが持たされていたのは納得です」 　思いの外、『憂鬱』の魔女因子は危うい状態で管理されていたらしい。 　管理を任されていたのがクリンドで納得という意見に、ペトラも同意だ。常にきびきびと、何事にも如才なく対応するクリンドは管理者にうってつけだったのだろう。 　ただし――、 「そのお役目も、今回は別の誰かに譲った方がいいかも」 「別の誰か……でも、魔女因子って、すごーく危ないものだわ。私、前に『聖域』で見たことがあるの。とても、安全に扱えるものじゃなかった」 「……リスクは、絶対あります。だけど、うまく使えれば……」 「――っ、ペトラちゃん、わたしは反対だからねえ」 　声を尖らせて、一番感情的に反対してくる声に、ペトラは眉尻を下げた。 　メィリィが、ずっとペトラを案じてくれているのはわかるし、嬉しい。なにせ、ペトラは彼女と出会ってすぐの頃、メィリィに自分を好きにならせようとしていたのだ。愛情は殺意を鈍らせる一番の武器になると思った。それが大当たり。 「ちょっと効き目が強すぎちゃったかもだけど」 『言っとくが、俺もメィリィと同意見だぞ。聞かせちゃくれなかったが、ペトラはもうクリンドさんに何かしら払ってる。これ以上ってのは譲歩できねぇ』 　他の誰にも聞こえない幻の声が、ペトラに大事にされている実感をくれる。 　断言しよう。イマジナリースバルはペトラの都合のいい妄想だが、間違いなく本物のスバルであっても、同じことを言ってくれたくらい再現度は高いはずだと。 「ここにフレデリカ姉様もベアトリスちゃんもいなくてよかった」 　メィリィだけでも、ペトラの心をかなりぐらつかせてくれたのだ。 　ここにフレデリカとベアトリスのダブルパンチが追加されたら、ペトラでもノックアウトされてしまったかもしれない。ガーフィールとオットーがいたらどうだったか。ガーフィールは怒って怒鳴るだろうが、オットーはわかってくれそうな気がする。 　どうせ、今だって陣営で一番無茶をしているのがオットーなのだから、ペトラにごちゃごちゃ何かを言う資格なんてないと思うし。 　そんな、幸せな愛されガールであることの自覚を抱きながらペトラは――、 「――ちゃんと、役割分担しましょう。全員が一番、自分の仕事ができるように」 　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△ 　――神様、仏様、オド・ラグナ様。生涯、思い出の場所を訪れないと誓います。 　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△ 　ぎゅっと、懐に仕舞い込んだ四角い箱の感触を確かめながら、ペトラは言葉を弄し、周りを丸め込んで、自分が預かることに成功した『憂鬱』の魔女因子を意識する。 「――集中、しないと」 　そう言葉にすることで、ペトラは正気を保つよう己を強く戒める。――正直今日まで、ペトラは自分が強靭な精神力の持ち主だと思っていた。 『死者の書』を読んでも心を壊さなかったし、想い人が自分にちっともなびいてくれなくても、振り向かせるのを諦めようなどと考えたことが一度もない。この年齢にしては、潜った修羅場や鉄火場も多い方だと自覚している。 　そんなペトラをして、魔女因子がもたらす破壊的な全能感には頭がクラクラする。 「ダメダメ、わたし……スバル、応援して」 『ペトラ、頑張れ！　負けるな！　するなって言ったギャンブルした挙句、それに負けたらあれだぞ！　嫌いになるぞ！』 「じゃあ、絶対負けない……」 　脳内で想い人に励ましてもらい、それで気持ちを立て直すのはかなり末期的な感じがするが、実際に効果があるのだから、想いの力は偉大。 　魔女因子、恋心の前に何するものぞ、だ。 　魔女因子とのせめぎ合いも、究極的にはメンタルの問題なのだから、想いの力が特効薬になるのも自然な話だ。――その薬の効き目は、それによってただの村娘ではいられなくなったペトラが、誰より一番よくわかっているものなのだし。 　故に――、 「――火の八、貴族！　花の三、戦士じゃ！」 　鼓膜を強く打った嗄れ声に、ペトラは目を見開き、奥歯を噛みしめる。 『圧縮』が発動し、ペトラの頭の中で八×八のマス目――シャトランジ盤と同じ区切り方をされた戦場の指定位置に、指定された人材を割り込ませる。 　はたして、瞬く間に戦場に連れてこられたフェルト陣営の二人――フェルトの従者のガストンと、『豚王』と呼ばれる強面の豚人、ドルテロが剛腕を振るい、それぞれ攻撃を仕掛けようとしていた『暴食』とハインケルを殴り飛ばしていた。 「えェ？　ホントにィ？　そんなことあるのォ？」 　軽業めいた挙動でパンチの衝撃をいなしたロイが、その腹立たしい顔を上げて、それまで注目しっ放しだったラムから視線を剥がし、ペトラの方を見る。 　直接戦闘するラムとメィリィ、フラムやグラシスから距離を置いて、戦場の全体を把握する位置にいるペトラと、それを肩に乗せたロム爺を。 「――ペトラちゃん、いつから大罪司教になったの？」 　さすが大罪司教というべきか、魔女因子の在処が感じ取れる――違う、それならもっと早くこのカラクリに気付いたはずだ。たぶん、『圧縮』が権能だと当たりを付けて、誰が一番適切にそれを使える位置にいるか、考えた結果。全然さすがじゃない。 「それ、すごい人聞き悪い。どうせ、人聞きの悪い呼び方するなら、こう呼んで」 　そのロイの洞察力への警戒をおくびにも出さずに、ペトラは自分の胸に手をやり、クリンドから預かった黒い小箱の感触を確かめながら、「べ」と舌を出し、言った。 「――『憂鬱の魔女』、ペトラ・レイテって」 　その肩書きを名乗ることは、大抵の場合は歓迎されない。 　自分で名乗ることはもちろん、他人に言われるのなんて以ての外だ。それは覚悟の有無に拘らず、世界中のあらゆる相手に忌み嫌われる呪いのような称号。 　しかし、ペトラはそれを堂々と、誇らしいものであるかのように名乗ってみせた。 　だって、ペトラの仕える主は『氷結の魔女』で、想い人はそんな魔女に心を寄せる優しくて立派な騎士なのだから。 　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△ 　――神様、仏様、オド・ラグナ様。生涯、美しい花を摘まないと誓います。 　――神様、仏様、オド・ラグナ様。生涯、好物を口にしないと誓います。 　――神様、仏様、オド・ラグナ様。生涯、故郷に帰らないと誓います。 　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△ 　――『憂鬱の魔女』ペトラ・レイテ。 　そう自らを称したペトラの宣言に、ロイ・アルファルドは絶頂感を覚えた。――そこまでやるのかという驚きと、そこまでやってくれたのかという歓びに。 　魔女因子を取り込み、権能の所有者――『魔女』や『魔人』、あるいは大罪司教などと呼ばれる存在に自分からなるなどと、正気の沙汰とは思えない。その、常軌を逸した決断を下せたところに、ロイは彼女たちの手段を選ばぬ周到さ――すなわち、おもてなしの心意気である愛情を強く深く大きく熱く、感じてしまうのだ。 「最ッ高だ……！　出てきてよかったァ！」 　両手を広げ、ロイは歓喜にむせびながら、このもてなしと出会いに感謝する。 『憂鬱の魔女』を名乗った以上、相手の権能が『傲慢』由来というロイの推理は外れた。ただ、『憂鬱』の魔女因子が特別な、誰とも適合しない欠陥品であると、ロイは自分の母を自称する怪物から聞かされたことがあった。『憂鬱』の魔女因子は、その母が欲しがるものの一つだったから、在処を聞けば母はさぞかし喜ぶことだろう。 　もちろん、そんな特別なご馳走、母に一口たりともくれてやる気などないが。 「ひもじい子どもの可愛いワガママなんだから、きっと大目に見てくれるよねえ」 　承認欲求の化身であり、自分を尊重されることを何より愛する母のことだ。 　ロイが母より自分を優先したと知れば、どんな癇癪を起こすかは目に見えていた。 　かつてそんな母の身勝手さがロイは煩わしくて仕方なかったが、今は以前とは少しだけ違った心持ちでいる。――母の身勝手で独りよがりな病的な自己愛さえも、かけがえのない個性だと尊べそうな心持ちが。 「土の六、女王！　陽の六、狩人！　陰の五、貴族！」 　巨人族の老人の指示に呼応し、ペトラの双眸にうっすらと光が宿る。 　実際に光り輝くわけではない。使い慣れない権能の使用に意識を割く結果、力んだ瞬間がわかるようなものだ。普通なら気にする必要のない些細な癖だが、刹那が勝敗を分ける戦いの最中では、それすらも生き死にに直結する情報になる。 　ロイの視界で、ラムと豚人、そして餓馬王に跨るメィリィの姿が消えた。――そして消えると同時に、ロイを三方から囲むように現れ、攻撃を仕掛けてくる。 　そのタイミングが、ペトラの目の光で手に取るようにわかった。 「ハイハイ、ちょっとお邪魔様ッ」 　攻撃が届く寸前、ロイが自分の胸の前で手と手を合わせる。――瞬間、ぎゅっと左右から押された砂山が盛り上がるように大地が隆起し、ラムと豚人の視線をロイから切る。それに二者を任せ、ロイは一番うるさい赤ん坊の泣き声に意識を集中。 　振り向かずとも飛び込んでくる頭の後ろの視界、そこに、メィリィを乗せた餓馬王の骨槍――と、セットで飛ばされてきたギルティラウの怪腕が振るわれる。 　大きく身を傾け、回避、回避、回避を重ね、ロイは舌なめずり。 『圧搾屋』フィグドールは、自分の視界の両端から真ん中までをぎゅっと押し潰す異能を用いた生き埋め専門の殺し屋で、『千面聖女』イエルナは上下左右三百六十度、嘆き悲しむ弱者の涙を見逃さない広い視野と心の持ち主だった。――だが、『魔獣の女王』メィリィの能力も、それらに勝るとも劣らない。 「――――ッッ！！」 　ウルガルムの群れに砂海の餓馬王、『森の漆黒の王』と名高いギルティラウと、次々に魔獣を繰り出してくるメィリィの手腕にロイは感動の息継ぎができない。角の折られていない魔獣を操るメィリィの手口は『記憶』で予習済みだったが、プレアデス監視塔ではその真価の体感はお預けになっていたので、実物が見られて大興奮だ。 「そんな加護持ちに生まれたら、さぞかし波乱万丈な人生だったんじゃァない？　どんな生き方してきたのか、俺たちに教えておくれよォ、メィリィ！」 「……どんな風に生きてきたのか教えてって、それ、前にスバルお兄さんとエミリアお姉さんにも言われたわあ」 「へェ？　それでそれで？」 　餓馬王の骨槍とギルティラウの鋭爪、それを身軽に躱しながら涎を啜るロイを睨み、メィリィが敵愾心と嫌悪に満ちた顔であっかんべーをして、 「さっきの愛がどうとかいうお話もそうだけどお、結局大事なのッて、何を言うかよりも誰が言うかなのよねえ！」 　取り付く島もない真理に、「たはァ！」とロイは返す言葉もない。 　そのロイの後ろで豚人に土の壁が砕かれ、頭上からはまた消えてまた現れたラムが落ちてくる。正面背後頭上、三次元的に囲い込まれたロイの股下と両脇の空間が歪み、歴史の陰に埋もれ、ついには喰われた『魔弄師』ヤルドレイの魔技が発動――炎と氷と土の槍が魔法で生み出され、瞬時の照準を定める。 　狙いはメィリィと豚人、そしてラム――が、いない。 「何度もラムを見失って。捨てたら？　その両目」 　――いた。ほとんど抱き着くような至近距離に、ラムの細身が現れる。 　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△ 　――神様、仏様、オド・ラグナ様。生涯、人前で泣かないと誓います。 　――神様、仏様、オド・ラグナ様。生涯、誰かの涙を拭わないと誓います。 　　　　　　　　　　　　　　　　△▼△▼△▼△ 「『憂鬱の魔女』ォ……ッ！」 　――『圧搾屋』×『千面聖女』×『魔弄師』。 　かけ合わせた新たな理外人たちの力さえ上をいかれ、多角的に迫る三者、それが誰の手によるものなのかを知るロイの喉が高く鳴った。 　声を震わせたのは怒りではない。歓喜だ。躍動に、心のバタバタが止まらない。 　そのバタバタ任せに、ロイは一度照準した三属性の槍を再照準、お互いをぶつけ合わせ、生じた爆風と水蒸気により、たまらずラムたちも場の仕切り直しを――、 「――な」 「傷を負わないために『転移』すると思った？」 　視界を覆い、『憂鬱』の権能による『転移』を強制するはずだった熱い蒸気が力任せに引き裂かれ、その向こうから薄紅の瞳の主が飛び出してくる。 　火傷必須の熱波に頭から突っ込んでくる姿勢に、あえて傷を負うという選択肢を頭から消していたロイは虚を突かれた。すぐさま、『跳躍者』の『転移』を用い、ロイ主導で強引な仕切り直しを行う選択肢が生まれる。――だが、 「――最ッ高ッ！」 　その敵の天晴れさを認めた瞬間、ロイ・アルファルドの『悪食』が覚醒する。 　快哉の叫びが頭の中で弾け、ロイの脳内に無数の選択肢が枝分かれして光り輝いた。 　蓄えた『記憶』の宝庫を開放し、雑多に放り込まれた無数の宝の中から輝くものを、今この瞬間の出番を待ちわびている眠れる財貨の産声を求める。 　――目下、最大の焦点は『蝕』を失敗させたもてなしの正体だ。 「――――」 『記憶』を喰らわんと魂に手を伸ばした相手、ラムへの『蝕』にロイは失敗した。 　だが、彼女は間違いなくラムだ。それは喰らいたてほやほやの『記憶』からも明らかで、『記憶』の出所は彼女をラムと呼び、それ以外の周囲も彼女をラムと呼び、何なら彼女本人も一人称はラムであったくらい、徹底的に彼女はラムだった。 　にも拘らず、ラムという名前で『蝕』の発動条件はクリアできなかった。このケースで、最も『蝕』を失敗させる可能性が高いのは――、 「――真名の、変更ッ」 『蝕』に必要なのは、オド・ラグナの管理する魂の名簿から対象を掠め取る用意だ。故に対象の名前は、オド・ラグナがこれだと記銘したものでなくてはならない。 　多くの場合、それは出生時の名付けの際に行われる誓願――その祈りが届いたとき、大いなる虚頭とでもいうべきオド・ラグナに真名は記銘されるのだ。 　基本的に、一度定まった真名は、本人の自認がどうであろうと変更されない。その変更をオド・ラグナが認める、数少ない例外は――、 「――ラム・メイザース」 「――っ」 　蒸気を突き破り、こちらに一撃を届かせようとするラムに、ロイは先に触れた。 　真名変更の最多の理由は『婚姻』によるもの。――そしてラムは、メィリィに自分を奥様と呼ばせた。『記憶』からも、ラムが誰を想っているかは疑う余地もない。 　これだと確信し、ロイは薄紅の瞳を見開くラム――否、ラム・メイザースの魂に『蝕』を発動、その『記憶』を喰らい、彼女を余すところなく理解しようと、 「イタダキマ――ぶえ」 　瞬間、開いた口に汚物を詰め込まれたような感覚に、ロイが目を剥く。 　それは『蝕』の失敗の証、全身が激しい拒絶感に震え、ご馳走を迎えるはずだった心構えを内から引き裂かれたロイの思考が理不尽な疑問に支配された。 　何故、どうして、理解が、結婚、ラム、真名、妹想い、趣味が悪い、辺境伯、一途、意地が悪い、優秀、頼りになる、趣味だけ悪い、意地も悪い、結婚、情熱――。 「――オットーの『記憶』を覗いたの？　馬鹿ね」 「ぁ――？」 「こんな緊急事態にかこつけて、ラムがロズワール様の伴侶に収まるとでも？　――本当にラムを知っているなら、しなかった勘違いでしょうね」 　唇を薄く綻ばせたラムの嘲笑に、ロイは理解する。 　あえて奥様と呼ばせたのも、身内の『記憶』を頼りに誤った結論に導くためのミスリード――事実、ロイはローリスクの『跳躍者』の選択肢を省いて、喰らえると確信したハイリターンなラムの魂に舌を伸ばしてしまった。 『記憶』を、オットー・スーウェンを喰らっていなければ、しなかった判断で。 「オットーの分よ、一応」 　そう告げたラムの風を纏った拳と、豚人の岩のような拳骨、さらには爆熱を纏った燃える骨槍と凶獣の剛腕が同時に、ロイ・アルファルドに突き刺さった。 TRANSLATED TEXT: Chapter 9-43: "True Name" ――Oh God, Buddha, Odo Lagna. I swear never to play with children in my life. △▼△▼△▼△ "For example, if I could use the Witch Factor that Clind has, wouldn't that mean I could use 'Teleportation' as much as I want without paying a price?" This was the first misuse that Petra thought of when she was informed by Clind about the existence of the Witch of Melancholy's Witch Factor and its relation to the Authority of 'Compression'. Clind explained that he was not compatible with the Witch Factor and, as a result, needed to pay a price—a compensation—to use the Authority of 'Compression'. At the same time, he mentioned that the Witch of Melancholy's Witch Factor was a one-off factor created for a specific individual and would never be compatible with Petra. Therefore, the special duo of 'Demon' Natsuki Subaru, who possessed the Authority of 'Return by Death', and the 'Witch' Petra Leyte, who would cooperate with him, was dissolved before it could be formed. While relieved, Petra also felt a tinge of disappointment. Thus, the matter of the Witch of Melancholy's Witch Factor was set aside, and it was decided that Clind would use 'Compression' to unite allies and engage in decisive battles with enemies. However, with the revelation of Al's Authority of 'Time Reversal' and the strategy being developed to surely stop Al's group, the spotlight once again shone on the Authority of Melancholy. Clind told Petra and the others that due to his incompatibility with the Witch Factor, it was impossible to use the Authority without compensation. However, on the flip side— "If someone can pay the price, then even someone other than Clind could use 'Compression', right?" To Petra's confirmation, Clind's expression remained unchanged. This, in turn, convinced Petra of the correctness of her assumption. If he truly wanted to hide it, Clind should have feigned surprise and said, "I never even thought of that." "To deal with Al and his group, it's absolutely essential to scatter them all. Aside from Al, the most troublesome opponent is the 'Divine Dragon', but... Clind, you'll handle that, right?" "In that regard, I can assure you. Clind is a key person who could become a trump card against the 'Divine Dragon' Volcanica. Is that usage correct?" "—. Yes, it is." During the strategy meeting, it was Clind who boldly claimed he could suppress the 'Divine Dragon'. Honestly, considering the matter of the Witch of Melancholy's Witch Factor and how many secrets he might have been hiding with Roswaal, it's a bit exasperating, but it's reassuring nonetheless. However, just because he's reliable doesn't mean they can rely on Clind for everything. "But if Clind is fully occupied with the 'Divine Dragon', then he won't be able to use 'Compression' to move people in and out, right?" "I won't deny it. Affirmative. Of course, I will do my utmost to ensure everyone is delivered to the battlefield, but..." "No, I think that would kill the strength of 'Compression'. The main point of 'Compression' is that it can be used like teleportation to deploy and swap out forces." Clind's words, spoken with a calm expression but with a definite fervor, were no lie. Delivering our maximum strength to the enemy's camp is an exceptional achievement. However, if more can be desired, this is a battle where one should desire as much as possible. "And so, it comes to the discussion of transferring the Authority. Before examining whether it's a feasible plan, it's something I'd like to confirm." "—. About that. Hesitation." "Clind, please lay out all the materials on the table." "――――" "I think this is the time to discuss what cards everyone has and how much we can use them. So, no secrets." Petra clearly demanded this from Clind, who hesitated to speak. She understood why he was reluctant to talk and why he was debating withholding information. She understood, but this discussion was a meeting to save the kingdom, the world—Natsuki Subaru and the others. Meili glaring at Petra, who said no secrets, was a charming touch. "If it's a matter of whether it's possible or not, it is possible. Affirmative. The Witch of Melancholy's factor does not suit me either; I merely possess it. Responsibility." "So, you're saying it's just a matter of changing the owner? Ha! That's quite a convenient thing to handle. If Clind forgets it somewhere, it would be a disaster." "Besides forgetting it, it's also scary if someone steals it or takes it away. ...In that sense, it's understandable that Clind was entrusted with it." Apparently, the Witch of Melancholy's factor was managed in a precarious state. Petra also agreed with the opinion that it was understandable Clind was entrusted with its management. Clind, who always responded promptly and adeptly, was likely the perfect manager. However――, "It might be better to pass that role to someone else this time." "Someone else... but the witch factor is extremely dangerous. I've seen it before in the Sanctuary. It wasn't something that could be handled safely." "...There are definitely risks. But if used well..." "――Petra-chan, I'm against it, okay?" Petra lowered her eyebrows at the most emotionally opposed voice. She understood and was happy that Meili had been concerned about her all along. After all, when Petra first met her, she tried to make Meili like her. She thought affection was the best weapon to dull murderous intent. It was a big hit. "Maybe it worked a bit too well." 'I'll tell you, I'm of the same opinion as Meili. You didn't let me hear it, but Petra has already paid Clind something. I can't concede any more.' The phantom voice that no one else could hear gave Petra a sense of being cherished. Let me declare. The imaginary Subaru is a convenient fantasy for Petra, but even the real Subaru would have said the same thing, the level of accuracy is that high. "I'm glad Frederica and Beatrice aren't here." Even just Meili was enough to shake Petra's heart considerably. If Frederica and Beatrice's double punch had been added, Petra might have been knocked out. What if Garfiel and Otto were here? Garfiel would probably yell in anger, but Otto might understand. After all, even now, Otto is the one doing the most reckless things in the camp, so he has no right to say anything to Petra. With the awareness of being such a happily loved girl, Petra――, "――Let's properly divide the roles. So everyone can do their job best." △▼△▼△▼△ ――God, Buddha, Odo Lagna. I swear never to visit the place of memories in my lifetime. △▼△▼△▼△ While confirming the feel of the square box tucked snugly in her bosom, Petra played with words, persuading those around her, and successfully took custody of the Witch of Melancholy's factor. "――I need to focus." By voicing it, Petra strongly admonished herself to stay sane. ――Honestly, until today, Petra believed she possessed a strong mental fortitude. Even after reading the Book of the Dead, her mind remained intact, and despite her beloved showing no interest in her, she never once considered giving up on making him turn her way. She was aware that she had faced more than her fair share of trials and fiery situations for someone her age. Yet, even Petra found herself dizzy from the destructive omnipotence brought by the witch factor. "No, no, I can't... Subaru, cheer me on." "Petra, hang in there! Don't lose! If you gamble when I told you not to, and then lose, that's it! I'll dislike you!" "Then, I absolutely won't lose..." Though it felt quite desperate to rely on her beloved's encouragement in her mind to regain her composure, the fact that it actually worked showed the greatness of the power of love. What is a witch factor before the power of love? The struggle with the witch factor ultimately boiled down to a mental issue, so it was only natural that the power of love would serve as a special remedy. ――Petra, who could no longer remain just a village girl because of it, understood better than anyone the efficacy of that remedy. Therefore――, "――Fire Eight, Noble! Flower Three, Warrior!" At the raspy voice that struck her eardrums, Petra widened her eyes and clenched her back teeth. Compression activated, and in Petra's mind, the designated personnel were inserted into the specified positions on an eight-by-eight grid battlefield, divided like a chessboard. Indeed, in the blink of an eye, two members of Felt's camp were brought to the battlefield――Gaston, Felt's attendant, and Doltero, the stern pigman known as the King of Pigs, wielded their mighty arms, each striking at Gluttony and Heinkel, who were attempting to attack. "Eh? Really? Is that even possible?" Roy, who deflected the punch's impact with acrobatic movements, raised his irritating face, peeled his gaze away from Ram, whom he had been fixated on, and looked towards Petra. Petra, positioned to oversee the entire battlefield, distanced from the direct combat involving Ram, Meili, Flamm, and Glacis, along with Old Man Rom perched on her shoulder. "――Petra-chan, since when did you become a Sin Archbishop?" As expected of a Sin Archbishop, he could sense the presence of the witch factor――no, if that were the case, he would have realized this trick much earlier. Probably, he deduced that Compression was an authority and considered who was best positioned to use it effectively. Not impressive at all. "That's a terrible thing to say. If you're going to call me something terrible, then call me this." Without showing any sign of wariness towards Roy's insight, Petra placed her hand on her chest, confirming the feel of the black box entrusted to her by Clind, stuck out her tongue, and said, "――The Witch of Melancholy, Petra Leyte." Claiming such a title is usually unwelcome. Introducing oneself with it, let alone being called it by others, is utterly out of the question. Regardless of one's readiness, it is a cursed title despised by everyone around the world. However, Petra boldly and proudly claimed it as if it were something to be proud of. After all, the master Petra served was the Witch of Frost, and her beloved was a kind and noble knight who had feelings for such a witch. △▼△▼△▼△ ――God, Buddha, Odo Lagna. I vow never to pick a beautiful flower in my lifetime. ――God, Buddha, Odo Lagna. I vow never to taste my favorite food in my lifetime. ――God, Buddha, Odo Lagna. I vow never to return to my homeland in my lifetime. △▼△▼△▼△ ――'Witch of Melancholy' Petra Leyte. Upon hearing Petra's self-proclaimed declaration, Roy Alphard felt a sense of ecstasy. The surprise at the extent she would go to, and the joy that she went that far. To voluntarily become a possessor of the witch factor, known as a 'Witch,' 'Demon,' or even a Sin Archbishop, seemed insane. Roy was deeply moved by their meticulousness in choosing means, which he interpreted as a form of hospitality—an expression of love that was strong, deep, large, and passionate. "This is the best...! I'm so glad I came out!" Spreading his arms wide, Roy expressed his gratitude for this hospitality and encounter, overwhelmed with joy. Since she claimed the title of 'Witch of Melancholy,' Roy's theory that her authority derived from 'Pride' was proven wrong. However, Roy had heard from a monster claiming to be his mother that the witch factor of 'Melancholy' was a special, defective item that didn't match anyone. Since the 'Melancholy' witch factor was one of the things his mother desired, she would surely be delighted to hear of its whereabouts. Of course, he had no intention of giving even a single bite of such a special treat to his mother. "It's just the cute whim of a hungry child, so I'm sure she'll overlook it." His mother, an embodiment of the desire for approval, loved being respected above all else. Knowing that Roy prioritized himself over his mother, it was clear what kind of tantrum she would throw. In the past, Roy found his mother's selfishness unbearably annoying, but now he felt slightly different. He could almost respect even her selfish, egotistical, pathological self-love as an irreplaceable individuality. "Earth Six, Queen! Sun Six, Hunter! Moon Five, Noble!" Responding to the instructions of the giant elder, a faint light appeared in Petra's eyes. They didn't actually glow. It was just that the moment of tension was noticeable due to the focus required to use the unfamiliar authority. Normally, such a trivial habit wouldn't matter, but in a battle where every moment could determine life or death, even that became crucial information. In Roy's view, Ram, the pigman, and Meili riding the starving horse king disappeared. And as they vanished, they reappeared surrounding Roy from three sides, launching their attack. The timing was as clear as day from the light in Petra's eyes. "Alright, pardon me for a moment!" Just before the attack landed, Roy clasped his hands together in front of his chest. Instantly, the ground rose as if a sandcastle was being squeezed from the sides, cutting off Ram and the pigman's line of sight from Roy. Leaving those two to their own devices, Roy focused his attention on the loudest crying baby. Without turning around, his rear vision caught the bone spear of the starving horse king carrying Meili—and the monstrous arm of Guiltylow that was sent flying as a set. Tilting his body significantly, Roy dodged, dodged, and dodged again, licking his lips. The 'Squeezer' Figdoll was a hitman specializing in burying people alive, using an ability that compressed everything from the edges of his vision to the center. The 'Thousand Faces Saint' Yerna possessed a wide perspective and a heart that never overlooked the tears of the lamenting and grieving weak. However, the abilities of the 'Queen of Beasts' Meili were no less impressive. "――――!!" Roy was breathless with admiration at Meili's skill as she unleashed wave after wave of beasts, including a pack of Urgarms, the King of the Desert Horses, and the renowned 'Black King of the Forest,' Guiltylow. Though Roy had studied Meili's method of controlling beasts without broken horns through 'Memory,' he had not been able to experience its true value at the Pleiades Watchtower, so seeing it in person was thrilling. "If you were born with such a blessing, your life must have been full of ups and downs, right? Tell us how you've lived, Meili!" "…You want to know how I've lived? Subaru and Emilia asked me that before." "Oh? And then what?" While dodging the bone spear of the King of the Desert Horses and the sharp claws of Guiltylow, Roy slurped his drool and glared at Meili, who stuck out her tongue with a face full of hostility and disgust. "Like that talk about love earlier, in the end, what's important isn't what is said, but who says it!" Faced with this undeniable truth, Roy had no words to respond with a "Taha!" Behind Roy, the wall of earth was shattered by a pigman, and above him, Ram, who had disappeared and reappeared, was falling. The space beneath Roy's legs and under his arms, surrounded three-dimensionally from the front, back, and above, distorted. The magical technique of the 'Magic Manipulator' Yardley, who was buried in the shadows of history and ultimately devoured, was activated—spears of fire, ice, and earth were created by magic and aimed in an instant. The targets were Meili, the pigman, and Ram—but Ram was not there. "How many times will you lose sight of Ram? Why not discard those eyes?" —There she was. At an almost embracing distance, Ram's slender figure appeared. △▼△▼△▼△ —God, Buddha, Odo Lagna. I vow never to cry in front of others in my lifetime. —God, Buddha, Odo Lagna. I vow never to wipe someone's tears in my lifetime. △▼△▼△▼△ "Witch of Melancholy…!" —'Squeezer' × 'Thousand Faces Saint' × 'Magic Manipulator.' Even the power of these newly combined outsiders was surpassed, and Roy, knowing whose hand was behind the multifaceted approach of the three, let out a high-pitched sound from his throat. The trembling in his voice was not from anger. It was from joy. His heart fluttered with excitement. Riding that flutter, Roy re-aimed the three-element spears he had once targeted, causing them to collide with each other, and the resulting explosion and steam forced Ram and the others to reset the scene— "—Na." "Did you think I would 'Teleport' to avoid injury?" The hot steam that was supposed to cover the view and forcibly trigger 'Teleportation' through the authority of 'Melancholy' was torn apart with brute force, and from beyond it, a figure with pale pink eyes emerged. Roy, who had erased the option of deliberately taking damage from his mind, was caught off guard by the figure diving headfirst into the scorching heatwave. Immediately, the option to forcibly reset the scene using 'Jumper's' 'Teleportation' under Roy's lead emerged. —However, "—Amazing!" At the moment he acknowledged the enemy's brilliance, Roy Alphard's 'Voracity' awakened. A shout of delight burst in his head, and countless options branched out and shone brightly in Roy's mind. Unleashing the treasure trove of stored 'Memory', seeking the shining piece among the myriad of haphazardly thrown treasures, and yearning for the birth cry of the dormant wealth waiting for its moment now. ――Currently, the biggest focus is the identity of the hospitality that caused the failure of the 'Eclipse'. "――――" The opponent who reached out to devour the 'Memory' of the soul, Roy Alphard failed in the 'Eclipse' on Ram. However, she is undoubtedly Ram. This is evident from the freshly devoured 'Memory', where the source calls her Ram, everyone around her calls her Ram, and even she herself refers to herself as Ram, thoroughly establishing her as Ram. Nevertheless, the activation condition of the 'Eclipse' could not be cleared with the name Ram. In this case, the most likely reason for the failure of the 'Eclipse' is――, "――Change of true name!" What is needed for the 'Eclipse' is the preparation to snatch the target from the soul registry managed by Odo Lagna. Therefore, the target's name must be the one inscribed by Odo Lagna. In most cases, this is done during the naming at birth—a vow made when the prayer reaches the great void, Odo Lagna inscribes the true name. Basically, once a true name is set, it is not changed regardless of the person's self-recognition. The few exceptions where Odo Lagna acknowledges a change are――, "――Ram Mathers" "――" Breaking through the steam, Roy touched Ram, who was trying to deliver a blow. The most common reason for a true name change is 'marriage'. ――And Ram had Meili call her madam. From the 'Memory', there is no doubt about who Ram is thinking of. Convinced of this, Roy activated the 'Eclipse' on the soul of Ram――no, Ram Mathers, who widened her pale pink eyes, intending to devour her 'Memory' and understand her completely, "Ita-da-ki-ma――bue" In that instant, Roy's eyes widened at the sensation of having filth stuffed into his open mouth. That was proof of the 'Eclipse' failure, his entire body trembling with intense rejection, and Roy's thoughts, which were supposed to welcome a feast, were torn apart from within by unreasonable doubts. Why, how, understanding, marriage, Ram, true name, sisterly love, bad taste, margrave, single-minded, bad-tempered, excellent, reliable, only bad taste, also bad-tempered, marriage, passion――. "――Did you peek into Otto's 'Memory'? Fool." "Ah――?" "In this emergency, did you think Ram would settle as Roswaal-sama's partner? ――If you really knew Ram, you wouldn't have made such a mistake." At Ram's thinly smiling ridicule, Roy understood. Having her called madam was a deliberate mislead to guide to a wrong conclusion based on the 'Memory' of a relative――in fact, Roy skipped the low-risk 'Jumper' option and extended his tongue to the high-return soul of Ram, which he was convinced he could devour. A judgment he wouldn't have made if he hadn't devoured Otto Suwen's 'Memory'. "For Otto's share, just in case." With that said, Ram's wind-clad fist, the pigman's rock-like fist, and furthermore, the burning bone spear wrapped in explosive heat and the beast's mighty arm simultaneously pierced Roy Alphard. NAME MAPPINGS: オド・ラグナ → Odo Lagna ボルカニカ → Volcanica ギルティラウ → Guiltylow 『憂鬱の魔女』 → Witch of Melancholy 『死者の書』 → Book of the Dead 『転移』 → Teleportation 『圧縮』 → Compression 『神龍』 → Divine Dragon 『時間遡行』 → Time Reversal 『魔人』 → Demon 『豚王』 → King of Pigs 『暴食』 → Gluttony 『悪食』 → Voracity 『跳躍者』 → Jumper 『蝕』 → Eclipse 『圧搾屋』 → Squeezer 『千面聖女』 → Thousand Faces Saint 『魔弄師』 → Magic Manipulator 『森の漆黒の王』 → Black King of the Forest 『氷結の魔女』 → Witch of Frost 『記憶』 → Memory クリンド → Clind ペトラ → Petra ナツキ・スバル → Natsuki Subaru アル → Al ロズワール → Roswaal メィリィ → Meili フレデリカ → Frederica ベアトリス → Beatrice ガーフィール → Garfiel オットー → Otto フェルト → Felt ガストン → Gaston ドルテロ → Doltero ロイ・アルファルド → Roy Alphard ラム → Ram 『聖域』 → Sanctuary Exported from TranslAItion